遺思確認

この間、何度目かの確認をしてきた。

入るのが難しくない山の中に深夜車で乗り付けて、見飽きた夜景を眺めた後、私は車の中でキャンプ用のナイフを首に当てがった。このまま押し付けて手を引いたらまず間違いなく死ぬ事は想像する必要もなかった。安物のベルトを首に巻いた時も、缶チューハイを片手に踏切で時間を潰していた時も体が揺れるほど心臓が跳ねた覚えがあったけれど、今回は自分でも不思議な程に落ち着いていた。

遺書を書いた。書く前までは恨み言に塗れると思っていたけれど恨み言はひと言も入っていなかった。
今死んだら遺作になる作品を読んだ。今まで何度も読んだけれど相変わらず上々の出来だった。
今週のジャンプを読んだ。来週の作品は気になったけれど、それはそれで仕方がないと思った。
愛された事がないという事は決してないけれど、自分で全て台無しにしてきていた。
悲しいと思えるほど他人に何かを与えてきてはないけれど寂しいと思う権利くらいはあるだろうと思っていた。
昔好きだったバンドが出した10年ぶり以上の新譜を聴いた。
冬に死ぬということは少し前から決めていた事だった。
少し前に病院から休んだ方が良いと言う紙と一緒にもらった薬を初めて飲んだ。

良い遺書が書けた。早く読んでもらいたくてたまらない。


アンタの十数年は27年にして返せそうだよ。
待たせてごめんね。


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