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ローカルアドバイザー「サラ」の教えと、暗黒時代のホモの中学生。

『いつからゲイになったの?』そうやって、サラが聞いてきたから、「中学時代から」と答えると、「大変だったね」と答えてきた。

アメリカという異国の地で、日本人以外の友達を作るのは難しい。特にLGBTQの人と友達になることもそう簡単ではない。もしかしたら、恋人を作るよりも難しいかもしれない。

オーストラリアに留学していたゲイの友達が言っていた。「ゲイならゲイであることを十分に活用して、現地のLGBTQの友達を増やしなさい。ローカルな情報とかをゲットして、言語も地域の情報にも詳しくなれるともっとエンジョイできるわよ」と。少しがんばってみるか、と重い腰を上げてみた。

ある日、日本人の友達から「日本発祥のゴミ拾いのボランティア」(Green Bird)があるから来ないか、と誘われて先週の土曜日に参加した。しかし、タイミングが合わない人が多かったので、その日の参加者はたったの3人だった。僕と日本人とアメリカ人の3人。

そのアメリカ人がサラという27歳の女の子だった。アメリカの南部の方(州の名前は忘れてしまった)出身で、日本が好きらしい。女の子と言っても、見た目は完全に男。髪の毛も刈り上げて2ブロックだし、着てる服はバスケットのユニフォームで、短パンであった。しかし、体の凹凸からみて女の子であった。

もう一人の誘ってくれた日本人が言うには「サラって名前だけど、男の子やねん、確認したことないけど」って言ってたが、いや女の子やんって、心の中で突っ込んでみた。

ちなみにその日本人の彼がボランティアを誘う文句としては、「ボランティアはな、心の幸福度を高めてくれるんや。自分のために何かをするより、誰かのために何かをする方が幸福度や充実度は高くなるんやで」と言っていた。きっと参加する人を増やしたいがための売り文句なのだろう。

「お金自分のために使うよりも、人に寄付したほうが幸福感が得られるらしいで~」ほんまかいな。

その「Green Bird」というボランティアグループは日本だけではなく、世界中のいたるところに点在していて、月に1,2回、とある地域の1区画のゴミ拾いをしている。この活動を今まで聞いたことなかったが、東京では各区に存在するほど規模が大きいだそうだ。活動を支援してくれている会社も多数いて、どれも有名どころの大企業さんらしい。ボストンではボランティアの参加人数は多くないので、ごみを拾うのは1区画分だけであるが、規模が大きくなれば活動範囲も広げる予定らしい。活動してみると案外ゴミ拾いよりも、地域住民とのコミュニティを広げたり、活動している方とのコミュニケーションをとる意味合いが強そうであった。

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ゲイであることはボストンではだれにも言っていない。

ボストンにゲイの友達はいるので、その子たちしか知らない。職場の日本人の友達やこっちで初めてあった日本人の友達にはカミングアウトする気もない。それは日本人はいまだにLGBTQに対する寛容性が低いからだ、アメリカでも。

サラとゴミ拾いしてる時に、サラは普通に「よく『彼女』がごはんを作ってくれる」と言っていた。レズビアンなのかなと思ったが、センシティブな内容なので相槌だけ打っておいた。すごく気になるが、今は日本人の友達もいる手前だし、それについての質問はしなかった。その日本人の友達も僕はよく知っていて「ゲイフォビア(ゲイのことが嫌い)」な人だったから、その話を広げることはお互いに利益にはならないだろうと思った。

ボランティアのあとに、サラと連絡先を交換し、ボランティアの2日後にサラと再度2人だけでお茶をした。会う前に、自分のセクシャリティについて話したいと、メッセージを送ったら彼女はすぐに理解した。

「あなたをサポートしたい」と。

それから2時間近く2人で話した。僕はまだ渡米して7か月目だったから英語に不慣れではあったけれど、サラは話を聞くのが上手だった。サラ自身もあえて簡単な短い英語を使ってくれた。

まず、サラはレズビアンではなかった。

「どう思う?」と聞かれて「レズビアンだと思う」と答えた。サラの答えは違っていた。「Nonbinary gender」であった。

つまり、女性でも男性でもない。ちなみに氏名証を見せてもらったら、性別欄は「X」と書かれていた。そして好きな性別は「女性」。はじめて「性別がない人」をみてなんだか理解が追い付かなかった。きっと身体的には女性だが、精神的な性別は男性でも女性でもないし、男性面もあれば女性面もあるのだろう。女性の身体をしていることに違和感や嫌気がないから、トランスジェンダーとはまた違うが、髪は刈り上げて満足げであった。ちなみに、サラのことのを「She」「He」どちらで読んだらいいのか聞いたら、「They」だそうだ。違和感があるから「サラ」で統一することとした。

今度はサラが僕に「いつからゲイになったの?」と聞いてきた。

「中学時代から」と答えた。

「サラはいつ自分のジェンダーについて考え始めたの?」と聞いたら、もうすでに2歳、3歳の頃からだったらしい。小さい頃のサラの顔の写ってる写真にはマジックで書かれたヒゲがあったんだって。小さいころからヒゲに憧れてたのかもしれないと言っていた。

僕がぼんやり覚えているのは中学時代。好きな人ができたのが男だったから。なんだか甘酸っぱいボーイズラブがあればよかったのだが、そんなにいいもんではない。むしろ苦悩の連続で僕は「暗黒期」だと思っている。

身近な中学1年生の男の子を想像できる?

まだ成長期を迎えていない、小学校を卒業したばかりの13、14歳。

その男子中学生が、自分がゲイであることを親や友達にひた隠しにして生活していた。

「とてつもない孤独」を感じ始めると同時に、さらに「結婚できないこと」「子どもを持てないこと」「バレたらいじめや差別の対象になること」を抱えなければならない。そんな過酷な心情を持って中学時代を過ごした。

何も考えずにヌクヌクと温室育ちな自分に、急遽試練が与えられたんだと思う。当時はまだインターネットが普及し始めて、ポケベルやPHSが流行していた。インターネットができるPCを家族で1台だけもっていたような時代であったが、幸い自分の家は「事務所」兼「自宅」だったため、父親が仕事終わった後にインターネットで同性愛についてこっそり検索も出来たりしていた。

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自分がゲイだと気づいた、その2週間後、つまり中学1年生の時に初めて出会い系の掲示板をつかって28歳のゲイの男性に出会った。人生で初めて会う自分以外のゲイの人に対して緊張したが、とても気さくでいい人であった。親戚のおじさんのような感覚で接してくれた。

今思えば、本当に怖いことをしたな、と思う。

中学生が出会い系で見知らぬ人に会うだなんて、本当に怖いと思う。なんなら今でも怖いのに。そして、その掲示板で出会った「いい人」が最初で最後であった。なぜなら他の人は「いい人」ではなかったからだ。

「掲示板を使って出会えるゲイの中学生」だなんて、そういう性癖の持っている人しか現れないからだ。「公共の場で会いましょう」と言っても車でくるやつが多数いて身の危険を感じるようになった。中学生がホテルにおじさんと入ることができないから、みんな車で来るのだ。

そして、本当にはじめの「いい人」以外は、9割9分変態でしかも気持ちが悪かった。幸い性的暴行の被害はなかったが、失望が大きかった。ゲイの友達もできないし、ろくな奴がいないのか。そして大人になったら、僕も気持ち悪い人になるのかもしれないと落胆した。

なんだかサラと話してると、そんな中学時代の暗黒期を思い出した。

「大変だったね」とサラは言った。

サラの方がきっと大変だったのだろう。LGBTQの中でもゲイはまだ多数派である。Qであるクィアのサラは、我々Gのゲイでも理解することが難しい。

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「もう昔のことは忘れてしまった」と僕は答えた。ここで書いたことを英語で説明するのには時間がなかった。

しかし実際これだけ書いておきながら、中学時代のゲイ活動は詳しくは覚えていない。大きな被害はなかったし、「気持ち悪い人が多かった」という言葉だけは覚えているが、何が気持ち悪くて、どんな顔の、どんな体型の人と会っていたかなんて覚えていない。人間都合の悪いことは覚えていないのだろう。

ただ言えることは、LGBTQであることを早い時期に認識すると危険が多いと思った。あまりに若すぎて孤独感や絶望感が受け止めきれないことや、若いからこその出会い系での危険が待っている。もしかしたら、そのせいで性格が歪んだかもしれないが、こればかりは元々の性格も反映すると思うので、なんとも言えない。

でも、今もし中学生のゲイに目覚めたばかりの子に出会うことがあったら、老婆心で色々アドバイスをする気持ち悪いおじさんに成り下がるのかもしれない。中にはそんなおじさんもいたのかもしれないが、歪み始めた中学生には何も響かなかったのだろう。

アメリカに来て初めてのゴミ拾いボランティア。サラに出会えてよかった。過去の絶望を救うために幸福度を上げる必要があるのなら、今後もこのボランティアに参加していく必要があるのだろう。サラは今は彼女を幸せな時間を過ごしているだろうが、本当のところは誰にも分らない。

最後に、サラにどこに住んでいるか聞かれた。この駅の近くだよ、と教えたら「とても良いアダルトショップがあって、大人のおもちゃもいいのが沢山あるよ」と教えてくれた。これが例の『現地人が教えてくれる有益なローカル情報』なのだろうか。とりあえずGoogle Mapにメモをしておいたが、たぶん行かないだろう。

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