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【小説】『知世 in 砂上の楼閣』なんじゃぁ、あ~りませんかっ-4/10更新完結


2023.4.10
14

石川恭子Side:

 そっか、夏ごろから彼、桂子さんからお弁当作ってもらってたんだ。
 私は大抵午後からの仕事でスタジオに入ることが多かったので
知らずにいたのだ。

 桂子さんは、やさしいな。
 奥さんのいる人にお弁当だなんて。
 下心があるようなら、作らないよね? 

 私は原口さんが倉本さんに放った台詞を聞いていたせいもあって
そんな風に考えた。

 それは新垣桂子という人物が、亀卦川康之という人物とどうしても
交わりそうもない類のカテゴリ入りしている人だったから。

 まず、桂子さん自身が略奪愛なんていう事柄から100億万年光年も
離れていそうだし。

 次に亀卦川くんが進んで付き合いそうな感じが微塵もしないから?
 桂子さんを下に見てるとかそういうのじゃなくて、何ていうのかなぁ
 まるで二人は合ってないって感じがする。

 清楚で地味を敢えて装ってる? 彼女に、亀卦川くんは似合っていない
と思えるのだ。

 だけど、亀卦川くんが誘えば、彼女は誘いに乗る?

 下品なことを考えるな、恭子。
 桂子さんに失礼だわ、とっても。

 ・・っていうか、彼女には彼女に相応しい素敵な男性《ひと》と
出会い、ゴールインしてほしいと思う。

 私とは正反対のイメージな桂子さんだけど、私は彼女の醸し出す
雰囲気がとても好き。

 彼女が作り出す雰囲気、イメージは、彼女の性格にマッチしていて
いいと思う。

 だけど、亀卦川康之という男を自分にもっと強い力で
引き付ける方法をと、もし私が桂子さんから請われたとしたら、
彼女には持てる素材を活かして、きつめでシャープな化粧に
モデルっぽい装いを勧めるだろう。

 現在の装いとか雰囲気は、彼の妻におさまってからなら
いいだろうと思う。

 けれど彼女には、今のままの彼女に強く魅了される男性との縁を
持つことを考えた方がいいと思えるから、そのままの新垣桂子さんで
いてください、と私は小さく呟いた。

 だって亀卦川康之にはすでに奥さんがいるんだもの。

 桂子さんも私も、香さんを押しのけてまで亀卦川くんの奥さんに
なる必要性なんて、全くNothingだもん。

 そのうち、お互いいい人が見つかるわよ。

 この後も誘われれば、亀卦川と適当に付き合いを続行、一緒に
遊んだ石川恭子だったが、割と早い段階で割り切っていたのである。

 略奪婚なんてよほどのこと、よほどの相手でもなけりゃあ
できるものではない、と思っていたからだった。

 そして何より亀卦川の言動からして、妻と離婚して君と、、なんていう
熱量など微塵も感じられないということも大きかった。

 都合が付かない時は断ることもあるが、恋人同士の間柄というのでも
なし、あちらも別段気分を害することもない。

  適度に遊ぶ相手にはちょうど良かったのだ。
  後腐れのない関係というヤツだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
ちょっと中途半端感、ありますが次の作品『大人の恋心 』への
伏線みたいなものとお考え下さい。『LOVE YOU!』長編からの
切り抜きになります。

♡:。.。ではいよいよ、『年齢高め、桂子さんのお見合い』桂子さんのお話を
お楽しみください。。.。:♡

 ପ( ꈍᴗꈍ)ଓ  ア ン ノ   

 



2023.4.9
13

~ 知世がガキさんに亀卦川と石川のことについて話した後の頃~

石川恭子Side:

 そう、暦は2月/如月で二十四節気でいうところの雨水の頃であった。

 仕事の休憩時間に化粧室にいた時のこと。

 私が入って行った時、メイクアップアーティストの原口さんが
化粧直しをしているところだった。

 軽く挨拶をしてトイレに入り、そろそろ出ようというタイミングで
若い女子《こ》がけたたましく化粧室に入って来た。

・・・

 「あっ、知世さんっ」

 「はいはい、知世だけど・・何か?」

 「あーっ、トイレも行きたいんですけど、だけどぉ~」

 「何なのよもう、それなら言いたいこと早く言いなさい」

 あやみは、トイレへ急いでいる風ではあるものの、何か私に
言いたげな様子である。

 「わたしぃ、見ちゃったんですよね」

 「はいはい、それで・・」

 どうせしようもないことに決まってる・・私は適当に彼女に先を促した。

 「初めてじゃないけど、またまた見ちゃって」

 「だぁかぁらぁ~、何を?  早く話さないと、漏らしちゃうわよ?」

 「うーっ、知世さんは見たことないんですか?」

  私は広げた両手を胸の高さから肩の高さまで上げて、お手上げの
ポーズを取った。 

 この子ったらまったく、何を見たかも言わないで私に
見たことはないのかと聞く、、アホたれ、、そんなもの答えられる
わけないでしょーが。

 
 
 「以前夏頃にちょくちょく見かけてたんですけど。
 桂子さんが亀卦川さんにお弁当を作ってあげてたの。
今日も手渡ししてるところ、休憩室で見ちゃったんです」

 あれからもガキさんがお弁当を彼に律儀に作り続けてたことは
知ってる。

 休憩室を使ってるんだから、知ってる人は知ってることなのだ。
 この子も、今頃スキャンダル扱いして何なのかしら。

 あっ、私はピンと閃いた。
 こいつ~、きっと石川さんが化粧室に入るところを見てたんだ。

 いい性格してるよね、全く。

 「そんなのLunch Timeに休憩室使ってる人なら、みんな知ってる
わよ。何言っちゃってんの? それと大騒ぎすることじゃないから。

 亀卦川くんの奥さんが病気で、何かと不便してるんじゃないかって
ガキさんのやさしさからのお弁当なんだから。

 変な騒ぎ方はガキさんに迷惑だよ、あやみちゃん。
 そんなことより、早くトイレ入りなさいお漏らししちゃうわよ? 」

 これまでガキさんと距離を置いてた私だから、一緒になって
少しくらいは、スキャンダラスな話にして盛り上がりたかったのかも
しれないけど、あやみぃ~・・あたしは幸せな女に昇格したんだ。

 『そんな下世話な話、乗んないよ』
 私はトイレに駆け込むあやみに向かってベロを出して呟いた。

 そして私も石川さんが出てくる前に、急いでその場を後にした。

・・・

 原口さんが気を利かせて?  私と二度目の鉢合わせにならないよう
出て行った後、私も倉本あやみと鉢合わせしないよう、早々と
化粧室から出て行ったのだった。

          ・・・・・
※【二十四節気】
     立春(2月4日〜17日頃)、雨水(2月18日〜3月4日頃)

 



2023.4.8
12

 
 「年末だし、二次会とか行ったんですか?」

 「ううん、私は行かなかった・・ぁっ・・」

 「どうしたんですか?」

 「どーしよっ、突然思い出しちゃった」

 「・・?」

 「言ってもいいかなぁー?」

 「えっ、なんですか? 聞きたい」

 「とりま、同じ職場の人のことだし、片方は既婚者だから
見たことだけを話しするね」

 「・・」

 「なんか亀卦川くんと石川さんが意気投合しちゃったみたいで
店に入ってからずーっと話込んでて、一次会がお開きになる前に
ふたり一緒にバックレちゃったの。

 しかも、それ、私の目の前で、、バッチリ見ちゃったの。
 あれよぉー、他の連中はもう自分たちのトークに夢中でね、次行こう
二次会行こうーってなった時になって、やっと騒いでたわ、ふたりが
見当たらないって」

 「みんなにそのこと言ったんですか?」

 「ううん、何となく言いそびれた。
 私、関係ないしさ」

 「じゃあ知世さんの他に知ってるのは私だけってこと?」

 「うん・・そだね、たぶん」

 「教えてくれてありがとうございます」

 「やだぁ~、そんなんじゃないって。
 今ガキさんと話してて思い出したから話しただけだから。
 う~ん、だからこの先も他の人には話さないと思う」

 石川さんも小娘じゃないんだし、自分のことには責任持てると
思うし、まっ、そこのところは心配はしてないンだけどさっ・・。

 話しながらついガキさんに、だから二股三股できそうな
亀卦川くんにはほだされないよう気を付けて・・と言いそうに
なってしまって。

 おっとぉー・・なんとか、私は何とかお口チャックできました・・っと。

 そこまで口を挟むとほんとによけいな世話焼きおよねじゃないけれど
世話焼きおばばになってしまうからね。

 ま、これで誘われるようなことがあっても、お弁当の関係で
踏みとどまれるだろうとの思いを込めて・・知世のミッションコンプリートどした。

 ガキさんこと、新垣桂子には何となく今回の話を持ちだしてきた
というか、話してくれた知世の真意が伝わってきた。

 ありがとう、知世さん。

 知世さんは、すでに私と亀卦川くんがそういう仲になっている
ことは知らない。

 ひょっとすると、もしかして・・くらいのことは邪推しているかも
しれないけど。

 最初にお弁当の話を振ってきた時は、あまりいい気はしなかった
けど、あの時ちゃんと彼女に話していたからこそ、今回のことを
善意でちゃんと耳に入れてくれたのかもしれない。

 知った上で、弁当を続けるのと知らずにいい気になって
弁当を続けるのとでは、天と地ほども心情的に違うものになるだろう。

 今回ばかりは、今までそんなに言うほど親しくしてきたわけでは
なかったけれど、桂子は心から知世に感謝したのだった。

 そして、これがきっかけでふたりの距離は少し縮まっていった。
(これがきっかけで、後日桂子は知世から男性を紹介されることになる)

 


2023.4.7

11

 彼女も私がこれ以上本気で怒り出しては堪らないと思ったのか
トイレへ行った後、もう私のいる席には戻って来なかった。

 よしっ、邪魔者がいなくなった。

 私は知らず知らず周囲を見回し、スマホで亀卦川くんと石川さんの
ツーショットを一枚素早く撮った。

 げっ、私ったら何やってんだか。

 そうこうしてるうちに、私の予想通りふたりはそっと店を抜け出し
そのまま帰って来なかった。

 やっぱりねぇ~、そういうことか!
 ま、美男美女そうなるわな。

 しかし、亀卦川ぁ~奥さんどうすんの?
 弁当せっせっと作ってるガキさんの気持ちは?

 後者の件で責めるのはちょっと違う?

 だけどさ、ついでって言うけれどもガキさん、女性軍の私たちは
もちろんのこと、男性陣にだって私の知る限り、手作り弁当をこれまでに
作ってあげたことはないと思うからぁ~。

 やっぱり亀卦川くんだからって思うわけよ。
 恋愛感情とまではないとしても、ちょっぴり乙女心くすぐられるところがあってのお弁当なわけよ。

 本人でもないのに断言するなんて・・ねー、ヤダ。

 とにかく、何がってわけでもないことだけど、私は今夜のふたりのことをガキさんの耳に入れてやろうと思った。

 

 結婚の決まる前の私だったら、焼きもち半分、意地悪半分くらいの
気持ちでチクったかもしれないけど、今は違う。

 幸せ一杯の今は違う気持ちで伝えることができると思う。

  ガキさんが後になってあの人たちがデキテルことを知ったら
どんなにか悔しく思うだろうって、手に取るように分かるから。

 知ってこの先も弁当を亀卦川に作ってやるかどうかは私には
分からないけど、知ってて作るのと知らぬまま淡い期待なんか
抱きながら作るのとでは、ぜんぜん違ってくると思うのよね。

 ・・・

 年が明けて初出勤の日、私は弁当を持参しガキさんと話せる
時間を作った。

 私は年末の飲み会のことを面白可笑しく話をし、その合間に
ふと思い出したかのように演出して、例のふたりのことを話題に
出した。

 「知世さんって結構飲み会に参加してるんですね。
 話題豊富だし、男の人たちとも上手に話を合わせられるから
羨ましいです」

 「うん、そこはね否定しない。
 うふっ・・まぁね、私くらいの妙齢も過ぎたおばはん気兼ねも
ないからね」

 「ふふっ、そういうことをカラっと嫌味なく言えるところがすごい」

 「そりゃどーも。
 一応誉め言葉ってことで受け取りましょっ!」 



2023.4.6
10

 「私さ、戸籍上は独身なんだけど、ほら所謂事実婚? ていうやつでさ
一応一緒に暮らしてる相手がいるんだ」

 「えっ? じゃあ火遊びしたいなんて言ってちゃ駄目じゃん。
 まぁそんなこと言ったら俺のほうこそ駄目だけどな」

 「ずっとさ、正式に結婚もせず、付き合ってた時のようなLoveLove感
もなく、子供も作らず、何か最近もう駄目かなぁ~なんて思ってたんだけど」

 「だけど?」

 「あの日の次の日・・クリスマスの日ね、彼からプロポーズ
されたんだよね」

 「良かったじゃん、おめでとー(棒読)ププっ・・嘘嘘、心より
おめでとう。
火遊びしてくれる相手、別に探さないといけなくなったけどさ・・っていうか俺も奥さんとLoveLoveすっかな」

 「うん、それ揉めなくて一番いいと思う。
 私ね、先週あんな帰り方したからさ
松浦くんにはちゃんと報告しときたかったんだ」

 「おう」

 それから少し話して私たちはお互いに別々の場所へと移動した。

 私はひとりになったことをいいことに、少しの間、亀卦川くんと
石川さんの動向に注視することにした。

 だって既婚なのにあの絡み方は気になるんだもん。

 まるで先週の自分と松浦じゃん!  距離近っ!

 

 彼らはいい雰囲気で何やら話し込んでいる。
 途中であやみちゃんが知世さぁ~んって言って、同席してきたけれど
適当に話を合わせながら引き続きふたりの様子を探った。
 

 「知世さん、さっきから亀卦川さんと石川さんのことが気になるよう
ですけど、もしかして亀卦川さんのこと狙ってるんですか?
 亀卦川さんったらガキさんからはお昼にお弁当作ってもらって、飲みでは石川さんといい雰囲気で、さらに知世さんからも見つめられて、
超モテモテ男ですよね? 亀卦川さん」

 「ヤダっ・・見てたことは否定しないけど、私のはそういうんじゃ
ないから」
 私はあやみちゃんの頭にぶつ振りの拳を、そのまま振り下ろした。

 「ぎゃっ、ごめんなさぁ~い・・。
 でもぉ~知世さんみたいな仕事のできる素敵な人が独身だなんて
信じられなーい」

 「うるさいっ。アラフィフの女にそんな無邪気を装って、鋭いナイフで
突き刺すようなことを言うんじゃないわよ、まったく。
 今度こそ本気で殴ってやろうか、コイツぅ~うぅ~」

 「ごっ、ごめんなさい、すみません」

 「あんたさ、今度Lunchおごりなさいよ」

 「はいぃ~」汗:::

 いやいやいやー、今はこのおバカな子をこれ以上叱ってる場合では
なかった。


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