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2023年 優れていた温泉宿10選+α【すべて一人泊可能な宿】

はじめに

あけましておめでとうございます。
早くも1月が終わりそうである。1日が24時間しかなくてつらい。

2023年上半期 優れていた温泉10選でも述べたように、2023年は「温泉の年」といえる年になったと思う。
下半期も温泉訪問・滞在のペースは落ちず、1年を通して温泉宿50泊、入浴数は204軒を数えた。

可視化すると北日本・信越・九州ばかり行っている気がする

今年は量だけでなく質も豊作で、ほとんどの宿で高い満足感を得ることができた。その激戦区の中で、1年を通して特に優れていた温泉宿10軒(+α)をピックアップしていきたい。


前提

対象

前提として筆者は温泉宿で食事をとることを好むため、2023年に宿泊した温泉宿のうち「1泊2食付で宿泊した温泉宿」を対象としたい。対象となるのは36軒(37泊)である。

温泉宿に求めること

筆者が考える「良い温泉宿」の条件として重視する項目は以下の3点。

  1. 温泉の質

  2. 食事および提供される酒の質・量

  3. 一人で宿泊しやすい宿かどうか

温泉の質

温泉の質は、いうまでもなく最重要の指標である。
とくに湯の鮮度と香りを重視している。
また、2023年上半期 優れていた温泉10選にも記載したとおり、

  • ぬるい温泉

  • 泡付きのある温泉

  • 酸性の温泉、鉄やアルミニウムを含む温泉

を好むため、それらの性質を持つ温泉であれば高評価となりやすい。
そして、温泉宿としての温泉評価として以下の2点が観点に加わる。

  1. 滞在中に入浴できる時間の長さ

  2. 独泉できるか

温泉宿に宿泊する最大の楽しみは、深夜にひとりで湯を独泉することにあると考えている。そのため、小~中規模の宿であって、24時間入浴できる温泉宿は高評価となる。
一方で、夜間の開放時間が短かったり、日帰り入浴時間との重複が大きい宿は渋い評価となりやすい。

もちろん、貸切の湯船や部屋付の湯船があればなお望ましい。

食事および提供される酒の質・量

素泊まりでなく食事付で宿泊するのであるから、当然に食事のクオリティも重要指標である。
食材の質や量、味わいといった点のほかに、観点として重視するのは以下のような点である。

  1. 料理の温度に配慮があるか

  2. 配膳スピードに配慮があるか

  3. 地場の食材や調理法を活用しているか

とくに1,2の点は市井の酒場・料理店と異なる評価軸だと思う。
(飲食店であれば当然に考慮されている、あるいは自身のオーダーによりコントロールできることがほとんどなので)
中価格帯以上の食堂や個室での食事であれば一定以上の配慮を期待するし、部屋出し・一気出しの場合でも料理が冷めても楽しめる調理になっているか、保温の工夫はあるかといった点を気にしている。

酒も飲みたいので評価指標である。もっとも、地場の日本酒が適切な価格で提供されていれば十分に満足である。選択肢が多ければなおよい。

一人で宿泊しやすい宿かどうか

筆者は単独行であることがほとんどであるため、一人泊に適しているかどうか、という点も重視している。
とはいえ、滞在中の「おひとりさまに優しい宿」であることを特段重視しているわけではない。(どこでも一人でいくので、ほとんど気にしない)

気にする観点は、以下のような宿泊先を決定するための考慮材料にある。

  1. 休前日や祝日でも一人で宿泊できるか

  2. 二名以上で宿泊する場合と比較して大幅に割高でないか

  3. 一人で宿泊することによって得られないものはないか

現代において一人で宿泊できない宿、というのは少なくなりつつあるが、土曜日・祝日となると選択肢は大幅に減ってしまう。また、一人泊の場合に宿泊料金が大きく上がる宿も少なくない。
マクロの経営視点で考えれば合理的ではあるのだが、いち利用者としては「そうでない宿」を高評価としたいところ。一人泊の割増価格は~25%程度までであれば非常に嬉しく思う。

宿泊人数を1名にしたときによく見かける例のエラー

3については、とくにWEBでの予約において、一人泊だと食事付の選択肢がなかったり、送迎を依頼できなかったりすることがよくある。そもそもWEBでの一人泊予約を受け付けていない場合も多い。
もっとも、こちらは直接交渉を行えば受け入れてくれる場合も多いので、最近はそれほど気にならなくなってきたところ。今回ピックアップした宿の中でも「直接予約であれば一人泊OK」という宿はある。

なお、電話予約であれば一人泊OK、条件付きだが一人泊OK、のようなパターンの宿はWebで情報を得るのが難しいため、できるだけ記事にも書き残すようにした。

優れた温泉宿10選

記載順は「立地的に上から順」であって、優れていた順、ではない。
もっとも、どこも優れていたので順位をつけられなかった、というのが正直なところでもある。

情報としては、いつ宿泊したか、宿泊代はいくらだったか、一人泊に制限があるかどうかを記載した。
なお、これらの情報は2023年宿泊時のものなので、現在は記載内容と異なる可能性がある。特に宿泊価格や週末一人泊の可否については流動的なものなのでご留意いただきたい。

1. 北海道 豊富温泉 川島旅館(再訪)

情報

  • 2023年6月宿泊(2泊)・2年連続2度目

  • 平日泊、\17,600×2 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • WEB予約(公式)

特長

2023年、唯一連泊した宿。連泊する価値のある充実した滞在だった。

温泉のよさについては以前に記載したとおり。
石油を含むトロすべの他に類を見ない湯であり、川島旅館ではぬるい源泉に24時間入浴できる点が非常にすばらしい。

再掲・源泉の距離の差なのか、31~32℃程度でふれあいセンターよりもぬるい

食事は「板長おすすめプラン」「バターづくしプラン」の2種類から選択できる。今回は連泊をしたので、どちらも楽しむことができた。
前者は道北素材を中心とした和洋折衷会席、後者は朝食の特長でもある自家製バターを料理に活用した洋風コース。

方向性は凝った調理というより、ストレートに食材の良さを楽しむ方向性だと感じる

ワインの選択肢が多いのも嬉しい。
グラスで国内外6-7種類の選択肢があり、ボトルの価格設定はおおむね小売価格の1.2-1.5倍程度と非常に良心的である。ペアリングの提案もある。

ペアリングは2杯なので追加でハーフボトルを頼むのもよい、泡のボトルも異様に安い

夕食も満足できるものだが、とくに満足度が高いのは朝食である。
おいしいおかずとともに、ハーフビュッフェ形式で自家製フレーバーバターが6種類提供される。豊富牛乳もある。

十数種類のフレーバーから日替わりで6種類

バターごはんが朝から食べ放題!実に犯罪的である。

フレーバーバターはどれも美味だが、とくに山わさびとドライフルーツが気に入った。通販やふるさと納税でも手に入るのが嬉しい。

なお、今回は2泊3日・食事もフルスペックで楽しんだが、リーズナブルなビジネスプラン、という選択肢もある。
プラン名に反して業務目的でなくても利用可能で、平日であれば1泊2食で1万円を切る格安価格。
それでいて満足度の高い食事と、ドリンク1杯(アルコールも可)がサービスされるというすばらしいパッケージである。

2022年ビジネスプラン宿泊時の充実したメニュー

「1泊2食1万円前後の宿」としても、まず第一におすすめしたい宿である。

2. 秋田 乳頭温泉郷 妙乃湯

情報

  • 2023年6月宿泊・初訪問

  • 平日泊、\23,000 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • WEB予約(公式)

特長

乳頭温泉郷には3度目の訪問となるが、妙乃湯は日帰りも含めて初訪問。
妙乃湯は他の宿と比べると若干宿泊価格帯は上がるが、十二分にその価値があると思える滞在だった。

この地の温泉はどこも優れているのだが、妙乃湯も例に漏れず。
金の湯・銀の湯ふたつの源泉を持ち、どちらもすばらしい湯である。

写真は乳頭温泉郷WEBサイトから引用

金の湯はpH2.9、酸性・含鉄-カルシウム・マグネシウム-硫酸塩泉、硫黄分・遊離二酸化炭素も多く含まれている好みの泉質よくばりセット。
成分こそ仰々しく濃厚だが、加水の影響もあるのか肌への当たりは思いのほかマイルド。湯温調整も露天は40~41℃の長湯しやすい温度となっており、ゆったり長湯を楽しめた。

銀の湯は遊離炭酸を多く含むアルカリ単純温泉。源泉30℃のため加温提供だが、露天湯船は35-36℃程度の適温ぬる湯に調整されていてすばらしい。ややとろみがあるまろやかな湯。こちらは若干の泡付きもあり、鮮度の良さを感じた。

どちらも非常に優れた湯であり、24時間交互浴を楽しむことができる。

食事も二食ともに満足感が高い。
もちろん味も良いのだが、それ以上にサービスや演出面での工夫を感じた。
料理を楽しむための仕掛けがいたるところにあり、それでいて押し付けがましくないところに好感を覚える。

お凌ぎに味変要素があったり
朝・夜ともにデザートの提供のためにランチョンマット交換イベントが発生したり

サービスの工夫は食事だけでなく、滞在全体を通してさまざまな点で感じることができた。

秋田の温泉宿らしく、好きな料理ランキング最上位クラスであるきりたんぽ鍋が出てくるのも嬉しい。
なお、こちらは秋田牛しゃぶしゃぶとの選択式で、原価的にはしゃぶしゃぶを選んだほうがオトクであるとは思う。きりたんぽが好きだからいいのだ。

実は前日の日景温泉泊などとあわせて、3日連続のきりたんぽ鍋

次は姉妹館の夏瀬温泉 都わすれにも宿泊してみたい。

3. 秋田 日景温泉(再訪)

情報

  • 2023年4月宿泊・3年ぶり2度目

  • 土曜泊、\19,800

  • WEB予約(OTA)

特長

以前記載したとおり、1泊1万円後半~の手頃な価格帯で、モダンな内装と良質なサービス、おいしい食事、すぐれた温泉、と全要素で高い評価の宿。
シングルユースのための部屋があるなど一人泊にも優しく、濃厚な温泉が苦手でなければ万人におすすめしたいすばらしい宿である。

ここでは温泉について補足しておきたい。
大浴場「ぬぐだまる湯っこ」のほか5つの貸切風呂があり、貸切風呂は深夜でも利用できる。部屋数は26と小~中規模クラスの宿であるため、深夜に湯に浸かれない、ということはまずないと思われる。

先着順で部屋番号のマグネットを貼り付けていく

マグネットでの予約は朝晩1回ずつだが、深夜帯は自由に入浴できる。
また、空いている場合はマグネットを貼り替えて複数回の予約を入れても問題ないとのこと。ただし全室満席の場合などは難しいかもしれない。

豊富な湧出量とたくさんの湯船があるが、おもに提供される湯は3種類。
日景温泉の「濃さ」の代名詞的存在である2合泉、38℃強のぬるめでシュワシュワ感を感じられる1・3号混合泉

再掲・2号泉の「うるげる湯っこ」、強烈な香り。2020年撮影
混合泉の「めんけ湯っこ」、新鮮な硫黄ぬる湯。2020年撮影

そして、特別室の部屋付風呂でしか提供されていない「含鉄泉」の4号泉がある。価格はそれなりに高額となるものの、一人泊でも特別室の予約は可能であるので次回はぜひ利用したいと考えている。

特別室のみ提供される日景4号泉。写真は公式WEBサイトより引用


4. 山形 湯田川温泉 九兵衛旅館

情報

  • 2023年4月宿泊・初訪問

  • 平日泊、\27,500 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • WEB予約(OTA)

特長

湯田川温泉はもちろん、庄内エリア自体がはじめての訪問。
都島「はちどり」などで食材のよさは知っていたものの、現地でいただく料理、温泉に加え、景観や文化も優れたエリアで非常によい滞在となった。

唯一の難点は関西からのアクセスの悪さ。かつては庄内-大阪の航空便があったようなのだが…。
いちばん現実的なのは仙台or新潟空港からのアクセスであり、どちらも魅惑の多い土地なのでハードルが高いのだが、ぜひ近いうちに再訪したいと考えている。

スタートから〆の食事まで全力

九兵衛旅館はなんといっても食事体験が素晴らしい。2023年はより価格帯の高い宿にも複数宿泊したが、ここが1年を通して最も食事満足度の高い温泉宿であった。

夕食・朝食いずれも紹介したいポイントは多いのだが、あえてピックアップするとしたら地元食材を使った自家製のデザート。
夕食、朝食ともに2皿提供される。もちろんどちらも美味。

夜は白胡麻ブランマンジェ&庄内麩フィユタージュときなこ黒蜜のアイスクリーム
朝はフルーツパンナコッタ&赤胡椒のアイスクリーム

日本料理や和会席、すし店などでは甘味の立ち位置が低く、高級店でもフルーツが少量提供される程度、ということも珍しくない。
その中でことデザートにおいては、全ての飲食店での食事を含めても2023年でトップクラスの体験だったように思う。

色は無色透明だが析出物はしっかり

もちろん温泉も良い。いわゆるMT泉であり、やさしい肌触りの硫酸塩泉。
スペックは源泉42.2℃で加温ありだが、宿泊日は暖かい気候だったこともあってか40℃前後のぬるめで提供されており、特に日中はほぼ無加温に近い状態だったのではないかと思う。
(熱め、との情報も散見されたので日によって変動があるかもしれない)

男女入替制でそれぞれ特徴的な内装をもつ大浴場のほか、姉妹館の温泉とあわせて4つの貸切湯船を利用できる。
それぞれの貸切湯船はサイズに対して源泉の投入量が多く、大浴場以上に鮮度の良さを感じることができた。

こちらは九兵衛旅館の貸切風呂。姉妹館の展望貸切風呂もおすすめ

温泉使用状況としては塩素利用も行われているが、深夜帯(0~4時)に限定して消毒剤投入を行うとされており、湯に対する配慮が見受けられ好印象。
なお、深夜2時ごろに大浴場に入浴したところ若干の塩素臭を感じたので、気にする方にはご留意いただきたい。

もっとも塩素臭は翌朝には全く感じなくなっていたし、前述のように食事満足度が非常に高い宿なので、たくさん酒を飲んで夜はぐっすり寝るのがいちばん正しい楽しみ方かもしれない。

ちなみに夕食の酒の選択肢も豊富であり、鶴岡の酒蔵と湯田川温泉のコラボ日本酒の選択肢なども。

湯田川温泉 乳いちょう 湯田川温泉産はえぬきを94%使用(精米歩合70%)

5. 福島 HOTELI aalto

情報

  • 2023年6月宿泊・初訪問

  • 平日泊、\39,910 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • WEB予約(OTA)

特長

北欧スタイルの高原リゾートをテーマに掲げるオールインクルーシブの宿。今回ピックアップした中では最もハイクラスな宿だが、接客はいい意味でかなりフレンドリーであり、老舗高級旅館などとは別軸の方向性を感じる。

この宿最大の推しポイントはオールインクルーシブの充実度。
夕食はもちろんのこと、館内のいたるところで酒が提供されており、一日中前後不覚になって困るくらいである。提供される酒のチョイスも良い。

部屋の冷蔵庫や食事会場はもちろん、湯上がりスペースにも酒
ラウンジではオーダー式で、つまみと共に豊富なラインナップの酒を楽しめる
夕食後は酔いが限界まで回っていたのでノンアルコールカクテルをつくっていただいた
朝食で酒をたくさんのんだ後に、テラスでまた酒がのめる

夕食は「箸で食べるジャパニーズフレンチ」を謳っており、かなり和に寄せたスタイルで好みの方向性。食材は会津の地物を中心に、東北太平洋側一円から広く良質のものが集められていた。

ホタテ貝柱のグリルを主役とした「こづゆ」アレンジが非常に良かった

朝食はサラダプレートが事前提供されるハーフビュッフェ方式で和洋折衷。
ハイクオリティの惣菜をつまみにしての朝酒が最高に楽しい。牛すじ煮込みや自家製コンフィチュールなどが特に美味しかった。

もちろん朝食会場にも酒

滞在中ずっと酒浸りになっていたので入浴時間は正直なところ長く取れなかったのだが、温泉の質も非常に良かった。
源泉51.6℃の含硫黄塩化物泉で、ほのかに黄身がかった透明湯。泉温は42~43℃のやや熱め適温に調整されている。

いわゆる"硫黄臭"の甘い香りがあり白い湯の華が浮く、理想的な硫黄泉。
特に小湯船の露天風呂は鮮度が高く感じられた。

森の中のロケーションなので景観も良い

今回は大浴場のみの利用であったが、温泉付の部屋もあり一人泊も可能。
筆者宿泊後に値上げがあったようで、かなり勇気のいる価格帯にはなってしまっているが、ぜひ次回また宿泊して温泉を満喫する滞在としたい。
酒は控えねば。

6. 新潟 駒の湯山荘(再訪)

情報

  • 2023年6月宿泊・2年連続2回目

  • 平日泊、\11,000 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • 電話予約 ※予約は電話のみ

特長

2022年いちばんよかった温泉宿 新潟・駒の湯山荘 をご参照いただきたい。
半年ぶりの再訪であったが、変わらず充実した滞在となった。
前回は10月下旬の訪問で、気温もかなり低く長湯するには若干寒かったが、今回は天候にも恵まれていた。

「消滅した郷土料理を復元した」イワナのなれずし

唯一、前回から悪い方向に変化したのは小出駅からのバスの減便。
10時台の便が廃止となり、朝食後かなり慌ただしいチェックアウトをする必要が発生してしまうようになった。
(朝食は08:00から、バス停まで送迎をお願いするなら08:20発)

バス減便については栃尾又温泉 宝巌堂(こちらも野菜がうまい優れた宿である)の以下の記事が詳しい。

全国的にバスの減便・廃止が相次いでおり、公共交通機関での湯巡り難易度は上がる一方であるが、なんとかやっていかねばという思い。

7. 長野 来馬温泉 風吹荘(再訪)

情報

  • 2023年9月宿泊・6年ぶり2回目

  • 平日泊、\11,000 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • 電話予約 ※予約は電話のみ

特長

長野県にはすばらしい宿がたくさんあるが、筆者が「信州最強の温泉宿」だと吹聴し続けている風吹荘。某所でも「メシウマ四天王」として名高い。
おおよそ6-7年ぶり、かなり久々の訪問となったが、思い出をアップデートできる優れた滞在となった。

すばらしい床色、すばらしいオーバーフロー

湯は35℃と75℃のふたつの源泉がミックスされ、やや熱めの温度に調整されドバドバと投入されている。泉質は炭酸を多く含むナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉で、強めの金気臭・ほのかな卵臭を感じる香り高い湯。
とにかく鮮度が良く、細かな泡付きも感じられる。

筆者は熱い湯は苦手なのだが、今回宿泊時は42℃前後の適温に調整されていたため加水することなく入浴することができた。
宿泊であればほぼ独泉できるので、豊富なオーバーフローによるトド寝を楽しむこともできる。

湯もすばらしいのだが、風吹荘でハイライトとなるのは食事だろう。
安価な宿泊価格からは想像できないハイクオリティの料理とサービスがあり、地方の名酒場を訪れたときのような満足度がある。

山奥の宿ではあるものの糸魚川港が近いため海の幸も豊富。
また、限られた予算内でおいしいものを出すため、100%地物縛りではなく全国各地のコストパフォーマンスのよい食材も利用しているとのこと。

今回の焼き物は(おそらく地物ではない)マグロ。付け合わせのトマトピクルスがめちゃ旨い

夕食の〆はスペシャリテの自家製手打ちそば。
普通の宿では帳場にあたる玄関横スペースがそば打ち部屋になっているため、打ち立てのそばをいただくことができる。

「おかわり」も勧められる。胃に自身ある方はぜひチャレンジしてほしい。このあと雑炊も出るぞ

酒もリーズナブルな価格で地元酒蔵の小谷錦などが提供されているが、おすすめは岩魚の骨酒。メインの一品で出てくるような大型の岩魚から取れる濃厚な旨味が楽しめる。

明らかに骨より身のほうが多い

8. 岐阜 新平湯温泉 奥飛騨百姓座敷の宿 藤屋(再訪)

情報

  • 2023年月宿泊・2年ぶり5度目

  • 平日泊、\16,200 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • WEB予約(公式)

特長

全国でリピート回数がもっとも多い温泉宿。Twitter(X)には3年ぶり4度目と記載したが、改めて数えると2年ぶり5度目だった模様。

奥飛騨温泉郷の宿は自家源泉を持っていることが多くどこも泉量豊富なのだが、藤屋には唯一「ぬる湯」の自家源泉がある。
大浴場には高温の源泉とぬる湯源泉をミックスした重曹泉系の熱めの湯がドバドバ投入されていて、一名サイズの小湯船には35℃の適温ぬる湯源泉がそのまま掛け流されている。

すばらしい湯船

交互浴をするのも楽しいし、ひたすらぬる湯に浸かり続けても良い。

また、豊富な源泉を活かして大きな露天風呂や貸切の露天風呂も用意されており、いずれも惜しみなく源泉が投入されている。

貸切風呂は2ヶ所あり、空いていれば利用できる方式

食事は朝夕ともに優れているのだが、特に夕食について触れておきたい。
メニューは王道旅館会席的であり、奇をてらった品があるわけではないのだが、温泉宿で重視するポイント(温度や提供速度、地物食材)が高水準で満たされており、満足感がとても高い。
そして何より食材の質が良くボリュームがものすごく多い。

メイン1・飛騨牛朴葉焼き 見た目以上にボリューミー
ちなみに飛騨牛増量プランにすると同じ焼台がもう一つ来てフードファイトが発生する
メイン2・熊や猪など4種類の肉から選べるジビエ鍋 雑炊もできるが到達難易度は高い
2021年撮影

宿メシを腹一杯食べたくなったら藤屋、ぬる湯に浸かりたくなったら藤屋。
はやく6度目をやりたい気持ちでいっぱいである。

9. 熊本 大洞窟の宿 湯楽亭

情報

  • 2023年11月宿泊・初訪問

  • 3連休泊、\19,800

  • 電話予約 ※Web予約も可能だが、連休などの一人泊は制限がある可能性あり

特長

10泊ぶんのスタンプを貯めると1泊無料になるスタンプカードが2周埋まる程度には「日本秘湯を守る会」の加盟宿に宿泊しているが、現時点でいちばん満足度が高い宿がこちら。
3連休の中日での予約で、OTAの一人泊は素泊まりプランのみが表示されていたが、直接連絡したところ快く1名2食付きで受け入れていただけた。

温泉は白湯・新赤湯のふたつの源泉をもち、どちらも非常にユニークな特徴を持つ。

白湯は源泉温度33.1℃の弱アルカリ性単純温泉。総成分量は967mg/kgであり、成分的にはほぼ重曹泉である。
色は無色透明でとろみがあり、"硫黄臭"の甘い香りも感じられる。ぬるめの加温泉と無加温のかけ流し湯船があり、無限入浴が可能。

右側が無加温、31-32℃の無限入浴できる湯

新赤湯は先の熊本地震被災による赤湯枯渇(パイプ破損)後、2018年に新たに掘削・湧出した新しい源泉。大好物の鉄分をふくむ二酸化炭素泉である。

温泉の素晴らしさについては横瀬久芳准教授も熱く語っている。

「温泉博士」は山梨のガイア教授だけの称号ではない

新赤湯についてはエイジングされて36-38℃のぬる湯になっている、手掘りの「大洞窟」も魅力だが、やはり鮮度という観点では内湯の大湯船が最も優れていると思う。

豊富な投入量、圧倒的析出物

唯一惜しい点としては、夜は23時まで、朝は6時からの開放であって深夜入浴ができないこと。後述するように夕食がフードファイト必至なので、酒池肉林の限りを尽くし、夜はゆっくり寝るのが賢い選択になると思われる。

食事は特に夕食が素晴らしい。茶碗蒸しの天草大王(地鶏)を除けばほぼ地場の海産物で占められたメニュー構成で、非常にボリュームがある。

九州らしいゴリゴリ食感の刺身に甘い醤油
ワタリガニどーん
天草鯛どーん
アワビどーん

最後に特筆する点として、スタッフみなさんの明るい接客が印象に残った。

全体を通して非常に満足する体験となったので、今年は溜まったスタンプの特典をこちらで使わせていただこうと検討中。

10. 鹿児島 妙見温泉 ねむ

情報

  • 2023年10月宿泊・初訪問

  • 平日泊、\20,900 ※土曜・祝日でも一人泊可

  • メール予約 ※露天風呂付部屋の一人泊は直接交渉のみの可能性が高い、空いていれば土曜も一人泊可

特長

後継者不在で廃業となったホテルを妙見石原荘プロデュースでリノベーションした、2019年オープンの新しい宿。
すべての要素が高水準であり、2023年のベストオブ温泉宿

圧倒的高評価の要因は部屋露天にある。
1名サイズの小湯船に熱交換で湯温調整された源泉がかけ流しで注がれているのだが、あまりに鮮度が良いのか超絶爆泡なのである。

写真で泡のきらめきが伝わるだろうか?

公式Webサイトには以下のように記載があるが、とても同じ源泉とは思えない浴感を楽しめる。

大浴場と比べ浴槽が小さな分、お湯がすぐに溜まり、源泉は同じでありながら大浴場とは違った無色透明のお湯が浴槽を満たします。
炭酸もほぼ逃げることなく体に二酸化炭素の泡がつき、炭酸水素塩泉ならではお湯をお愉しみいただけます。

https://www.m-nem.jp/room/

さらに驚くのが湯温が43℃とかなり熱めに設定されていたこと。一般に温泉の泡付きは高温に弱く、特に炭酸由来の泡は40℃以上の湯では成分のほとんどが揮発してしまうと理解している。
その中で高温・爆泡の温泉というのは日帰りの湯や共同浴場を含めても唯一無二に近いのではないだろうか。

そしてこの圧倒的に素晴らしい露天風呂付部屋は一人泊・土曜祝日でも予約可能なのである。価格は2食付\20,900(土曜\21,900)、単純に旅館の露天風呂付部屋として最安値レベルで、驚きのコストパフォーマンスである。

部屋風呂だけでも大満足なのだが、大浴場もすばらしい。
日替わりでレイアウトの異なる湯船が男女入れ替え式なのだが、特に「黄金湯」は圧倒的広さの湯船にドカドカと笹濁りの湯がかけ流されていて非常に気持ちがいい。
泉質は妙見らしい、二酸化炭素やメタケイ酸を多く含むナトリウム・カルシウム・マグネシウムー炭酸水素塩泉

手前には樽風呂などもあり、そちらにも大量の湯が投入されている

自由に利用できる貸切風呂も2ヶ所用意されており、特に「ぬる湯」は別源泉(詳細不明、泉質は同系統)の37℃の湯が大量にかけ流されており素晴らしい。こちらも豊富な泡付きを楽しめる。

以前のホテルからの歴史を感じる湯船、投入量豊富で湯の華も多くみられる

湯質だけでもベストオブ温泉宿といえる満足度なのだが、食事もハイクオリティ。旅館会席をモダンにアップデートしたような内容で、いい意味で万人に勧められる内容だと思う。

初手うまい汁はテンションが上がる
後半に八寸スタイルでつまみがたくさん出てくるのが嬉しい

サービスも全体として満足感が高い。応対もスマートであり、ドリンクは焼酎を頼むと当然のようにセットが出てくる王道鹿児島スタイル。

福岡・佐賀産などを中心に日本酒もグラスで4種類あり、酒の選択肢は豊富

内装は一部古い状態のままの場所もあるが、全体的にはスタイリッシュなものにリニューアルされており、「秘湯の鄙びた宿」に慣れていない方にも勧めやすい。

また、現在進行系で工事が進められているため、順次リノベーションされていくのではないかと思われる。

ガッツリ工事中

アクセスも鹿児島空港からバスで20分強、レンタカーであれば目と鼻の先で、実は大阪から一番近い温泉地説のある妙見温泉。
霧島と合わせて優れた宿・優れた温泉がたくさんあり大激戦区ではあるものの、ぜひ今後の定宿にしていきたいと考えている。

今年こそ石原荘に宿泊したい気持ちもあるので悩みどころではあるのだが。

目の前向かいの天狗食堂もいいぞ 田代鮮魚店もいいぞ

優れた温泉宿+α

【特別枠】福島 日中温泉 ひめさゆりの宿 ゆもとや

情報

  • 2023年6月宿泊・初訪問

  • 土曜泊、\25,450 ※温泉むすめプランのみ一人泊可

  • 電話予約 ※温泉むすめプランは直接予約のみ

特長

活動初期からその存在を認知してはいたものの、今までほぼスルーしていた温泉むすめを知るきっかけとなった宿。温泉むすめ特別プランであれば一人泊できる、とのことで宿泊し、結果として満足度の高い滞在となった。

日中早百合嬢が床の間に鎮座ましましている

特別プランは通常プランと比較すると価格は上がるものの、高品質のバスタオルなどの限定グッズや、キャラクターがお好きな方のためにちょっとしたサプライズもあり、ファンであれば価値を感じられる内容だと思う。

なお「サプライズ」についてはぜひご自身で確かめていただきたい。

広縁でのライブBlu-ray 鑑賞特典もあり

温泉は内湯こそ循環で個性を失っているが、屋根・蚊帳付きの半露天風呂が非常にすばらしい。
源泉42.6℃のナトリウム・カルシウムー塩化物・炭酸水素塩泉。泉温は39℃程度で、鉄分を4.0mg含み水色は茶褐色に濁っている。香りはほとんど感じないが、口に含むと金気味・炭酸味を感じる。
この良質ぬる湯が湯船に投入されており、ゆるゆると無限入浴することによりぬる湯でリセットできる。

蚊帳があるのは炭酸ガスに惹かれて集まってくる虫よけのためとのこと、ジッサイ虫は多い

残念ながら深夜は入浴できないが、夜は24時、朝は5時から開放されているので利用時間は比較的長め。

食事も満足度が高い。王道旅館会席スタイルだが郷土の山菜が多く使われており、皿の提供温度などにも配慮が見られる。
全体のボリュームもかなり多く、とくにメインメニューの和牛サーロイン朴葉焼きは大容量サイズである。

藤屋(通常)より肉量多いかもしれない

【特別枠】鹿児島 霧島湯之谷山荘(再訪)

情報

  • 2023年10月訪問 2年連続3度目(宿泊2回)

  • 土曜泊、\14,300 ※2022年の宿泊

  • WEB予約(OTA)

特長

今年は日帰りで訪ねたのみなので選外なのだが、ぜひ紹介したい温泉宿。

温泉超激戦区の鹿児島県においてもトップクラスに優れている温泉がある。
ここには44℃の硫黄泉30℃の炭酸泉の2種類の湯が提供されており、いずれも非常に優れた湯である。そして湯船の形状が素晴らしい。

また、中央に両方の湯がミックスされ適温になる湯船が設置されており、コメダのシロノワールのごとくあつあつひえひえの温度差を楽しむことができる。もちろん交互浴も可能。(筆者には熱い湯船はちょっとつらいが)

なお、一部フォロワー界隈では玉座と称されている模様。
以下は有権者のツイート。

それぞれの湯船は小さく、日帰り入浴だと争奪戦(譲り合い)になりがちなので、やはり宿泊して独泉するのが正しい楽しみ方だと思われる。
次回こそ宿泊したい。

車で行くときの、ここのヘアピンカーブの正しい攻略法を誰か教えてほしい

総括・お気持ち

2023年は新規の温泉宿や1泊40,000超のハイクラス宿も多く開拓したが、結果としてラインナップの半数が再訪の宿となった。
まだまだ未訪の地もたくさんある一方で、そろそろ「馴染みの宿」に重みをシフトすることも検討していく時期なのかな、と感じているところ。

2024年については50泊、というのは難しい数字のように感じるが、引き続きマイペースに旅を続けていきたいと考えている。
なお、執筆時点(1月)の実績は1泊・2湯にすぎない。2月には現時点で6泊の宿泊予定があるので、引き続きやっていきましょうというお気持ち。

今年も優れた温泉や温泉宿に出会う機会があれば嬉しく思う。


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