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”飛ぶのは恥”(Flight Shame)とは? 必要悪?PART①

【所要時間約5分】

シャイナタウンのサスティナブルオフィサー兼"able sustain."担当のエリナです。

「恋人が出場するスーパーボウル観戦のため、東京でのコンサート後にラスベガスへ移動していた。スーパーボウルが終わると、週明けにオーストラリアに移動して公演を行う」

テイラー・スウィフトの多忙なスケジュールに注目が集まり、SNSでは「体力おばけ」「やっぱりプロだ」の賞賛の言葉で埋め尽くされた。確かに彼女は人々に感動を与える仕事をしている。しかしCelebJetsの調査によると、2022年のスウィフト機のCO2の総排出量は、平均的に1人が飛行機利用で排出する量の約1,200 倍だったらしい。

CelebJetsは世界の飛行データをまとめているADS-Bエクスチェンジのデータを使い、(イーロン・マスク含む)セレブのプライベートジェット利用によるCO2排出量を調査してきたが、発信拠点であるX(旧Twitter)のアカウントは暫く凍結されている。

飛び恥とは

「飛び恥」という言葉、聞いたことがあるだろうか?
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の略語である「逃げ恥」に寄せて造られた説もあるが、英語では”Flight Shame”。大量にCO2を排出するため、環境負荷が大きい飛行機の利用を「恥」と考えるという意味だ。

スウェーデンでは、同様の意味を持つ”flygskam”が2019年の流行語となった。環境活動家のグレタはニューヨークの気候会議に参加するためにヨットで大西洋を横断したが、その真の目的は飛行機なしでの移動がいかに非常識で困難であるかを社会に発信するためであった。

一部の国内線ルートが廃止に

近年では例えばフランスでは、鉄道で2時間半以内に移動できる路線の国内線ルートのフライトを廃止する法律が施行された。そういった短距離路線では、飛行機に乗ることによってわずか40分しか短縮できないにもかかわらず、乗客1人当たり平均77倍のCO2を排出しているそうだ。

経済的合理性があれば、日本国内でも短距離路線から見直しが進められても良いと思う。
東海道新幹線の場合、東京~新大阪がちょうど2時間半弱だ。羽田・成田と伊丹・関空を結ぶ4航路と羽田・成田〜中部国際空港間を飛ぶ1日合計60往復近くの便が禁止対象となる(乗り物ニュース、2023/5/26)。

多くのサラリーマンは東京~新大阪間の新幹線での2時間半には慣れているだろうが、飛行機を利用する一定数の客が新幹線利用に移行することを考えると、増便の対応は必須だろう、運賃が上がるのが心配だなと次々と意見が出てくる。

快適で、高速な移動手段を求めて

ここで読者の皆さんに聞きましょう。

あなたは1年に何回飛行機を利用しますか?
以前国際線を利用して時差ボケを体感したのはいつですか?

ある研究結果によると2018年に飛行機を利用した世界人口の割合は11%で、国際線に絞るとその人口は多く見積もって4%であった。コロナ禍を経てリモートワークの普及等により、さらに利用頻度・人口は減っているだろう。

と言いたいところだが、コロナ禍において富裕層の界隈では人混みを避けて搭乗することの出来る、プライベートジェット機による旅が注目された。調べてみると、ひとりで一機を所有するのではなく、複数人で分割所有する投資物件があるそうだ。

NetJetsが提供しているサービスの概要を見てみよう。

最小単位のプランが、年間25時間のリースプラン。
年間約4000万円(250,000ドル)支払えば、好きな時に25時間、セスナやエンブラエルの小型ジェット機を利用することができるというもの。ただし3~5年契約で、利用の24時間前までに予約が必要だ。

リフレッシュのための睡眠と最新のテレビ番組をお楽しみください。家族との充実した時間をお過ごしください。NetJetsは、心身を癒し、次なる旅に備えるための贅沢な設備と落ち着いた雰囲気をご提供いたします。

NetJets

もしも自分が飛びぬけて裕福であれば、快適な移動空間を求めてプライベートジェットの利用を選択する思考になるのだろうか。世の中、大方の不満や問題はカネで解決できると言うが、カネで解決して一件落着で良いのだろうか。

テイラー・スウィフトの高速移動を分析

冒頭で触れた通り、テイラー・スウィフトは今年2月10日に東京でのライブを終えてからプライベートジェットでアメリカへ移動し、11日にラスベガスで開催のスーパー・ボウルに参加する予定だった。彼女の慌ただしい旅程を推測する多くの記事が書かれた。

12時間のフライト、17時間の時差、果たして次の予定には間に合うのだろうか・・・算数の問題のようだが、時差ボケは仕方ないものとして、結論として彼女はある程度余裕を持って現地に到着できたそうだ。

ではプライベートジェットではなく、民間航空機を選択する余地はあったのだろうか。Googleフライトによると最短のルートは、ANAでサンフランシスコまで行き、そこからラスベガスまでユナイテッド航空の便に乗り継ぐというもの。そのルートの所要時間は税関での手続きも含めて約12 時間45分であるため、プライベートジェットと遜色ない移動時間となる。

彼女はアメリカ国内の移動においても、バスで4時間以内に行ける距離を飛行機で移動しており、「飛行機による移動でCO2を排出した犯罪者セレブランキング」(top 10 celebrity CO2e offenders, YARD, 2022)の1位に輝いた。ちなみに2位はメイウェザーだった。

この記事だけでなく、高頻度のプライベートジェット利用を明るみにするための市民側の動きに対して、彼女の事務所や弁護士も動くことになった

カネで解決しようとする不均衡な構図

世界全体の個人消費によるCO2排出量の半分は、世界中で最も裕福な10%から排出されたものだ。世界人口の50%を占める貧困層から排出されるCO2は、全体のわずか10%に過ぎない。

Oxfam Climate Equality: A planet for the 99%

富裕層ほど温暖化の原因となる温室効果ガスを多く出し、貧困層ほど温暖化の被害が深刻化する構図がある。例え気温上昇が進行し、異常気象が頻発しても、富裕層や先進国に住む人々は、その被害から身を守るための技術などに投資して温暖化の影響を回避できる可能性が高い。つまり「カネ」で解決できてしまう

ちなみにスウィフトは「ツアーの旅費すべてを相殺するために必要なカーボンクレジット*の2倍以上を購入した」ことがある。

音楽業界も変わるべき時

セレブや政治家といった重要人物は、セキュリティ上、民間航空機を利用することは難しい。しかし未来世代のことを考えているなら、短距離移動では別の交通手段を用いることや、ツアーの頻度を減らすことは可能であろう。

ビリー・アイリッシュはTIME誌による2023年の気候変動に対して影響力を持つリーダー”TIME100 CLIMATE”の一人として選ばれた

日本でも一昨年前に公演を行った彼女だが、Music Decarbonization Projectを自ら立ち上げて気候危機の時代における音楽業界のあり方を提案しており、プライベート・ジェットを使わないことをポリシーとしている。

コンサートやツアーを脱炭素化するためにはどうしたら良い?
主役であるアーティストの移動以外にも会場の照明等のセットやスタッフに提供される食事、さらには訪れる観客の導線も含める必要がある。

ビリー・アイリッシュの2022の世界ツアーのインパクトレポートによると、具体的な対応策が書かれていた。

・アップサイクルされたグッズの販売
・ディーゼル発電機の代わりに、太陽光発電による蓄電システム
・給水ステーションの設置
・ケータリングでのリユース・堆肥化可能な容器の使用
・植物性食品(Plant-based)の提供
などなど

これなら私たちも”罪悪感”なく参加できそうだね。
次回の記事でも引き続き飛び恥について取り上げます。罪悪感もキーワード!(エリナ)


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