翻訳/AURORA"Half the World Away"

♦イントロダクション

 前回に引き続き、ノルウェイ出身の新人アーティスト/AURORA(オーロラ)を紹介します。

 今回とりあげる楽曲は“Half the World Away”––––イギリスの有名バンド、オアシスの歌のカヴァーです。

 昔から知られている楽曲なので邦訳もたくさんあるのですが、当然すべて男性の口調で訳されています。

 しかしAURORAは女性ですので、今回はこの曲の女性口語訳に挑戦いたします。

 まず、アーティストと楽曲の紹介をどうぞ。


・AURORA

 AURORAが最初に大きな注目を浴びたのは、かのポップスター・ケイティペリーにTwitter上で絶賛されたときでしょう。数千万にのぼるケイティのフォロワーが一斉にAURORAに注目し、まさに“バズった”その瞬間、AURORAは自分のベッドのなかにいました。膨大な通知によって鳴り続ける自分の携帯電話によって目覚めたAURORAは、その時の気分を「おかしな目覚めだった」と回想しています()。

 そして次は、イギリスの百貨店『ジョン・ルイス』のクリスマスCMにAURORAの“Half the World Away”が起用されたときです。とにかく“泣ける”ことで定評がある『ジョン・ルイス』のクリスマスCMは、イギリス国内のみならず世界中にファンがいます。

 そのCMがこちら。

 カヴァー曲を使うのが毎年の通例となっている『ジョン・ルイス』のクリスマスCMですが、その例に漏れず、AURORAが歌っているのはイギリスを代表するロックバンド––––オアシスの楽曲のカヴァーでした。


Half the World Away

 オアシスは、ノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーというカリスマ兄弟を擁する世界的なロック・バンドです。

 この楽曲が発表された1994年は、オアシスにとって激動の年でした。4/11に“Supersonic”でデビュー、イギリスのチャートで31位を記録。6/13にセカンドシングル“Shakermaker”をリリースし、チャート11位。8/8に“Live Forever”で初のチャート・トップテン入りを果たし、勢いそのままに8/30、デビューアルバム“Definitely Maybe”を世に送り出しました(このアルバムは発売後一週間で86,000枚を売り上げる快挙を達成しています)その後、10/10に同アルバムから“Cigarettes & Alcohol”をシングルカット。そして12/18、クリスマスシングル“Whatever”をリリース––––このシングルのB面こそが、今回取り上げる“Half the World Away”なのです

 そう、『ジョン・ルイス』の広告制作陣は単に「過去の名曲をフレッシュにカヴァーした」ものを起用したわけではないのですね。そもそも楽曲の出自が「クリスマスシングルだった(しかもB面)」というあたり、かなりニクい演出です。

 このB面曲(最高のB面曲)は、かつてヒットしたイギリスのテレビドラマ『The Royle Family』のテーマ曲でした。ですから、イギリス人ならこの曲がテレビから流れてきた瞬間「なにこれ、めっちゃ懐かしいじゃん!」となるのは想像にかたくないです笑

 原曲はアコースティックな演奏に軽快なリズム、そこにオアシスのヴォーカルにして永遠の愛すべき“弟”––––リアム・ギャラガーの存在感のある声が加わって、まさに“ブリット・ポップ”といった仕上がり(ブリット・ポップ→1990年代のみんなでノッてアガれるロック、みたいな解釈です僕は)。

 対して、AURORAが歌う“Half the World Away”はまったく印象が違います。遠いところから孤独に響いてくるAURORAの声で歌われると、原曲の持つ素晴らしいメロディーが際立ってきます。作曲作詞をしたのは、永遠の苦労性の“兄”––––ノエル・ギャラガー。ミュージックビデオで観られるAURORAのダンスも秀逸で美しい。

 お待たせしました。では、曲をどうぞ。


**Half The World Away**

I would like to leave this city
この街から出て行きたいな
This old town don't smell too pretty and
古くて、いい匂いがぜんぜんしないし
I can feel the warning signs
頭の中で嫌な予感が
running around my mind
ぐるぐるしている
And when I leave this island
この土地から離れる時には
I'll book myself into a soul asylum
心の拠り所を確保するんだ
'Cause I can feel the warning signs
だって嫌な予感が頭の中で
running around my mind
ぐるぐるしているから

So here I go
じゃあ行くね
I'm still scratching around in the same old hole
こんな古巣の中じゃ同じことの繰り返しだよ
My body feels young but my mind is very old
体は若いのに、心はとてもくたびれてる
So what do you say ?
それで君はどう思う?
You can't give me the dream that are mine anyway
優しい言葉なんてくれないんでしょう、でも私は出て行く
You're half the world away
あなたは正反対の世界にいる
You're half the world away
あなたは正反対の世界にいる

And when I leave this planet
この星にさよならするとき
You know I'd stay but I just can't stand it and
まあ、しないけどさ。でもここに立ってるのも嫌だし
I can feel the warning signs
頭の中で嫌な予感が
Running around my mind
ぐるぐるしている
And if I can leave this spirit
もしこの心から解放されたら
I'll find me a hole and I'll live in it
本当の居場所を見つけて、生きるんだ
I can feel the warning signs
嫌な予感が頭の中で
Running around my mind
ぐるぐるしている

So here I go
じゃあ行くね
I'm still scratching around in the same old hole
こんな古巣の中じゃ同じことの繰り返しだよ
My body feels young but my mind is very old
体は若くても、心はとてもくたびれてる
So what do you say?
それで君はどう思う?
You can't give me the dreams that are mine anyway
優しい言葉なんてくれないんでしょう、でも私は出て行く
You're half the world away
あなたは正反対の世界にいるもの
You're half the world away
あなたは正反対の世界にいるもの

You're half the world away
あなたは正反対の世界にいる
I've been lost, I've been found
失くしたものも見つけたものもあったけど
But I don't feel down
わたしは落ち込んでない
You're half the world away
あなたは正反対の世界にいる
I've been lost, I've been found
失くしたものも見つけたものもあったけど
But I don't feel down
わたしは落ち込んでない
I don't feel down
落ち込んでないから



♦解説


・I'll book myself into a soul asylum

 Bookはこの場合「本」ではなく「予約する」といった意味になります。「ブッキングする」と言うときの「Book」ですね。

「Soul Asylum」は「精神病院」と訳すのがこの歌詞では通例になっているようですが、僕が調べた限り、英語圏で精神病院のことを「Soul Asylum」と呼ぶ証拠は出てきませんでした。おそらく、作詞のノエル・ギャラガー独特の言い回しである可能性が高いです。この独特さに関しては後述します。

 直訳すると「魂の保護施設」––––今回の訳では「心の拠り所」としました。


・言葉を引き出すための言葉


 So what do you say ? は「それで君ならなんて言うの?」という意味だとだとずっと思っていたのですが、あらためて調べてみたところ間違っていました。「What do you say ?」はネイティブの人がよく使うフレーズで、「君はどう思う?」という意味だそうです。もっと言えば、「賛同してくれるよね?」といったニュアンスも含まれているのだとか。

 そして、ここからは僕の解釈になりますが、フレーズのなかに「Say」という単語があることからこのフレーズは言葉を引き出すための言葉なのだと思います。

 先日観た映画『ターボ・キッド』のなかにもこのフレーズが出てきたのですが、相手の気持ちを言葉で確認したい––––というシーンで使われていました。


・You can't give me the dreams that are mine anyway

 今回の訳でもっとも苦労したのがこの箇所です。直訳してみましょう––––

「あなたは私に夢を与えることはできない。それは私のものなんだ。どのみち」

 となります。

 ……。

 なんかいきなり怒ってるんですよね。

 いえ、怒っていてもいんですが、文脈にそぐわないのが気になりました。新キャラ“You”がいきなり登場しているし、“夢”ってなに? “それ”ってなに? と疑問ばかりが膨らみます。

 まずこの夢ですが、この歌詞に出てくる“わたし”の願望は「ここから出てゆくこと」です。ならばここの訳は次のようになるでしょうか。

「あなたはわたしをここから出てゆかせることはできない。それはわたしのものなんだ。どのみち」

 わかるような、わからないような。いえ、やっぱりよくわからない、ですよね。

 そこで着目したのが、このフレーズの前にある「So what do you say ?」です。「What do you say ?」に関しては前述しましたね。そう、僕の解釈も含みますが、“わたし”は“君”の言葉を欲しがっているのです。なおかつそれは単なる言葉ではなく、賛同の言葉を欲している。つまり「そうだね」とか「僕もそう思うよ」とか「一緒にいくよ」とか、そういう言葉を得ることが“わたし”望み––––夢なのです。

 そして「that」が指すのはその夢のことでしょう。ならばと思い、訳を少し飛躍させて次のようにしました。

「You can't give me the dreams that are mine anyway(優しい言葉なんてくれないんでしょう。でもどっちにしたって、出て行くかどうかの意思は自分のものなんだ)」

 と、こんな感じでしょうか。

 ただちょっと長いですよね。訳文を読んでいるあいだに歌がどんどん先行していってしまうのは避けたいところです。ですので最終的には以下のようにいたしました。

「優しい言葉なんてくれないんでしょう、でも私は行く」

 これでスッキリしました。さらに二人の登場人物(私と君)の関係性も見えてきました。

“私”が賛同を求めているのに、“君”は手を差し伸べてはくれなさそうなのです。

 いったいなぜなのでしょうか? それは歌詞の次の行でわかります。


君は半分だけ外側の世界にいる

You're half the world away」

 これは「お前は地球の反対側にいるんだ」とか「お前は裏側の世界にいるんだ」みたいに訳すのが通例のようです。

 ここで言われているのは距離のことです。地球を宇宙空間から眺めたとき、地表上で最も遠い距離は世界の裏側ですよね––––これが、半分だけ外側の世界、ということです。

 最も遠い距離、というのが重要です。これに関しても後述します。


・You know I'd stay but I just can't stand it and

「You know」は文頭で使われる場合「〜でしょ?/〜じゃない?」みたいな意味になります()。

 さらにもっとくだけて「ええと/あのさ/でね」みたいに使われることも()。

 You knowはさまざまな歌詞や映画や小説で頻出する言葉です。そして僕程度の英語力だとだいたい訳に困ります。でもこの言葉には不思議な親しさがあって、「You know」を訳すの嫌いじゃないです。

 さて、以下に書くのはあくまで僕の解釈なのですが、

 誰にでもありますよね、こんな瞬間––––「ええとなんていうかさ、うまく言葉が出てこないんだけど、わたしがいま言いたいこと、ほらアレだよアレ、分かるでしょ?」という瞬間が。そんなとき会話を埋めてくれる便利な言葉、それが「You know」なのかな、というのが現時点での僕の解釈です。

 話を元にもどします。以上のことを踏まえたうえで、問題の箇所を直訳してみましょう。

「まあ、わたしは留まるでしょうね。でもここに立っていることもできない(You know I'd stay but I just can't stand it and)」

 前の行では「この星から出てゆくとき(さよならするとき)」と話しているのに、いきなり「留まる」と言っています。矛盾しています。何なのでしょうこれは? 

 それで考えたのは、

 これはつまり、「気持ちが昂って街どころかこの星からすら出るって言っちゃったけど、さすがにそれはないな」と方向修正しているのではないかな、と。でも「それくらい嫌なんだ」ということは言いたいのでしょう。だから「立っていることもできない」んじゃないか––––。

 よってここの訳は、

「(星を出るなんて)まあ、しないけどね。でもここに立ってるのも嫌だし」

 となりました。


・I will と I would

 I willは「〜したい」/I wouldは「〜したいなあ」と、区別できます()。

「will」の方が「would」より意思が固いのですね。

 この歌詞ではまず「would」があり、印象に残ります(「この街から出たいなあ」)。だからこそ、「will」が使われている箇所が重要なのではないかな、と僕は考えます。

 この歌詞のなかで「will」が使われているのは次の2ヶ所。

1)I'll book myself into a soul asylum

 2)I'll find me a hole and I'll live in it

 どちらも場所に関係する箇所です。

 このことから、“私”の意思とは「出て行くこと」ではなく「場所を見つけること」なのだ、と言うことができます。ですので、

 I'll find me a hole and I'll live in it
 
 この訳は、

「本当の居場所を見つけて、生きるんだ」

 としました。

「will」の意思の強さを「本当の居場所」という言葉のなかに込めています。


・まとめ


「歌詞がダメ」と言われがちなのがオアシスの楽曲です。複数の歌で似たようなワードが頻出したり、韻を踏みたいがために言葉の適当なでっち上げをしたりと、作詞家としてのノエル・ギャラガーには前科がたくさん。

“Half the World Away”で言えば、「Soul asylum」という言葉に“でっち上げた感”がかなりあります。

 それでもたとえば、彼らの楽曲“Don't Look Back In Anger”の歌詞は国宝級だと思いますし(お願いだから君の人生を委ねたりしないでくれ/ロックンロールバンドなんかには/奴らは何でも放り投げてしまうんだぜ)、そして今回取り上げた“Half the World Away”の歌詞は文学的だと思います。

 美しい言葉がなくても、難しい言葉で韻を踏んでいなくても、文学的にはなり得ます。自分の言葉でしか表現できない“気分”をパッケージできていれば、それはじゅうぶん文学です。

 とくに“Half the World Away”のフレーズが素晴らしいです。「遠い距離」を「Half(半分だけ)」という単語を使って表現してしまう。これを文学と言わずしてなんとしましょう。

 さて、しめくくります。

 かなり可愛い歌詞だな、というのが訳し終わった今の感想です。AURORAが歌っているから可愛いわけではなく、純粋に歌詞が可愛いのです。

 街を出たい理由が「いい匂いがしないから」だったり、「この星にさよならしたら」と話し始めてすぐ「ええと、そこまではしないけど」と打ち消したり、「落ち込んでないよ」と執拗にくりかえしたり。

 きわめつけはこの箇所、

You can't give me the dreams that are mine anyway(優しい言葉なんてくれないんでしょう、でも私は行く)

 自分の夢を自分で否定してしまっています。

 わかりますか、この感じ、誰でも一度は経験があるのではないでしょうか。好きな人にメールできなかったり、ほんとうは欲しいスポーツカーを見て「こんなの街で乗れないよねえ」と言ってみたり。

 望むことで傷つくのが怖いのです。

 さあ、ここで不思議なことがひとつあります。

 半分だけ外側の世界にいると、どうして夢をあげることができないのでしょう? そもそも半分だけ外側の世界とはどこなのでしょう? 地球の裏側でしょうか。場所がイギリスなら、反対側は海です。

 そうではなく、

 この歌詞が示している遠い場所とは、ほんとうはもっと別の種類の距離感を表現しているのではないでしょうか?

 それはつまり、

 君が––––

 君が、他者だからだ。

 と、言っているのではないでしょうか。

 この歌詞の主人公は子どもっぽいですが「私と君は違う人間なんだ」という境界線を発見できるくらいには大人なのです(しかし、発見したその境界線を許容できるほどにはまだ大人ではない)。だから私はこう歌うのです。

 I've been lost, I've been found but I don't feel down

「失くしたものも見つけたものもあったけど、落ち込んでないよ」



 ––––おわり。


♦あとがき

 ここまで読んで下さって誠に有り難うございます。このノートは以前書いて間違って消してしまったものを再度書き起こしたものです。

 あの消去してしまった瞬間の気持ちは……あれは……かなりパンチを食らいましたが……再度書くにあたっては、内容を大幅に加筆しました。

 単に憶えてなくて同じものが書けなかっただけなんですけれど、書き直してよかったなと今では。

 次回はイーグルスの名曲“デスペラード”を訳します。

 

 

  


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