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女子高生とメル友(死語)になった話【最終話】

顔写真を送った後に来た衝撃のメール。
『私あべくんのこと好きになったかもしれない』

サトミからのメールを見た瞬間グッと心臓を掴まれたかと思った。時が止まった。
嬉しい、嬉しすぎて頭が真っ白になった。

しかし、冷静になれと別の自分が言う。
そう、別に好かれたからと言って付き合うとかそんなんじゃないだろ。相手は遠く離れた神奈川に住む女子高生、顔も知らない。こっちは大阪の26歳。顔だってたった1枚の画像しか見せていない。ただの相談相手、親戚のお兄さん的な存在なんだよ、冷静になれよ、冷静に。

動揺したまま考えて、考えて、考えて、ようやく返事を返す。

「ありがとう、めっちゃ嬉しい」
普通だ。

軽く混乱していたからなのか、正直その後のやり取りは全く覚えていない。
ただその流れもあって、当日か後日かは忘れたけれどサトミの方からこんなことを言い出したことだけはハッキリ覚えている。

『プリクラを送りたい。私の顔も見てほしい。だから住所を教えてほしい。』

困った。嬉しいが困った。

前にも書いたが私のはカメラ付き携帯だけどサトミの携帯にはカメラが付いていない。だからサトミは携帯で写真も撮れないしメールに添付して送ることも出来ない。なのでプリクラを送ろうと考えたのだろうが、当然ながら郵便だと住所と氏名が必要となる。
携帯の番号はもちろん知られているが、サトミには住所どころか私の本名だって知らせていない。

教えるべきか、教えぬべきか。
迷った、が、意外とすぐに結論は出せた。
住所を教えよう、と。
1年以上メル友として会話を続けてきたのだ。今更騙して悪用しようなんて思わないだろう、きっとそう。サトミに限ってそんなことしない。

私は一人暮らしをしているマンションの住所をメールに書いて送信した。もちろん本名も添えて。


そして一週間後、玄関の集合ポストに入っていた真っ赤な封筒を見て胸が高鳴った。
サトミからだ。
いかにも女子高生って感じの丸文字とカラフルなペンで私の名前と住所が記されている。差出人は「神奈川県 サトミ」としか書かれていなかった。消印は横浜市内だったと思う。

急いで自分の部屋に戻りはやる気持ちを抑え封を丁寧に開ける。
中には便箋が2枚、その便箋の1枚にプリクラが貼り付けられていた。

便箋には手紙とプリクラを送るのにメチャクチャ緊張してること、受験勉強頑張っていること、今まで相談に応えてくれたことへの感謝の言葉が書かれていた。文面からして恋愛って感じではなく頼れる先輩くらいの距離感だったことに少しガッカリしたりして。
貼り付けられたプリクラは友達と二人で撮ったもので、こっち側が私だよって書かれていた。

かわいい…マジでかわいい…

もちろんプリクラだからそんなにクッキリと写ってる訳じゃないけど雰囲気はよく分かる。当時のプリクラはほとんど加工ができなかったのだ。
長い黒髪、大きい目、フワフワのマフラー、紺色の制服。
やっぱり高校生だよなーって感じだけどこんな子だったのかー、こんな子がメールしてくれていたのかー、嬉しいなーって素直に思った。

「プリクラ届いたよ」
珍しくこちらからメールを送った。

『良かった、でも恥ずかしい、嫌いになった?』
「かわいい!予想以上にかわいい!」
『本当に?』
「ホントにホント、手紙もありがとう」

なんか付き合う寸前の男女みたいなメールを送り合う。前の彼女と別れて数年、久しぶりに幸せな時間を感じていた。


しかしというか、やはりというか。
そんな幸せな時間はあっという間に終わりを告げる。

そんなやり取りがあったのにそれ以降メールが来る頻度は特に増えなかった。手紙とプリクラを送るという一大イベントを終えてしまい、お互い顔を知りあったことで急速に熱が冷めていったのかもしれない。

しばらくして大学に受かった、春からは大学生になるというメールを最後にサトミからの連絡は途絶えた。私もまた、合格おめでとうと送って以降メールを送ることはなかった。

きっと充実したキャンパスライフを楽しんで彼氏もすぐ出来ただろう、だってあんなにかわいいんだから。
卒業して働いて…今は30代後半か、結婚して子供もいるだろうか。日々の子育てに疲れながらも家族との生活に幸せを感じたりしてるのだろうか。

私はサトミのことを思い出すことも少なくなり、それと同時期くらいに今の奥さんと知り合いさらにそれから7年経って結婚をした。
結婚が決まって新居へと引っ越す際にサトミからの手紙とプリクラは処分した。携帯に残っていた電話番号も消した。妻に見つかって変な誤解をされるのも困るからね。

もうサトミと連絡を取ることもできないし顔も思い出せない。仮に近所に引っ越してきていてすれ違ったってお互い分からないだろう。なんせ20年も前の話だから。

ただ2年近くメールを送り合って顔写真まで送りあったことは事実だし、そんな女性が日本のどこかに今も生きているんだよなって考えたらとっても不思議な気持ちになる。
その女性は「かつてメル友がいて手紙とプリクラまで送ったんだっけ…」なんて今の私のように思い出すこともあるのだろうか。いやもう一生忘れたままかもしれないな。
それならそれでいい、もともとお互いメール以上に交わる人生じゃなかったのだから。

それでもガラケー時代の生活をなんとなく思い出している時に、10年振りくらいに顔もはっきりと覚えていないあの子のことを私は思い出した。
そして今更手紙とプリクラを処分したことをちょっと、いや激しく後悔している。


あの子には絶対に届くことはないだろうけど、もしも届くならこう伝えたいんだよね。

サトミちゃん久しぶり!元気だった?私○○は元気だよ。お互い20年間色々あっただろうけど、メールじゃ追いつかないだろうから、今度は初めて電話で話してみよっか!


〜完〜
長々とお読みいただきありがとうございました。

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