男女の役割(ジェンダーの視点より 9)

 ロビン・ウイリアムス主演のヒツト作「パッチ・アダムス」 は実話に基づく映画だ。ピ工ロの格好をして、笑いにあふれた医療活動を無料で続けてきたパッチ・アダムス。2年前、そのパッチの神戸での講演会に行ったことがある。
 いつも患者を笑わせてばかりいる、やさしく柔らかい人物…そんなイメージを僕はパッチに重ねていた。だが、実物のパッチは堂々とした体躯の男で、その存在からは柔らかさよりもまず怒りが感じられた。 彼はその話をまず911以降のアメリカ批判から始めた。ブッシュ大統領について話しながらパッチは 「彼は史上最悪のファシストだ。世界中で弱い立場の者が犠牲になっている。特に子どもや女性が一番犠牲になっている。私は本当に怒っている」と言って床に唾を吐く真似をした。
 そうか、こんなに激しい怒りを内に秘めつつ、ピエ口を演じている人なんだと知って、僕はさらに彼への共感を深めたのだった。
 そんな強いアメリ力批判の後、パッチはやっと愛について語り始めた。身近な者への愛、自然への愛、 芸術への愛、観つめ考えつづけることへの愛。自分と、最愛のパートナーのスーザンは「観つめ考え続けるということにおいて結びついているのだ」と彼は語った。
 そこから最後に彼は、スーザンとの恋愛(ロマンスとしての愛)に話を進めた。「スーザンに愛されていることは、そしてスーザンを愛することを許されていることは、人生最大の幸福なのだ」と語り、皆の前で何度も「スーザン、愛してる」と言うのだった。
 講演の後半に、今度はそのスーザンが前に出てきた。やわらかで温かい工ネルギーを発するチャーミングな女性だった。「そうか、パッチはこの女性と恋愛しているのか」と思うと、微笑ましかった。
 スーザンは「愛の戦略」について話した。「愛と戦略はふつうは結びつられる言葉ではないが、あえて結びつけよう。どのようにして愛を世界に広めていくか。そのためには、 戦略が必要なのだ」と彼女は語った。
  僕はこの二人のパートナーシップはとてもおもしろいと思った。パッチが「いかつい体」で「愛」について語り、スーザンが「柔らかな物腰」 で「戦略」について語る。この「女性性」と「男性性」の二重の絡まり合いが、全体として豊かな螺旋ダンスになっていると感じた。
 魂や芸術の分野でよい仕事をする人は、男も女も両性具有的な存在である場合が多い。だが、両性具有的な存在になれば、何もかも一人でできて、異性のパートナーはいらなくなるのかというと、そうとは限らないと思う。
 本当に深みのある、スケールの大きい豊かな仕事は、両性具有的な男と両性具有的な女が、協力しあうところに生まれるものではないか。陰陽☯を内在させている男女が螺旋ダンスを踊ることで都合四つの陰陽が絡まり合うダンスが起こるのだ。
 そういえば、プロセス・ワークのアーノルド&エイミー・ミンデルの場合もそうではないか。

もしも心動かされた作品があればサポートをよろしくお願いいたします。いただいたサポートは紙の本の出版、その他の表現活動に有効に活かしていきたいと考えています。