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どんなに道に迷っても帰ってくることはできる。イーグルスがあればね/Eagles"Desperado(ならず者)"【歌詞翻訳】

♦イントロダクション

 現在『世界で最も売れたベストアルバム』の記録を持ち、カントリー・ミュージックを世界で流通する音楽ジャンルにまでした立役者––––それがイーグルスです。

 1971年のアメリカ、ビートルズを解散によって失ったあとの世界にイーグルスは誕生しました。このときアメリカがなにをしていたかというと––––戦争、ベトナム戦争でした。

 サイゴン陥落を4年後に控えたこの時、すでに戦争は末期、また一方で、社会変革を訴えるカウンターカルチャーが掲げた理想主義はドラッグや暴力といった負の側面をも呼び込んで、内側からなし崩しになろうとしていました。

 あたらしい音楽が求められていたと同時に、精神的な成熟も必要とされていた時代だった、と言えるでしょう。こういう時代に、イーグルスはどういう歌を歌ったのでしょうか。

 今回は、1972年発表のセカンド・アルバムから『Desperado』を取り上げます。


**Desperado**

Desperado, why don't you come to your senses?
なあデスペラード、もう目を覚ましたらどうだい?
You been out ridin' fences for so long now
外に出たきり塀の上に登って、ずいぶん経つ
Oh, you're a hard one
まったく難しいやつだ
I know that you got your reasons
言い分はあるんだろうが
These things that are pleasin' you
お前の満足しているこの現状が
Can hurt you somehow
お前に牙を剥くかもしれない

Don't you draw the queen of diamonds, boy
ダイヤのクイーンには手を出すんじゃない 坊や
She'll beat you if she's able
そいつの力で打ちのめされるだろうから
You know the queen of hearts is always your best bet
そうだ、いつだってハートのクイーンに賭けることが最良なんだ

Now it seems to me, some fine things
ほら見える、素晴らしいカードがしっかりと
Have been laid upon your table
お前のテーブルに置かれている
But you only want the ones that you can't get
でも、お前は手に入らないものを欲しがるばかり……

Desperado, oh, you ain't gettin' no younger
デスペラード、ああ、もう若くはないんだ
Your pain and your hunger, they're drivin' you home
痛みや空腹が、郷愁をかきたてる
And freedom, oh freedom well,
それでも自由か、ああ自由ね、なるほど
that's just some people talkin'
そいつは誰かの戯言だよ
Your prison is walking through this world all alone
お前という牢獄は、孤独に世界をさまよっている

Don't your feet get cold in the winter time?
冬なのに足が凍えないのか?
The sky won't snow and the sun won't shine
雪が届かなければ、陽の光も射さない
It's hard to tell the night time from the day
昼か夜かの見分けもつかなくなって
You're losin' all your highs and lows
感情の起伏すら完全に失いつつある
Ain't it funny how the feeling goes away?
そんなお前の行く末は、愉快なものなのかい?

Desperado, why don't you come to your senses?
なあデスペラード、もう目を覚ましたらどうだい?
Come down from your fences, open the gate
そんなところから降りてきて、扉を開けてくれ
It may be rainin',
雨かもしれないさ
But there's a rainbow above you
けどお前の頭上には虹が架かってる
You better let somebody love you
誰かに優しくしてもらうのがいいんだ
(let somebody love you)
(そうしてもらいなさい)
You better let somebody love you
誰かに優しくしてもらうのがいいんだ
Before it's too late
まだ間に合うから



♦楽曲解説



・Eaglesが誕生した時代

 音楽的な時間軸で言えば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやピンク・フロイドがロックンロールを芸術的かつ実験的なものへと昇華させ、1969年にデビューしたイギー・ポップはアルバム『イギー・ポップ・アンド・ストゥージス』にて後のパンクロックを予見させる音を鳴らしていました。さらに1972年には異星から来た男=ジギー・スターダスト(デビッド・ボウイ)がラメ入りのレオタード姿でステージに降り立つことになります。

 ロック以外の音楽に目を向ければ、たとえばファンクの帝王ことJ・B(ジェームス・ブラウン)は「げろっぱ!」で有名なあのシャウトで後のポップの帝王M・J(マイケル・ジャクソン)を踊らせていたに違いないし、マンハッタン島の北東に位置する移民街ブロンクスでは「ブレイク・ビーツ/スクラッチの技法/ヒップホップという名称」が産まれようとする前夜でした。

 ロックンロールのみならず音楽そのものが多様化していったこの時代に、イーグルスはカントリー・ミュージックとロックンロールを融合させたスタイルを打ち出します。結成メンバーはグレン・フライ/ドン・ヘンリー/ランディ・マイズナー/バーニー・レドン。確かな演奏技術を持った四人のアンサンブルが最大の武器でした。

 そこに、若き実業家デビッド・ゲフィンや、才能あふれるシンガー・ソングライターのジャクソン・ブラウンらの協力もあり、イーグルスは成功しました。デビューアルバムに納められた『Take It Easy』はローリングストーン誌から「今年これまでに出たロック・シングルの中で最高(※)」と評されたのです。


・Dsperado

 彼らのセカンド・アルバム『Desperado』は西部開拓時代に実在した強盗団をモチーフにしたコンセプトアルバムです。アルバムの曲全体が“ドゥーリン・ドルトン強盗団”を追ったアメリカン・ニューシネマ風のストーリーに仕立てられています。

 このアルバムに対するメンバーのこだわりはアルバムジャケットのアートワークにも表れています。旧パラマウント社の西部劇のセットを借り、1500発の弾薬を抜いた銃弾を使用して撮影された写真には、“ドゥーリン・ドルトン一味”になりきるメンバーが写っています。

 こちらから見られます!

 西部開拓時代のアウトローの姿に、バンドは自分たちのイメージを重ね合わせたのですね。このアルバムは発表当時ファーストアルバムほど評価されませんでしたが、今ではバンドを代表する一枚となっています。


♦歌詞解説


・Why don't you come to your senses?

 優しく、すり切れそうに歌われるこの部分––––Senseとは感覚/気持ち、とりわけ適切で常識的な判断能力のことを言います。「おまえのセンスに任せる」と私達が日本語で言うとき、要は「おまえの適切で常識的な判断能力に任せる」と言っているわけです。そこにcome to––––「来い」というのはつまり「正気に戻れ/目を覚ませ」を意味します。


・You been out ridin' fences for so long now

 今回はなんの工夫も無く訳しましたが、この「ridin' fences」には「日和見的な態度をとる」という含みもあります。この部分に関する解説はWikipediaにも載っていますが、最初にこの説をといたのはたぶんこの人。マジですごいなと思います。
それはこんなイメージです。塀の上に陣取って傍観者を決め込んでいる。おまけに、そうすれば自分の都合のいいように物事が進んで行くとすら思っている。どうやらデスペラードはそんな人物らしいのです––––。


・Can hurt you somehow

 somehowには言葉を曖昧にする効果があります。日本語の「どういうわけか/なぜか/とにかく」と似た使われ方でしょう。この歌詞の場合は、物事を直接的に言うのではなくぼやかして伝わりやすくしようとしている、と解釈することができます。「このままだと(おまえは)傷つくぞ/ダメになるぞ」とだけ言うのでなく「まあ根拠はないんだけど、そうなることもあるかもね」と添えているのです。デスペラードに語りかけているこの人物は、優しいと同時にこういう駆け引きが出来る人間なのだ、ということがうかがえます。

 まさに大人、なのですね。


・まとめ

「desperado」とは「ならず者」のことを指します。

 さて、みなさんは「ならず者」と聞いてどんな人物像を思い浮かべますか? おそらく、ごろつき、無法者、ギャング––––といった感じではないかと思います。まさにアルバムアートワークに表現されている、ドゥーリン・ドルトン一味のような姿でしょう。

 では、「ならず者」とは今はもう失われた存在なのでしょうか?

 古い西部劇の中にしかいないような?

 しかし、待ってください、もう一度歌詞を読んでみてください。あなたが頭にイメージしたような人物は、そこにいますか? いないんじゃないでしょうか? 反対に、歌詞の中には、きっとこんな人物がいますよね––––「孤独で、自分勝手なのにナイーブで傷つきやすい」誰か。「子どもじゃないけど、大人でもない」誰か。

 その誰かは––––「ならず者」は––––西部開拓時代も、1970年代も、2016年のこの今も、確かにいます。

 この歌は教えてくれます。

 そんなところにいたら自分をダメにするぞ。

 大人になるんだ。

 外に出るんだ。社会に属し、人の話を聞き、立場をわきまえ、その上で自分のやりたいことを追及し、対価を得るんだ。

 そう、俺たち(イーグルス)のように。

 泣きべそをかくかもな。でもそんなときは決まって、お前の頭上には虹が架かっているんだよ。


 ––––了



(※)部分の情報はすべてTOブックスより出版されている『イーグルス コンプリート・ワークス』に依ります。←良い本!


♦あとがき

 最後まで読んでくださって有り難うございます! 白状しますと、「ならず者」は自分だ、と思いながら聴いて、訳していました。感情移入しすぎて意訳しまくりだったのを軌道修正してこの形になっています。

 DVDをレンタルしに行ったゲオで偶然流れていて、スマホアプリで調べたのがこの曲を知ったきっかけですね。そんな出会いですが、いまでは精神的に立ち止まるたびにこの歌を聴きます。

 カヴァーはぜんぜん網羅していませんが、僕的には、エルヴィス・コステロの奥さんであるダイアナ・クラールのカヴァーが好きです。

 そして最後に書いておかなければならないことは、今年の1月18日、バンドの結成当初からのメンバーであるグレン・フライが死去されたことです。67歳。彼はバンドのソングライティングを牽引する力強い一翼であり続けました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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