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構図を考える2

四角いフレームで切り取ることによって主題が明確になり、さらに主題が安定した方向へ引っ張られる引力の話をしましたが、今回は主題そのものが持つ「移動しようとする力」について考えていきます。
トイプードルのアリスは前に歩く動物です。(バックもしますが)このような物体には移動しようとする「物体の方向性」を持っています。

右向きのアリスを左に配置

右を向いたアリスを左側に配置した構図です。アリスが右側へ歩きだそうな感じがします。このアリスを右側に配置するとどう感じるか?

右向きのアリスを右に配置

アリスが右側の壁に顔を向ける構図です。右側の壁に抑えられこれ以上右側には動けません。左側から移動したアリスが外を眺めている、それともケージの中でご飯を待ってるように見えます。どちらにせよ、アリスは止まっていて動く気配はありません。不安定な構図だからこそ、見る人にいろんなことを考えさせ心理状況に影響を与える思います。
このように物体そのものが持つ「物体の方向性」と「空白の引力」によってこの構図が構成されています。
次にアリスを左向きにするとどうなるでしょうか?

左向きのアリスを右に配置

個人の見解ですが、左向きのアリスは右向きのアリスとは違い歩きだそうな感じが弱く、「おすわり・待て」をしているような印象があります。余白の部分にご飯が出てきそうな予感さえします。

左向きのアリスを左に配置

左側に配置すると閉塞感、閉じ込められているような感じがします。構図には右向きなのか左向きなのか、実はとても重要な要素になります。ものすごく脱線しますが、構図における「右に配置するか、左に配置するか」は絵画の世界でも重要なものです。

Annunciation By Leonardo da Vinci - Own work, CC BY-SA 4.0

レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」(イタリア・フィレンツェ・ウフィツィ美術館所蔵)、明確なフレームで切り取られた風景の中に、左に大天使ガブリエル、右に聖母マリアが配置されています。神から使わされた大天使がマリアのもとを訪れイエスを授かったことを告知する場面です。この場面は西洋美術史において非常に人気が高く多くの画家が描いています。その多くがマリアを右、ガビリエルを左に描いています。逆に配置する作品も稀にありますが、日本図学会の2013年に発表された「受胎告知の空間表現について」によれば、受胎告知をテーマに描かれた絵画213点を調査対象した研究では、ガブリエルが左でマリアが右に配置された構図は、73.6%。その逆は、22.6%だということです。

聖書の中には「神の右」という言葉が何度か出てきます。右利きが多く、右手は力をこめることができるため、そこから力強さを表し神が支えてくれる「あの強い右手で」となり、右の手で行う行為そのものが正しいを意味する「right」つまり右になったそうです。つまり、力強くかつ器用な手の方、「右」にキリスト教はある意味を与えました。「right hand」は「導く手」です。四角いフレームの中で位置を表す「右」です。

対して「左」には特に意味づけされていませんが、「右」とは反対の位置にあるために意味も反対に近い印象が与えられます。「leave」の過去形が「left」です。

「右と左」は構図を考える上で非常に重要で、深層心理に大きく影響を与えます。動画は連続した静止画の集合体であり、カットごとに構図があり、前後の構図の比較があり、カットの長さもあり、音もあり、奥深いものです。構図における「右と左」は今後もいろいろ考えていきたいと思います。

ちなみに、画面(舞台)に向かって、左を「下手(しもて)」右を「上手(かみて)」と呼びます。見る人、演じる人が左右間違わないように上手・下手と言います。

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