見出し画像

翻訳/Radiohead ”Creep”

♦イントロダクション

「洋楽のCDをレンタルしたらライナーノーツが(誰かの紛失によって)無く、歌詞の日本語訳がわからなくてモヤモヤした」

   あるいは、

「すっごい好きな洋楽の曲の和訳を調べたらピンとこなかった(けど自分より英語が出来る人が訳してるんだろうし、これが正しいんだろうな…)」

   というような気持ちになったことはありますか?
   僕はあります。そんなときは自分で訳してみることにしています。

   そう、僕の趣味は「気になった洋楽の歌詞をファミレスに4〜5時間粘って和訳し、Twitterの鍵アカウントに書き込む」ことです。

 大抵は無残な結果に終わります。僕の英語、高校レベル以下ですから。変わったことをやろうとしてダサくなるか、まったく反対の意味に誤訳し続けるか、どちらかです。

 でも中には「できた!」と思える和訳もあって、そういうのは自分だけの宝物として胸に閉まっておこう(うん、そうすべきだ)と考えてきました。

 しかしまあ、ちょっと心境の変化があって、読んでもらいたいな、と思うようになりました。

 今回取り上げるのはRadioheadの”Creep”です。


♦まずは、これから”Creep”を知る人のために

・”Creep”とは、92年の9月に発表されたRadioheadの代表曲のことです。Radioheadの本拠地イギリスでは当初、「あまりに憂鬱すぎる」という理由からラジオでは数回しかオンエアされず、チャートでも78位止まりと振るいませんでした。しかし翌年、この曲はアメリカで熱烈に受け入れられ、これを皮切りに”Creep”が納められたアルバム『パブロ・ハニー』は世界中で200万枚売り上げることとなるのです。その後、ライブでファンがあまりにも”Creep”を歌うことばかり求めるものだから、バンドは次第にこの曲を嫌悪。とうとう滅多に歌われることが無くなりました。03年のサマーソニックなど、この曲が歌われたライブは伝説と名高いです。
 そして、椎名林檎さんやアンジェラ・アキさんなど、なぜか女性アーティストにカヴァーされることが多いです。

・Radioheadとは、イギリス・オックスフォード出身の世界的バンドです。メンバーは、コリン・グリーンウッド(ベース)/ジョニー・グリーンウッド(ギター…etc)/エド・オブライエン(ギター・コーラス…etc)/フィリップ・セルウェイ(ドラム)/トム・ヨーク(ボーカル・ギター・ピアノ…etc)
 バンドの音楽生はアルバムごとに異りますが、一言で言うなら『革新であること』でしょう。ルーツにはジョイ・ディヴィジョンのようなポスト・パンクが挙げられます。(YouTubeで『JoyDivision Radiohead』と検索することをオススメします! それはそれはもう絶好調なトムが観られます!)
 昨年のニュースのひとつは、彼らのアルバム『OK Computer』が「“文化的、歴史的、もしくは芸術的に重要”な25の録音物」としてアメリカ議会図書館で永久保存される運びとなったことですね。

 前説が長くなりました。では、曲をどうぞ。


"Creep"

When you were here before,
君がここに居たときには
Couldn't look you in the eye,
まともに見ることができなかった
You're just like an angel,
君はまさに天使で
Your skin makes me cry,
泣きたくなるような肌をしていて
You float like a feather,
あたかも羽根のように
In a beautiful world,
綺麗な世界に浮かんでいた
I wish I was special,
俺は好かれたいと願った
You're so fucking special.
忌々しいくらい素敵な君に

[Chorus:]
But I'm a creep, I'm a weirdo,
でも俺はキモい、頭もおかしい奴だ
What the hell am I doing here?
いったい俺は何をしているんだろうな?
I don't belong here.
ここに相応しくないのにさ
I don't care if it hurts,
傷ついてもいいから
I want to have control,
抑制力が欲しい
I want a perfect body,
完璧な肉体が欲しい
I want a perfect soul,
完璧な魂も欲しい
I want you to notice,
俺に気付いて欲しい
When I'm not around,
俺が側に居ないときにもね
You're so fucking special,
忌々しいくらい素敵な君に
I wish I was special.
俺は好かれたいと願った

[Chorus:]
But I'm a creep, I'm a weirdo,
でも俺はキモい、頭もおかしい奴だ
What the hell am I doing here?
いったい俺は何をしているんだろうな?
I don't belong here.
ここに相応しくないのに

Oh, oh

She's running out again,
あの娘も走り去った
She's running out...
あの娘は走り去った…
She run run run run...
あの娘、走って走って走って走って
Run...
走って…

Whatever makes you happy,
とにかく君を幸せにするんだ
Whatever you want,
なんだって叶えるよ
You're so fucking special,
忌々しいくらい素敵な君に
I wish I was special...
俺は好かれたいと…
But I'm a creep, I'm a weirdo,
でも俺はキモい、頭もおかしい奴だ
What the hell am I doing here?
いったい俺は何をしているんだろうな?

I don't belong here.
ここに相応しくないのに
I don't belong here.
ここに相応しくないのに


♦解説


・Here(ここ)とはどこか?

 この曲はトム・ヨークの実体験が元になっているといわれています。その場所については、クラブ、バー、ライブハウス……とまあ読む記事によってバラバラで、まだ僕の中で整理がついていません。ついていませんが、この曲を聴くうえでは、“ここ”とは「君の目の前」あるいは「君がいるようなイケてる場所」という認識でいいでしょう。


・Creepとはなにか?

 Creepは辞書で調べると「腹ばう/忍び寄る」と出てきます。ですが、Creepはスラングでもありまして、そちらの意味を採択するなら「キモい」の意味になります。

“You’re such a creep”で「お前、きもい!」ですね(*)。

 またこのスラングは主に女性が男性を侮辱する際に使われるそうですから、歌の中で”俺”が自分で自分をCreepと言うのは、そうとう卑屈な行為だと言えます(「ああ、おれはキモいんだろ? お前ら(女は)そう言うんだろ? 黙っててもわかるよ。なら自分から言ってやらああああ!」くらいの屈折ぷり←あくまで個人の見解です)


・”俺”はいったいなにをControlしたいのか

“I want to have control”は「抑制力が欲しい」としました。

 他の訳では「なにもかも操りたい」みたいになっているのもあります。どっちが正しいのでしょう? 僕は次のように考えました→「なにもかも操れたら、完璧な魂も肉体も、いらないじゃん」と。

 つまり“ドラえもん”における『もしもボックス』の考え方です(それがあったら他の道具なくてもいいんじゃね……? というやつですね)。

 しかし、この歌に出て来る“俺”は“Control”を求めたうえでさらに“Perfect body”も”Perfect soul”も欲しいと言っている。

 ということは、この曲で歌われている”Control”とは『もしもボックス』的な全能の力ではなく、もっと内的なものだと結論したのです。


・なぜ途中からSheが出てくるのか。

 歌詞の途中からSheが出てきます。なぜでしょうか?

 YouとSheが同一人物だという根拠をどこにもとめたらいいのでしょうか?

 …。

 ……。

 ………。

 わかりません、誰か教えてください!

 ――と、それではあまりに情けないので、わからないなりに二つ答えを考えてみました。

①『歌いやすさ』を優先したのであって、YouとSheは同一人物である。

 うん、やっぱそうですよね。普通に。自分で考えた、なんて言うのもおこがましい、たいていの“Creep訳”ではこの考えが採用されているように見受けられます。

 ですが、ですがですよ? YouとSheが同一人物でないとしたら、どんな解釈が可能でしょうか? いいですか、僕はこれからぜったいに間違っていることを書きます。

②Sheとは“俺”がかつて好きだった(そして「きもい」と言って去って行った)記憶の中の複数の女たちである。

 こう考えるとまた違った歌詞の情景がひろがります。すなわち“She’s running out again”から始まる歌の箇所は––––“俺”のコンプレックスとトラウマ爆発、からの→フラッシュバック・シーン––––となります。「あいつも、あいつも、あいつも、あいつも!! 俺の前から居なくなったなあああ!」という痛切なる叫び。

 そういうわだかまりが邪魔をして、肝心の“You”には何もできない。

そして“You”も去ってしまう。


・Whatever makes you happy

 Whateverといえばまず、オアシスの有名曲が思い浮かびます(たまに結婚式で使われているのを耳にするくらい前向きな曲です)。が、この曲でのWhateverという単語の使われ方はポジティブではないでしょう。

 どちらかといえば、「どうでもいい/なんでもいい」といったWhateverの投げやりで曖昧な面が強いように思います。

 苦し紛れ、という感じでしょうか。


・You’re so fucking special

 ミュージック・ビデオでは『fucking』が『very』に置き換えられたりしています。だからなのか。「君はとても特別なんだ」と訳されることが多いです。しかし、せっかく元々は『Fからはじまるワード』が使われているのですから、もっと口汚い感じを残したいなと思います。僕の訳では「忌々しいくらい素敵な君」としました。


・まとめ

 どんどん、どんどん苦しくなる、というのがこの歌詞の構成です。第一ヴァースでは“俺”にもまだ余裕があります。美しい言葉を使い、意中の人を「口説こう」としているようにも見えます。そこでコーラスに入り、一気に目が覚めます。「お前はキモいんだ! 忘れたのか!」

(ジョニー・グリーンウッドの雷鳴のようなギターは、まさに頭をかきむしるときの心象風景そのもの。過去の失敗後悔が押し寄せてきて叫びたいのを必至で堪えている時の、あの音。不安の足音。あるいは、コンプレックスが悪霊のようにつきまとって心を爪で引っ掻いているときの……)

 それでも“俺”はまだあきらめません。今度は自分を変えようとします。「傷ついてもいいから、変わりたい」しかし、やはり目を覚まさせられるのです。なにによって? ほかでもない、“You”が特別すぎるがゆえに、自分自身の奇妙さが際立ってしまうのです。思い出してしまうのです。自分が「Creepだ」と。

 最後のヴァースで“俺”はもう息も絶え絶えになっています。Whateverという投げやりで曖昧な言葉を使って愛を表現するしかできない。それもどんどんフェードアウトして、最後には「ここから居なくなりたい」ともとれる呟きだけが残される……。

 こういう歌が世界中で愛されているという事実に、僕は感動を憶えます。


♦あとがき

 好き勝手書いてしまいました。すでにあるイメージを台無しにしていたら申し訳ありません。もともとは、『creep』という言葉をスラングに訳してくれている和訳が無かったのと、『You’re so fucking special』の訳にもっとパンチが欲しいなと思って、自分で訳してみたのでした。

 そしたら個人的な感情が入るわ入るわ……。思えば、人生の節目節目で、僕はこの曲に自分を重ねて来た。そういう人、いっぱいいると思います。

 てゆーかさー、まさかほんとに30歳になってもまだ一度も彼女できてないとかさー、どうすればいいの? あー、いちども誰も気持ちを受け取ってくれなかったけど、僕がこれまで好きだったみんな、マジでソー・ファッキン・スペシャルだったよ。そして僕はクリープ。今もな!

––––おわり。


*例文に関してはコチラのサイトを参照しました。

*また資料といたしまして、『rockin'on 2003年7月号』には大いに助けられました。素晴らしい雑誌を有難うございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?