イノベモッズ

イノベーター理論で見るモッズ:下

 何故、わたしがモッズについて調べたのかと言えば、ロックを知るためだった。
 ロックの歴史を調べていくうちに、イギリスの若者文化に行き当たりモッズをちゃんと知ったのだが、最初は全く把握できなかった。

 

 なんというか、行動がチグハグなんである。
 ある文献を読めば『モッズとはおしゃれと音楽を楽しむ若者で、モダン・ジャズ黒人音楽をたしなみ……』とあり、ジャズが流れる喫茶で上品に歓談を楽しむクールなモッズが想像できた。
 しかし違う本を読めば『スクーターに乗って夜な夜な遊びまわり……』とあって、時計仕掛けのオレンジよろしく、暴れまわるファッショナブルな不良が頭に浮かんだ。
 時に中流階級の若者のように、世間を楽しむ上品な高等遊民のように描かれ、時に労働階級の若者のように、世間への不満を抱えた寂しい少年のように描かれる。
 モッズよ、お前はいったいなんなんだ。

 悶々と形を捉えられずにいたある日、ふと気が付いた。
 ああ、時代によってモッズは姿を変えていたんだ! と。

 ここで、前回やったイノベーター理論を持ち出そう。
 この記事を読めばあなたもきっとイノベーター理論マスター。その上で聞いてほしい。

 上品なモッズはイノベーター&アーリーアダプター
 不良なモッズはマジョリティ層だったのだ!!


 つまりこういうこと。

 モッズは専門用語が多く自身もモッズにハマった時期やファッション、行動によって分類されていた。
 そして、互いに憧れたり、馬鹿にしたりしていた。



①イノベーター…モダニスト
 1950年代後半、イタリアン・コンチネンタルスタイルに身を包んだ上品な少年。彼らはユダヤ層の中流階級の若者だった。
 そう、『音楽を上品に楽しむモッズ』の姿とは彼らのことだった!
 当時労働階級の若者の間で流行っていたのはアメリカのロックだとか、トラッドジャズ。世間の流行にピンと来なかった彼らは、独自の美学で服と音楽を楽しんでいたのだけどそれはすごく異質に見えた。
 結果、『お前wwwホモかよwww』と周囲から馬鹿にされたり疎まれたりしていた。彼らは実際、ホモセクシャルが好んで着るような強い色彩の服もファッションに取り入れていた(色彩革命:ピーコックの走りがすでに見える……)

 イノベーターとは冒険者。iPhoneで見た時も、3Gや3GSを買った者は『ヲタクめwww』と馬鹿にされたり、”一般人”には理解されなかったりした。
 一番最初に『新しいもの』に切り込んだものは、カリスマにはならないのだ。


 ②アーリーアダプター…フェイス
 カリスマになるのはアーリーアダプターだ。
 フェイス(顔役)。それはモッズのカリスマに与えられる称号だ。
 イノベーターの時は馬鹿にされていたモダニストだけれど、やがて60年代前半、タウン誌は『スタンフォードの顔役たち』というファッション特集記事を打ち出した。
 そこに写し出された少年たちのかっこいいこと……後にT・レックスとなるマーク・ボランもそこにいた。彼はフェイスだったのだ。
 彼らが集まっていたカーナビー・ストリートは彼ら向けの店ばかりになって、モダニストのメッカとなっていった。

 で、ここまでの流行はよくある話。イノベーターとそれに続くアーリーアダプターの間だけで流行る、局地的流行ってヤツ。
 しかし、この後マジョリティ層に移るためには越えねばならないがある。
 モダニストもフェイスも、ようはヲタクだ。変わり者なのだ。彼らの間で流行っても、その先に多数いる一般層にウケなきゃ大ヒットにはならない。
 ヲタクと一般人の間にある溝、これをキャズムの溝という……

 この溝は、TVによって越えられた。



③アーリーマジョリティ…スクーターモッズ
 63年、ビートルズが大成功を収めた。彼らの服はモダニストの服だった。
 音楽TV番組『レディ・ステディ・ゴー』は大流行して、そこでフェイスたちが取り上げられた。彼らの着こなしとイカしたファッションに、TVの前の若者たちはメロメロ。
 こぞって真似をしはじめた。こうして64年、アーリーマジョリティ層にモダニストは伝わり、やがて名称は詰められてモッズと名付けられた。

 しかし……モダン・ジャズを愛し、上品に喫茶店に集まっていたかつてのモッズの姿はもうなかった。大流行したモッズは労働階級の若者の服となり、やがて、彼らは生活の鬱憤もあって群れて夜遊びするようになる。
 このころには、最初のモッズだったイノベーター・モダニストたちはとっくにモッズを捨てていた。大人になって普通になるか、もっと激しいショー・ビジネスの世界だとかホモセクシャルの道を歩んでいた。
 「結局ホモだったんじゃねーか!!」というツッコミをこの時わたしはしたのだが、それはおいといて、ありますよね。
 あれだけハマってたのに、一般人が騒ぎ出すとスゥっと冷めるヲタクの図。すごいあるあるですよね。
 ハロウィンも最初はヲタクとバンギャルがぐふぐふ楽しんでいたのに今やパリピのものになってバンギャルとしてはなんか興味なくしちゃったというか。
 あとバンギャルあるあるだと、インディーズからメジャーに行ったとたんに冷める、とかあるあるですね。
 iPhoneに馬鹿はまりしてたPKerだって、iPhone4sが出るころにはすっかり飽きていたし。
 もう、そういうものなんですな。

 そして、モダニストがかつて描いた『洗練された上品な高等遊民』から『ファッショナブルな不良』へ、モッズは変わっていくのだった。


④レイトマジョリティ…スティッツ
 スクーターモッズが強固なモッズの美学を持ち、それゆえにロッカーズとぶつかり、小競り合い、不良としてメディアにスッパ抜かれている裏で、ゆるーくモッズファッションを楽しむ層もいた。
 『なんかよくわかんないけど、流行ってるねぇ~ふーん、スーツとか高いから無理だよぉ。これ、フレッド・ペリーの服とリーヴァイスのジーンズを履けばいいんでしょ』
 そんなかるーくゆるーい気分でモッズの服を着ていた層をスティッツと言う。もちろん、彼らはスクーターモッズから馬鹿にされていた。

 これもあるあるですね……最初にいた多くの者(アーリー・マジョリティ)は新規参入者(レイト・マジョリティ)を馬鹿にする。
 もう例を上げたらキリがない。古今東西で見る風景。

 そしてこれもあるあるだが、モッズの服を着た彼らは、群れて馬鹿なことばかりしていた。美学をもって暴れていたスクーターモッズの、暴れるというところだけを掬い取り、夜はオンナノコを無理やりな感じにナンパして、酔って暴れる、そんな感じ。
 もう、スクーターモッズは腹が立ってしょうがないだろうなぁ、とこれも想像に難くなかった。
 なんにも知らない新参者が荒らしやがってよぉ……!!っていうの。もうあるある過ぎてヤバイ。



⑤ラガート
 ラガートとは狂信者という意味だ。絶対的生活の狂信者。『当たり前』の狂信者。
 レイト・マジョリティまで行きわたり、そして『不良』に変質したモッズ。そうなったら、消え去るしかない。ラガートまでは浸透しない。それは当たり前ではないからだ。
 そう、黒ギャルが消えていったように。リーゼント高校生が消え去ったように。『不良』……若者のばか騒ぎ、となった文化はやがて流行遅れになっていくのだ。


 でも完全に消えたわけじゃない。モッズ・コートだとかモッズ・ヘアだとか名前はあちこちに残っているし、60年代前半をまるごと風靡したモッズは、もはや60'sファッションと年代の名前を関して大雑把に残っている。
 モッズはただの流行から、ファッション用語として残ったのだった。 


 これでわたしもあなたもスッキリ。姿が不明慮だったモッズの、真の姿が見えてきた。
 イノベーター理論は、流行だとかに当てはめて考えるとすごい面白い。きっとヲタク文化とか、IT商品とか、それこそモッズみたいなファッションだとかと相性はばつぐん。
 あなたもちょっと、熱中しているものをイノベーター理論で分析してみたらどうだろうか。面白いよ!

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