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音楽イベント発のフリーペーパーから学んだこと

2000年代後半から2010年代前半にかけて愛読していた『DESTINATION MAGAZINE』は、当時の現場(良質なクラブイベント)に足を運んでいた音楽好きにとって素晴らしいフリーペーパーであり、そこから学べることが多かった。また、Nujabesの音楽のように今こそ再評価されるべきだと思う。

編集長は、DJでもある岡田安正さん。

■ 岡田 安正 / Yasumasa Okada
2006年8月から10年間に渡り、渋谷MODULE、THE ROOMにて音楽イベント『DESTINATION』を主催。2009年7月には、DESTINATIONを母体としたバイリンガル・フリーペーパー/クリエイティブ・マガジン『DESTINATION MAGAZINE』を創刊し、これまでに17号を発行(現在休刊中)。Gilles Peterson、Thundercat、Squarepusher、Floating Points などをはじめとした多数のインタビュー・コンテンツを中心に、ワールドワイドな視点で良質な作品/アーティストを紹介してきた。また、2011年7月から2013年9月まで、HMVとDESTINATION MAGAZINEによるコラボ・フリーペーパー『HDM』の制作/ディレクションも手がける。2013年9月より、株式会社ブルーノート・ジャパンにて、ブルーノート東京で行われるライブの広報宣伝を担当。

出典:dublab.jp Radio Collective #148 “rings radio” @ Red Bull Studios Tokyo(17.8.23)

岡田さんとは、10年ほど前に一度だけ都内のイベントでお会いする機会があり、話を聞くと穏やかな口調の裏にある芯の強さを感じた。そして、クラブでは心から愛する曲をプレイし、フリーペーパーではインデペンデントなスタンスから音楽を丁寧に深く掘り下げる姿勢に大いに共感し、感銘を受けたことを今でも強く覚えている。

『DESTINATION MAGAZINE』の大きな特徴は、母体となる音楽イベントと連動していること。

ここから連想するのは、編集者/選曲家の橋本徹氏が手がけ、90年代にブームとなった「フリー・ソウル」だ。橋本氏を中心としたクルーが、DJや一部のマニアしか反応していなかった音楽を、DJイベント×コンピレーションCD×ディスクガイドの三位一体でプレゼンテーションしたことは当時画期的だった。また、それによって音源の新旧やジャンルに囚われない「フリー・ソウル」という新しい価値観を一般リスナーに広め、文化レベルの底上げに大きく貢献した(余談だが、山田淳=瀬葉淳=Nujabesは、橋本徹氏が主宰したクラブ・パーティー「Free Soul Underground」に足繫く通い、フリーペーパー『SUBURBIA SUITE』にライターとして参加しており、この経験が後の作品に生かされている)ことに異論を唱える人は少ないだろう。

ただ、「フリー・ソウル」は全盛時に小学生だったこともあり、後追い文化のため自分にとってはリアリティに欠けていた。反面、リアルタイムで『DESTINATION MAGAZINE』から発信される音楽やアーティストのインタビューは刺激的であったし、感覚的にしっくりきた。特にGilles Peterson/Brownswood Recordings周辺やポスト・ディラ・ビートまたはLAビートとカテゴライズされる音楽に当時熱中しており、それらをより深く理解する上で非常に役に立ったことは間違いない。現場で音に身を任せ、直感的に楽しむのも勿論良いが、音楽を体系的に理解したり、その裏にある考えに触れたりすることの面白さを教えてくれたのが『DESTINATION MAGAZINE』だった。ライター陣≒DESTINATIONのDJ陣だったこともあり、ロングインタビューにおけるアーティストとのやりとりは、専門的内容への理解がディープで、彼らにしか引き出せない言葉が多かったと思う。

『DESTINATION MAGAZINE』の休刊から10年が経ち、そもそもフリーペーパーを見かけることが少なくなってしまったが、音楽イベントと何かしらの媒体を絡めてプレゼンテーションすることは効果的であり、文化的意義があると改めて感じている。なぜなら、イベントに足を運ぶ層とフリーペーパーやディスクガイドなどに接する層は重ならないケースも多いため、どちらかでは両方にリーチできないからだ。橋本徹氏が、“敷居は低く、奥は深く”をモットーに「フリー・ソウル」を広めた(「relax」のADも務めた小野英作氏によるCDジャケットや紙媒体のデザインの力も大きかったことを補足しておく)ように、自分も同じようなスタンスで、さまざまなカルチャーに触れることや読書自体の楽しさを少しずつ浸透させていきたいものだ。

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