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「石鹸は自分の子供みたいなもの」 桶谷石鹸株式会社 代表取締役 桶谷正廣さん

昔ながらの釜炊き鹸化法(かまだきけんかほう)と言う、人にやさしい、環境に配慮した、安全で高品質の製品を作り続ける桶谷正廣さんにお話しをお伺いしました。

プロフィール
出身地:大阪市
活動地域:大阪府
経歴:大学卒業後桶谷石鹸入社
現在の職業および活動:石鹸製造業
座右の銘:人事を尽くして天命を待つ

「すべての日本の方に自分がつくった石鹸を一回でも使って欲しい」

Q.どのような夢やビジョンをお持ちですか?

桶谷正廣さん(以下、桶谷 敬称略):すべての日本の方に自分がつくった石鹸を一回でも使って欲しいです。
料理でも食べて「美味しかった」と、見て「美味しそうですね」は違うように、実際に使ってくれた方々の感想を聞いて、その方たちが納得できる品物をつくれたらと思っています。

それと、いろんな油を入れて世の中に絶対できない石鹸をつくってみたいです。

うちは古来伝統の釜炊き製法の石鹸製造ですが、一昔前は固形石鹸は桶谷さんとか、液体石鹸は〇〇さんという感じでした。昔の製法でやっている業者さんとお会いして石鹸談義をしたいです。きっとプラスになることがあると思います。


「日々努力、石鹸は自分の子供みたいなもの」

Q.それを具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?

桶谷:日々努力です。
昔は社長として外に出たこともありましたが、中に入れば一職人です。今は8割職人業で2割が社長業です。石鹸をつくるのが楽しいです。

今までも毎日が努力でした。
日本は春夏秋冬があり温度や湿度が違います。その日にどのように対応するかということと、油も仕入れた時から状態が変化していきますから、油のことも考えなくてはなりません。

人間と同じで石鹸になっていく時も、喜怒哀楽があります。
難しい顔をしている時もあります。僕にとって石鹸は自分の子供みたいなものです。
この子をどのようにして大人にしようか。表情を見ながら難しい顔をしている時、怒っている顔もあるし、今日は俺の思った通りにいい顔しているねって時もあります。

記者:褒めたり、なだめたりとかする感じですか?

桶谷:その通りです。上から目線で怒るのと、同じ目線で怒るのとでは違います。だからいつも低姿勢にならなくてはなりません。「ここは」という時には勝負しないとなりません。人生とよく似ています。その時、その時の対応です。

この技術は教えてくれません。季節や油の状態が変わるので一概に言えないのです。言葉にしにくいのですが、状況によって匂いや音、味も変わってきますから5感覚をフル活用します。これは自分で学ぶしかありません。最初は、先代の親父が実の息子になんで教えてくれないのかと思っていましたが、この歳になって何故なのかが分かってきました。


「自分にしかつくれない石鹸をつくる」

Q.どのような活動指針を持って、基本活動をしていますか?

桶谷:自分にしかつくれない石鹸をつくることです。
修業時代に親父さんに「誰でもつくれる石鹸をつくるのではいかん、お前にしかつくれない石鹸をつくれるのがお前だ」と言われました。
その代り自分で悩めと言われました。

記者:何年くらいしたら分かってくるものでしょうか?

桶谷:今でも分かりません。つくれることはつくれますが。これだというのは分かりません。無限の可能性があります。
周りから素晴らしいとか言われるのは本当に有難いですが、そこに留まることなく、もっといいのができるだろう、もっと奥が深いと思っています。

僕の大先輩が工場長をやってくれいていますが、その人と「何でこうなるのだろう」と2人で話しています。

油もみんな特徴があります。熱の高いのが好きな子と熱の低いのが好きな子がいます。石鹸を炊いている時、それを見分けながらイメージしたら面白いです。例えば動物油は割と熱に強く、植物油は熱に弱いです。それを合体させる時に熱を下げて植物油を入れ上げてから動物油を入れるか、逆からいくかとか、こんなこと考えていたら楽しくて眠ることができません。

記者:毎日がロマンみたいですね。

桶谷:僕と工場長の話は石鹸をみて、「今日は機嫌が悪そうですね」とか、「熱を下げときましょう」とか、普通の人が聞いたら意味が分からない会話をしています(笑)

記者:愛情を込めた子供のような石鹸がいろんな人のところにいくのは嬉しいですよね。

桶谷:そうですね。泡とか洗浄力など使う人のイメージをします。
石鹸は薄くなってくると水分を含むので、能力が無くなっていきますが薄くなったら新しい石鹸とくっつければ使えます。使命をまっとうして欲しいと思っています。
それに抵抗があったら「燃やしてくれ」と言います。人間でも死んだら燃やします。人間も脂肪酸があるので燃えますが、それと同じで石鹸も燃やしてあげたら一番喜ぶと思っています。ちょっと変わっているでしょう(笑)

石鹸にとっては高温多湿が一番よくなく、風通しがよくて直射日光が当たらないところがいいです。うちのは特に防腐剤とか一切入れないのでなおさらです。
人間は汗で10%出た水分を全部口から取れません。あとは皮膚が呼吸しているから汗が皮膚の中に入っていきます。それと同じで石鹸も涼しいところに行ったら自分で水分を吸いこみ元に戻ります。

人間も水分が無いとなりませんが、石鹸も同じです。普通は9.5%、桶谷は18%です。
手作りの石鹸は水分が多いから、崩れやすいと思われやすいですが実は逆です。石鹸は弱アルカリで水分が大好きです。最初の間は堅いのですが、水分は吸い込んでどろどろになっていきます。うちの石鹸はもともと水分を持っているので、いらないものは蒸発させてしまいます。だから溶け崩れにくいのです。

ある方と石鹸の話をした時に「怒るかもしれないけれど、桶谷さんは石鹸バカですね」と言われましたが、僕は嬉しかったです。自分でもそう思っているので(笑)

いつの間にか大嫌いなものが大好きになった

Q.今のお仕事をするようになったきっかけは何でしょうか?

桶谷:昔は石鹸が嫌いでした。憎かった訳ではありませんが臭かったし、何とか逃げる方法を考えていました。
しかし、20代後半で大正2年生まれの親父さんの下に入って厳しく指導されました。
その時に、この親父さんに文句を言わせない方法は何か?と考えるようになりました。職人は腕の世界ですから、何とか親父さんの腕を盗んでやろうと思っていました。憎んだ訳ではありませんが言うことを聞きながら、いつかは親父さんを抜いてやろうと思っていました。同等になったら人前で怒られることもありませんから。

20代後半になりそれまでは親父さんと工場長が何かあったら助けてくれていましたが、明日からお前が一人でやれと言われ、生まれて初めて石鹸を炊かせてもらった時、足が震えたのを今でも覚えています。

そして僕が34歳の時に親父さんが亡くなりました。
自分が代表者になった以上は親父さんを超えようと本気で思いました。
その前から任されていたけど、だんだん親父さんが厳しく言っていたことが分かってきたのがつい最近です。何かあった時に親父さんはこれを言っていたのかと走馬灯のように頭の中に浮かんできます。
これは自己満足かもしれませんが、こういう石鹸つくれてよかったと思えるようになった時、楽しくなってきました。
いつの間にか大嫌いなものが大好きになったのは、自分でもおかしいです 。ミイラ取りがミイラになりました(笑)


「日々発見、盗むこと」

Q.今のお仕事をするようにきっかけから、どのような気づきや発見がありましたか?

桶谷:日々発見、何でも興味を持つことです。
根性が座わり、何事においても盗む習慣が身につきました。
「桶谷さん負けず嫌いですね」とよく言われますが、自分ではそれは違うと思っています。いろんなことに興味を持って同じ人間なのに、あの人はうまくいっているのに何故、自分が下手なのかを考えます。やった以上は自分もできるだろうというだけで、その人に勝ちたい訳ではなく盗みたい方で、負けてもいいです。盗んだ結果、その人に勝つことがある時に負けず嫌いと言われるだけと思っています(笑)。

趣味でも仕事でもシンプルに物事を考え、初心に戻ることを忘れないようにしています。集中すると物事の深いところが洞察でき、いつもにはない力が発揮される気がします。

仕事で盗ませてくれたから、それがいつの間にか身についていました。
親父さんに「盗む世界」だと言われました。一番感謝することは盗ませてくれたことです。


Q.読者の方に向けて一言お願いします。
桶谷:自分に自信を持つことは大切だと思います。
それと自分のやっていること以外にも、いろんなところに目を向けていたら絶対自分にプラスになると思います。
これからの日本を背負う方々は特にいろんなことに興味を持って質問をすることや、相手が言ったことに対して自分に何か一つこれだと思ったものをプラスアルファして残していきけば引き出しが多くなります。
引き出しが多ければ、おばちゃんだろうがおじいちゃんだろうが、大人だろうが、子供だろうが、赤ちゃんだろうがいろんな方と喋れる魅力的な人間になれるのではないでしょうか。

記者:関心を広げ、いろんな方とコミュニケーションを取り、関係性が築ける人は魅力的ですね。とても大切なことだと感じました。
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桶谷さんの活動、連絡については、こちらから↓↓
HP:https://www.oketanisoap.co.jp/

【編集後記】
インタビューの記者を担当した川名と小畑と所です。
ここでは書ききれない沢山のエピソードをお話して下さいました。
石鹸を自分の子供のように愛し、日々努力を続ける姿や石鹸をはじめ、人や日常の些細な変化に気付き喜びを見出す柔軟性に感動しました。
桶谷さんのますますのご活躍を楽しみにしております。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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