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itokawa en "Copy & Paint''について by K.U

 イラストレーター/NFTクリエーター itokawa enの作品 "Copy & Paint" は、18cm×18cmの正方形キャンパスに描かれた16枚の女性の顔が、4×4のグリッド状に並べられた作品です。

Copy & Paint ©itokawa en

 モチーフとなっている女性はおそらく同じ人物で、4種類の異なる表情に描き分けられ、この4種類を連続させると瞬きの動作に見えることが、一緒に展示されている動画で確認できます。一方で、16枚の髪型と目を瞑っている4枚を除く12枚の眼の色はそれぞれが異なり、特に髪型が特徴的で、黒、赤、青、黄、緑、オレンジ、紫など、異なる基調色のマーブリング模様で異なる髪型に描かれ、顔が描かれていなければ16枚の抽象画に見えることでしょう。そして、髪を描く絵の具は、キャンパスの端を縁取るように側面に広がり、髪から連続した基調色で明確にフレーミングされた様子は、あたかも無意識のうちに境界の中に閉じ込められてしまったかのようです。

 私たちは、服装や髪形などの外見や声や口調、香水の匂いなど、様々な要素から他者を認識しますが、その中でも最も強い要素が「顔」です。しかし、本作において、作家は同一人物の4種類の表情(コピー)に、色や形の異なる髪型と異なる眼の色を描く(ペイント)ことによって、16の異なるアイデンティティを提示しています。私は、この点と前述の基調色によるフレーミングに、アイデンティティに対する問題意識が提示されているように感じました。

 しかし、ここで一つ疑問点が残ります。これら16枚には1〜16のエディションナンバーが振られているのです。本来は版画や写真などの複製芸術に振られるエディションナンバーが、それぞれ違って見える16枚に振られていることは、何を意味しているのでしょう。前述のとおり、4つの表情を連続させると瞬きになるということは、それぞれの画は瞬きという動作のひとコマを切り出したものです。一般的に瞬きの時間は0.1〜0.15秒と言われていて、動画の一コマは1/60〜1/30秒ですから、本作の瞬きの動作7コマ分は7/60〜7/30秒=0.12~0.23秒、おおむね実際の瞬きに近い時間になりそうです。作家に確認したわけではありませんが、1〜16というエディションナンバーが、写真や版画のように同じイメージが複数存在することを示しているのではなく、異なる表情であっても同じ人物の「顔」の複製であることを明示していると解釈できないでしょうか?

 itokawa enは2023年1月からNFTアートの製作を始め、今回の個展が初めてのリアルでの展示だそうです。NFTアートはデジタルに複製可能な画像データとして製作され、NFTという仕組みによってユニークピースにすることができます。画像データもユニークピースにし得る技術が存在する現代に、NFTアートを製作してきたitokawa enという作家が、強い個性を明示するはずの「顔」の複製に絵画の手仕事を加えることで、マテリアルとしてのユニークピースを作り出している。デジタルからアナログへの飛躍を伴うビジュアルと、近代以降の複製芸術につきまとうエディションナンバーの再解釈を内包した16の個性は、これまでにも問われ続けながら未だにアクチュアルな問題である、アイデンティティや自他の境界認識について多角的に問い直しているように感じずにはいられません。

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