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ギャラリーaaploit―糸川円 個展「token」について by p

糸川円(itokawaen)はNFTクリエイターで、少女アニメ的イラストを世界観ある背景と共にデジタルで描いているアーティストである。
コンテンポラリーアートのリアルなギャラリー空間「aaploit」において、NFTクリエイターの「token」というタイトルの展示とは何を意味するのか。

そもそも、今更だがNFT(Non-Fungible Token)とは、偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータであり、コピーや改ざんされやすいデジタルデータに唯一無二の価値をもたせた、デジタル化が進んだ資本主義社会が生み出した新たな価値生成である。2014年に生まれたNFTは、2021年NFTアートがクリスティーズのオンラインセールで75億円で落札されたというニュースで一気に注目が集まり誰もが知るものとなった。
その75億円のNFTアートは米国人アーティストビープル(Beepl)の《Everydays:The First 5000 Days》というデジタルコラージュ作品で、毎日13年間作品を作り続けるというものであった。今回、それに寄せてか糸川は《#100daysNFTchalenge》というタイトルのデジタル作品を毎日制作しSNSにアップした。そしてその画像を全てプリントし100ページのbookにして展示している。ギャラリーにあるディスプレイパネルには、そのデジタル作品のメイキング画像が映し出されている。
また、デジタルアートをアルミキャンバスの上に特殊な塗装で凹凸をつけてプリントすることで一般的な印刷やディスプレイの2D(平面)ではなく、空間と時間の中に存在しているという2.5Dのフィジカルアートという呼び名のプリントを施し、ラメ入りメディウムで加筆した作品も展示されている。どれも8号以下のサイズ作品である。

ギャラリー正面の壁面には18cm四方の小さいキャンバスが16枚グリッド状に並んでいる。そこには同じフェイスラインに4種類の目元の顔が各4枚プリントされており、その頭部部分は16枚全て異なる彩色がされた《Copy & Paint》という作品が展示されている。ユニークなのが彩色部分は筆など用いず、メディウムをたらし込んで彩色していることだ。液体状に溶いた二色以上のメディウムを流し込むこのポーリング画法は、メディウムの流動により自然と偶然が作りあげる模様を生むものである。糸川は16枚のキャンバスそれぞれに異なる髪型が残るようにマスキングし様々なメディウムを流し込んで16種の作品を作り出した。そのキャンバスには名札のように16個のナンバーも打ってある。流し込まれたメディウムは何層にも混ざり複雑に溶け合い、再現不可能な、まさにNFT同様な唯一無二の模様を作り出している。色や形、模様の違いはその人物の心の動きや感情のようにも受け取れるが、鑑賞者はそこに個性の異なる16人の人物像をも認知する。

個展タイトルの「token」とは仮想通貨(デジタルマネー)の呼び名以外に、本人であることを示す「しるし」を意味する。キャンバスに打たれたナンバーとメディウムの色彩と模様はそれぞれの「token」であったのだ。
2.5Dにプリントされた作品にラメ入りメディウムで加筆したのも、コピー不可能にするためのラメ使用であり「token」であり無二の作品としたのかも知れない。

昨今、個性、アイデンティティの喪失などと取り上げられる。しかし「aaploit」ギャラリーの空間に、2Dのデジタルアートから2.5Dプリント作品、《Copy & Paint》作品があり、そして鑑賞者われわれのフィジカルが存在していて、気がついた。われわれのフィジカルがいかに唯一無二であり、存在自体が「token」であり、アイデンティティであることを。アイデンティティの喪失などと嘆くことはないと、糸川作品が示してくれたのだ。


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