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霞と東京

霞の向こうに新宿が見える  ツバメはうまくビルを縫っていく 

山崎まさよしさんの「ツバメ」の歌い出しです。

私の東京は朝靄の中。夜行バスの浅い眠りから覚め、まだ薄暗い早朝の大都会にパンプスで降り立つ。

旅行で訪れる時の東京は、楽しくキラキラした風景に思い出の着色が施されて夢の様な世界。でも、私が「東京」といわれて真っ先に思い浮かぶのは、就活中に見た冷たい海の底のような東京の姿なのです。仙台で育ってきた私が、初めて「訪問者」ではなく「当事者」としてあの街を歩いた期間だったからでしょうか。

夜明け前の新宿や池袋に独り。夜行バスの窓から伝わる外気温が仙台との距離を教える。気温以上に心が寒くて毛布を口元までかけるけれど、ぐっすり眠れたことはありません。夜行バスでの目覚めの気分は最悪です。

スーツでは眠れないからゆったりしたワンピースに身を包み、それに不似合いな就活用のパンプスとバッグ、加えて大きなカバンにスーツと化粧道具と諸々の必要なものを詰め込んで運ぶ…何一つ噛み合っていない歪な格好で異国・東京を彷徨う。

就活生だから当然、向かう先はオフィス街。聳え立つ巨大なビルに見下ろされるのが怖かったから、自分の足もとばかり見ていました。ちょうど、RADWIMPSの「ブリキ」のPVのような視界。軒の無い四角い建物は余所者を寄せ付けない威圧感を放っています。

お金がなくて、一泊もせずに夜行と夜行で行き帰り。誰にも逢わずに宙ぶらりん。

SNSで東京にしかないおしゃれなカフェをたくさん見ているのに、戦闘服のままそんなお店に入る勇気はなく、何度も店先まで行って諦めました。そしてどこの街にでもあるチェーン店ばかりを渡り歩きました。誰も私を待っていない街の中で、知っている看板が、見慣れたメニューが、馴染みのある味が、それらだけが私を慰めたのです。

インターンや就活イベントが終わる頃にはほとんどの主要な施設が閉まり始めます。だから私は動き始める前と動ききった後の、気だるそうな東京の顔ばかりを見ていました。

道も建物も窮屈そうで、電車はかわいそうなくらいパンパンに人を乗せているし、朝から夜まで「もう立ち止まりなよ」と言いたくなるほど息も絶え絶えに見える街。

なのに、それなのに、

田舎者の東京ドリームやSNS映えの写真から作り上げていたキラキラの「東京」イメージよりも、溺れかけの自分を投影した霞の向こうの東京が

愛おしくて仕方なかった。


朝靄をかき分け 彷徨う大都会

ゆらりゆらゆら ふらりふらふら



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