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中国脅威論の虚妄 6年前の文章

2016年12月13日
『沖縄自立と東アジア共同体』に掲載されている10の論考のうち、一番おもしろかったのは「安倍政権が弄ぶ『中国脅威論』の虚妄」高野孟。次におもしろかったのは、「鳩山政権崩壊と東アジア共同体構想」木村朗であった。
後者がなぜ鳩山由紀夫自身の書いた論考よりおもしろかったかというと、鳩山政権や小沢一郎がどのような勢力によってどんな風にしてつぶされたのかが、つぶさに分析してあるからである。
この詳細な分析が持つ意味は、日本人全体が沖縄全体を無意識の植民地意識で差別しているから、普天間基地の県外移設はかなわなかったというような「感情論」よりも、精密な点である。誰がどんな風にして、鳩山を欺き、マスコミを操作し、その政権をつぶしたか。このことを正確に見定めていることである。
国外移転の方向をまだ十分に検討していない時期における徳之島案のリーク。「(訓練の一体性のため)移転先は普天間から65マイル以内に限る」という米軍マニュアルが鳩山に示されて鳩山は徳之島案を断念したが、このマニュアルは米軍には存在せず、捏造されたものであったこと。その時点ではもう改めて国外移転案に戻って考える時間的猶予が残されてなかったこと。(鳩山が自ら期限設定をしたのは彼の失敗であろう。どんなに時間がかかっても最善の道が見つかるまでやるという姿勢が望ましかったであろう。)などなど辺野古案への回帰に落とし込んでいくために張り巡らされた罠。詐欺。
つまり、官界、政界、財界、報道界、学会による支配の実態がよく調べられている。
が、この論考も後半は、この本全体を覆っているややおおざっぱな感情論的総論に回帰するのが、ちょっと解せなかった。
撃つべきところは正確に撃たねばならず、そのためには、現実的な細部の分析から最後の最後まで目をそらしてはならない。球筋を見極めているのにいざバットを振る瞬間に感情論に戻ってはいけないのではないかとこの論考の終結部に対して感じたと正直にメモっておこう。
いずれにしろ、東アジア共同体構想は、米国の深く怖れるところであることは確かである。
基地移転問題解決の期間を限定し、自らの首をしめていったんは視野も狭まり、結果、罠にはまった鳩山ではあるが、彼は今も諦めてはいない。
国民皆が情報を改めて共有して、東アジア共同体構想を前に進め、常時駐留なき安保を中間段階として、最終的には東アジアからの米軍撤退を目指すという長い闘いは端緒についたばかりである。
なお以前にタイムラインで少し対話した、日中韓のFTAは、日米のFTAとは違って、経済的結びつきを強めるものとして望ましいかどうかという点についてだが、鳩山の構想では東アジア共同体内のFTAにおいて「食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興を損なうことはしない」という条件が最初から付されていることも明記されていた。
細部の議論を共生や独自性の保持に向けて前向きにできるなら、東アジアの経済的な結びつきは基本的には拡大が望ましいというのには賛成ができるのではないか。

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