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人生に最も影響を与えた音楽

それは多くの場合、初めて自分でお金を出して買ったものになるのではないだろうか。自分は音楽に目覚めるのが遅く、中学3年生の頃に発売されたRage Against The Machineの3rdアルバム「The Battle Of Los Angeles」を地元のダイエー(若い方は知らないかもしれない)の中にあった新星堂で買った。それから20数年経った今も時々聴き返す度に気持ちが昂り、原点を思い出すことにつながる。

そもそもの購入のきっかけは、バスケット部顧問だった担任の先生が学級文庫として教室に置いていた、デニス・ロッドマンの自伝「Bad As I Wanna Be(邦題:ワルがままに-NBAを変える男)」を読んだこと。当時、NBAで無双していたシカゴ・ブルズには、神様マイケル・ジョーダンとスコッティ・ピッペンがおり、彼らの活躍を陰で支えたのがリバウンド王であり問題児のロッドマンだった。観たことがないという人も、SLAM DUNKの桜木花道のようなプレーヤー(実際はチャールズ・バークレーがモデルらしいが)といえばある程度見当はつくだろう。

田舎にいて何も知らなかった自分にとって、ロッドマンの自伝はかなり刺激的で、彼のとんでもないライフスタイルがかっこよく思えた。マドンナと交際していたことやNBA選手になってからのセックスライフなども赤裸々に書かれていたが、そのなかで彼が個人的に交友のあったPearl JamやRage Against The Machine、Metalica、Red Hot Chilli Peppersなどがフェイバリットなバンド、アーティストとして挙げられており、「ロッドマンが好きなバンドならカッコいいに違いない」と考えた。今思うと、とんでもなく浅はかな発想で恥ずかしくもあるが、中学生の考えることということでご容赦いただきたい。

そして、どれか1枚買うぞと新星堂に着き、ジャケットが妙に気になったのが「The Battle Of Los Angeles」。気づくと握りしめた小遣いを片手にレジで並んでいた。そして、家に持ち帰ってCDプレーヤーで聴くと、当時流行していたビジュアル系バンドやいわゆるJ-POPとは明らかに異質なものであることはすぐに分かり、ロッドマンに憧れていたことも手伝ってかレイジの音楽を一発で気に入った。もちろん英語が分からず、リピート再生して聴いても歌詞の意味が全く理解できない。しかし、トム・モレロのギターがとんでもないこと、ボーカルのザック・デ・ラ・ロッチャがとにかくキレまくってラップしいることだけはすぐに分かった。

CDには付属されていたブックレットには、彼らのバンド名が民衆を抑圧・搾取する社会システムに対する怒りを意味しており、それが政治的なメッセージを載せた歌詞やサウンドに反映されていることなどが書かれていた。現在もそうだが、日本の音楽は多くの場合は政治や社会の動向と分断されており、レイジのように直接的にメッセージを発信するアティチュードがかっこよく見えた。また。それによって「愛だの恋だのばかり言ってるポップスはナヨくてダサい。売れている奴は魂も売ってるぜ」というマインドが形成され、このモードが解除されるまで10年ほどを要したのは今となっては笑い話である。

振り返ると、たまたまロッドマンの自伝を教室で読み、レイジの音楽に触れることがなければ、政治や社会のシステムに関心を持つこともなかったかもしれない。また、彼らの”ミクスチャー”サウンドのように、違う様子を組み合わせることで化学反応を起こすというアイデアやバランス感覚が形成されることはなかったと思う。ジャンルは違うが、当時一部の洋服好きの間でカルト的人気があったセレクトショップ「代官山 時しらず」のハイストリート(ハイ・ファッションとストリートの融合)スタイルも、ミクスチャー感覚の延長として捉えられ、妙に腑に落ちた。

しかし、もし違うCDを最初に買っていたら、自分の価値観は全く違っていたものになっていた可能性が高い。音楽にしろ本にしろ、初めて経験するものはその人にとっての影響力が相対的にも絶対的に大きくなる。だからこそ、当店も誰かの人生にポジティブな影響力を与えられるものを揃えていきたい。

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