あの日あの時あの場所で


高校の卒業式を終えた春、ある日家に帰ると『田中さんから電話があったわよ』と母が言う。同じ部活だった田中さんだろう思い、母のメモした番号にかけると、出たのは違う田中さんだった。委員会が同じになったことがあるので、会えば挨拶は交わすけれども、クラスは違うしそれ以外に接点はない。頭の中はクエスチョンだったが、どうやら私の親しい友人のことで話があるらしく、街のハンバーガーショップで会う約束をする。

落ち合ったものの、当たり障りのない会話が長々続く。『聞きたいことって⁉️⁉️』と頭の中のクエスチョンのしびれがきれた頃、彼女が最近富士登山にはまっているという話になる。

登山と言えば、林間学校で、赤城山の獣道のような道を登らされてヒーヒー言ったな~あれは絶対人が通る道じゃなかった・・・なんてことを考えながら、富士山いいね~とか相槌を打っていたところ、彼女の瞳が何やら輝き始める。

私、毎月富士山登ってるんだ。
(毎月⁉️麓に行くだけでも2、3時間はかかるよね?)
それから彼女はご来光の素晴らしさについて語り出し、瞳はキラキラ輝きを増し、実は今日は先輩もきてるんだ・・・と、先輩なる女性が登場し、2人がかりで彼女達が所属している宗教団体と思われる会合へ遊びに来ないかと、説得される。

初めはやんわり断っていたが、なかなかこの先輩はしつこく、何を言っても通じそうになかったので、最後は逃げるようにMバーガーを後にしたのであった。

永遠に続く幸せって素敵だと思わない⁉️あのうるんだ瞳は今でも忘れられない。

その数年後、休日街中をぶらぶらしていたところ、若い女性に声をかけられる。近くで絵画展をやっているので、見に来ませんか?というお誘い。暇潰しに行ってみる。芸術はよくわからないけれども、絵画をみるのは嫌いではない。

ついて行ったものの、飾られていたのが、当時流行っていた版画ばかりで、がっかりする。きらびやかな色彩が、ごてごてし過ぎに思えて好みでない。

私の様子をみて、『どんな絵が好きなんですか?』と、どこからか、あれやこれやと絵を持ってくる女性。これよりはこっちがいいかな~なんて会話を繰り返していくと、そこそこ好みの絵には近づいていく。

徐々に女性の話は、家に絵画がある生活がいかに素晴らしいかという話になり、いつの間にか私がその絵を欲しいかのようになっていて、先輩格らしき男性が現れ、その20万近い絵をあの手この手で私に買わせようとするのだった。

思い返せば、Mバーガーにも画廊にも
滞在時価1時間半ほど。あの頃は時間あったな~、というかしっかりしろ、私‼️

まあ、刺激の少ない昨今からすれば、こんな出来事も、人生のスパイスの1つなのだろう。
あの人達は、あれから幸せに辿り着けたのかなぁ。


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