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「施設介護は可哀想」と思う家族にこそ、施設入所を勧めたい:その2[PSWの福祉コラム]

※前日投稿の「その1」の続きの記事となります。その1が「ケース紹介」、その2が「ケーススタディ」です。まだお読みで無い場合はその1からぜひ読んでみてくださいね!


「要介護」取れず。祖母に足りなかったもの

祖母のケースで要介護が取れなかった理由。それは、「現状が正しく介護認定員に伝わらなかった」事にあります。

このケースの場合、介護認定員には「祖母の普段の様子」は「家族から口頭で」しか伝わっていませんでした。まして退院後ですから病職員の意見書もない状態。要介護と判断するに足る、客観的な「証拠」が足りなかったのです。

そして目の前には朗らかに談笑する高齢女性。お茶汲みもしています。介護認定を受けるために話を盛っている、と判断されてもおかしくない状況だったことは想像に難くありません。

どうすれば要介護に近付いたか

この場合、どのように事実を伝えたら正しく情報が伝わったのでしょうか?私が思うに、いくつかの準備をしておくだけでかなりの印象変化が起きただろうと思います。

それは、「示せる記録を用意しておくこと」。具体的には、「普段の歩行状態、鍋を焦がすなど問題行動時の写真」、「暴言を吐いて暴れる時の動画や音声」などがそれにあたります。これらが示されるだけで、介護認定員にはかなりの印象変化があったでしょう。

また、介護が始まった早い段階から地域包括支援センターに相談しておくとさらに違ったと思います。実は、伯父夫婦は介護問題全てに家族だけで対処していました。しかしその努力が仇となります。介護認定依頼時、介護認定員を派遣する包括支援センターには祖母の基本情報・経過記録が一切存在しなかったのです。

相談のタイミングは思うよりずっと早い

認知症高齢者に限らず、介護に携わるようになった方にお伝えしておきたいことは、「専門機関への相談は、あなたが思うよりずっと早くから行っても良い」ということです。

病院では、「認知症初期」からの受診を推奨しています。これは、「なんとなく忘れっぽい気がする」「忘れてるぞって指摘されることが増えたな」くらいの頃。思っているより受診タイミングが早いことがわかると思います。

一方認知症として病院に来られる方の多くは、完全に認知症を発症した後…だいたい「認知症の中期」に受診されます。これは「被害妄想」「暴言、易怒性」などの周辺症状が出てきた頃。認知症の初期症状をただの加齢による物忘れと思っているうちに症状が進行してしまうのでしょう。

相談に困ったら『包括支援センター』に

『包括支援センター』とは地域高齢者を支えるセンターです。センター内には在宅介護を利用者の為のケアマネージャーを擁しています。

包括支援センターでは、介護を利用したいという方、介護を始めたものの困りごとが増えてきた方、様々な方からの電話相談がかかってきます。病状によっては病院に行くよう勧めたり、センターが直接受診相談に回すこともあります。

「こんなことで相談していいのかしら?」「もっと頑張れば家族だけで支援ができる…」と思う必要はありません。介護者が思うよりもずっと早い段階から、相談の窓口はあなたを向いて開いています。

困りごとを諦めないで

包括支援センターに相談する事は、「このエリアには〇〇さんという、××に困る在宅高齢者がいる」ことを知ってもらう上でも重要です。

介護保険で対応できないニーズの場合も、(例えば買い物同行は介護保険サービスとして提供されません)有償ボランティアなど既存のサービスがあれば紹介してくれます。

夕食の配達サービスや家事手伝いのボランティア、地域の見守りサービスなど、包括支援センターには様々な地域資源の情報が集まります。「これは介護保険適応じゃないから…」と支援を諦める前に、一度ニーズを満たしてくれるサービスがないかを相談してみると良いですよ。

施設入所は早期検討が吉

「早期の施設検討が良い」というのも、施設入所は希望してすぐ支給されるものではありません。「施設入所」を希望したら、まず介護認定調査をうけ、次に「要介護」に該当するとの判断をもらい、そしてその後施設の順番待ちをします。介護者の心に余裕がなくなってから「入所させてください!」と動き出したのでは、入所にこぎつける前に精神的負担が介護者のキャパシティを超えることがあるのです。

その為、私としては「施設入所を検討する条件」を事前に決めておく事をお勧めしています。できればその条件は、『夜間眠れなくなってきたら』とか『トイレに1人でいけなくなったら』とか、比較的初期の条件にしておきましょう。これは、実際の支援が動き出すまでにタイムラグがあることが多いからです。

また、「この段階になったら包括支援センターに相談しよう」「こうなったら病院に連れて行こう」と気持ちに余裕があるうちに相談するタイミングを決めておくことには、「努力が足りない」「まだやれる」と一人で根性論介護に陥っていくのを防ぐ意味合いもあります。

まとめ

在宅介護をしている方にこそ、施設介護は可哀想だと思う人にこそ、「施設入所」は選択肢として有力に考えていて欲しいと思います。

責任感が強く、「私さえ頑張れば、努力すれば」と思う介護者ほど介護うつに陥りやすく、相談という手段を自ら遠ざけてしまう傾向があります。

介護とは、「改善」することが稀な長い寄り添いの道です。全く頑張らないわけにはいきませんが、頑張りすぎない支援の方が長く良好な関係でいられます。

疲れたら一時的にショートステイを使ったり、どうにも問題行動が多ければ入院治療をしてみたり、家族にも休むタイミングがあって良いのです。

どうか理想の介護像に囚われず、「その時の私のベスト介護」を柔軟に選んで欲しいなと思います。


駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!