見出し画像

イジメと人種差別は教育の本質の問題



僕はこれまでに5度、南アフリカを訪問したことがある。

その度に日本では経験できない様々な体験をした。

その中でも、僕らに付いてくれたボディガードから聞いたアパルトヘイト時代の話は今でも忘れることができな衝撃だった。


フェリックス(ボディガード)は黒人だ。

デパートに行っても入店を断られることもあった。僕らと一緒にいてもだ。

僕はその光景を目の前で見て、初めて人種差別の意味を知った。

実は5度の訪問でフェリックスは2度僕らのボディガードに付いてくれた。
話によると偶然らしい。

僕とフェリックスは拙い英語で話すようになり、友だちのような関係になっていった。

僕はどうしてもフェリックスに聞きたいことがあった。

それはアパルトヘイトについてだ。

黒人人種差別。アパルトヘイト。
(実際には白人と非白人を隔離するというもの)※詳しくはググッてください。

ブラジルにいたときは差別を感じたことがなかった。

だからこそアパルトヘイトがどんな差別だったのかを知りたくなった。

ただ、アパルトヘイトは黒人にとってものすごく辛く厳しい時代の現実なので、本当に興味だけで聞いていいのかという葛藤もあったが。。。

フェリックスにアパルトヘイトのことを聞いてもいいか?と訪ねたところ、彼は笑顔でいいよと答えてくれた。

彼から聞かされた話は衝撃以外の何ものでもなかった。

彼はこう話した。

人として扱われたことがなかったと。

当時彼は15歳。

思春期で多感な時期なのは年齢からもわかる。

そんな彼を襲った人生で最悪の瞬間と語る3つの出来事があった。

それはどれも人間として扱われることがなかったと振り返るほどの体験だったようだ。



1つ目は、夕方の17:00ころ外を歩いていたら2人の白人警官に呼び止められ、こう聞かれたと言います。

「お前らネルソン・マンデラを知っているか?」

当時ネルソン・マンデラは黒人社会の中で絶大な影響力を持っていました。

その影響力を恐れ始めた白人たちは手段を選ばず、黒人から情報を聞き出そうとしていたのです。

フェリックスは言いました。

「僕は何も知りません」と。

実際にこのときフェリックスは本当に何も知らなかったようです。

そう答えた次の瞬間、彼は車に乗せられ倉庫のようなところで監禁されます。

そこで、また

「ネルソン・マンデラのことを知っているか?」と聞かれたそうです。

知らないので答えようがない。

その次の瞬間、フェリックスは白人警官に手足を縛られ、お腹をナイフで刺されえぐられたと言います。

その後、手足を凍らされたり、熱湯をかけられたりといった拷問を受けるのです。

フェリックスが見せてくれたお腹の傷や手足の火傷のあとは生々しく痛々しい傷でした。

2つ目は、友だち10人ほどでサッカーをしていたときのことです。

急に護送車が現れ、白人警官が降りてきました。

「お前ら全員今すぐここに並べ!!」
「それからゆっくりと車(護送車)に乗るんだ!!」

そう言われたようです。

フェリックスたちは言われたとおり、一列に並び車に乗り込もうとしました。

その時、フェリックスの3人ほど前に並んでいた友人が急に走り出したそうです。

フェリックス曰く、拷問されるのが怖かったのだろうと。。。

友人が走り出した次の瞬間、白人警官はなんの躊躇もなく銃を撃ちました。

その銃弾は、フェリックスの目の前で友人の後頭部から入り、オデコを破裂させるように貫通したと言います。

何もできず、その場に呆然と立ち尽くすフェリックスが僕には想像できました。

護送車に乗せられたあとは言うまでもありません。


3つ目は、人として生きてることがこんなにも苦しいのかと思うことだったと前置きした上で話し始めました。

ある日、友人5人と町を歩いていると、そこに二人の白人警官がやってきました。

その警官は今まで見たことがない警官だったと言います。

いつものごとく、白人警官から「お前らネルソン・マンデラを知っているか?」と聞かれたそうです。

本当のことを言おうが嘘をついて知っている言ったところで、やられることは変わらない。

フェリックスはいつものように、「知らないです」とだけ答えた。

すると二人の白人警官は、彼らを車に乗せ、川まで連れていきました。

川の縁に立たされた5人に、警官は同じ質問をしてきたそうです。


「お前らネルソン・マンデラを知っているか?」

友人の一人が直ぐに「知りません」と答えると「本当か?本当に知らないんだな」と言われ、「はい」と答えた次の瞬間、白人警官二人が友人を川へと投げ込みました。

次の瞬間、フェリックスは目を背ける光景を目の当たりにします。

その川にはワニが生息しており、投げ込まれた友人を何匹ものワニが引きちぎるように友人の身体に噛み付いたのです。

そして、フェリックスともう一人の友人除く3人が次々とその餌食になりました。

フェリックスは死を覚悟したと言います。

残り二人になったところで、もう一度「お前らネルソン・マンデラを知っているか?」
と聞かれたそうでうす。

フェリックスはハッキリとした声で「知らない!」と答え、「殺してくれ」と思ったそうです。

しかし、白人警官はフェリックスとその友人を町へ帰したのです。

その理由は、ネルソン・マンデラの勢いが強くなる中、二人を町に戻すことで、この恐ろしい体験が町中を駆け巡ることになります。

一人だけ帰してしまうと、嘘だと思われる可能性がある。

でも、二人がその話を語れば、それは真実として黒人社会に広がります。

そうすることで、死にたくないと思う人が現れ、ネルソン・マンデラの情報を白人警官に伝える人も出てくると考えたのです。

フェリックスはその意図がわかっ時は、廃人になった気分だったと言いました。

人として扱われない苦しい時代を生き抜いたフェリックスに僕はこう聞きました。

アパルトヘイトが終わったけど、今犯罪が増え、南アフリカのイメージはとっても悪くなってる。

ちゃんと教育を受けるような社会が必要だと思うか?と。

フェリックスは答えました。

そうは思わない。

ただただ、あの頃に戻りたくないだけだ。

犯罪は生きていくうえで仕方のない手段だ。

あの頃に戻らないためにも今のままでいいと。


その時僕は確信しました。

「教育」は絶対に必要だと。

ただ、教育という常識にとらわれて、自分の人生を生きず、他人の目の中を生きるような教育にはしたくない。

そう思っています。

最後に僕はフェリックスに、辛い体験を思い出させてしまってごめんね、と言いました。

するとフェリックスは、
「僕があなたにお礼を言いたい。なぜなら、今までそんなことを聞いてくれた人やアパルトヘイトのことに興味を持ってくれた人はいなかった。みんな僕らを腫れ物に触るかのように見て見ぬふりをしてきたんだ。あなたのお陰で、閉じ込めていた嫌な思いを全部出すことができた。だからありがとう」

そう言って笑ってくれたフェリックスも僕も涙が止まらなかった。

僕は、一人でも多くの子に教育を受けてもらいたい。

のびのびと自分人生を生きるためにも、教育は必要だ。


しかし、今のままではダメだ。

いじめ問題と向き合い、大人が子どもを所有物化させるこの時代を変えたいと思う。

フェリックスが生き抜いたように、逞しく自分の人生を生きてもらいたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?