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記事一覧

人間社会と細胞社会

細胞同士がうまく連携して初めて自分は生きていられる。
という事実はよく考えてみると空恐ろしい。

元々は数十億年前に生まれた単細胞生物から進化してできたはずで、単細胞生物は細胞それ一つで生きていられた。
それに引き換え、人間の細胞を取り出しても、よほど条件を整えないかぎりあっという間に死んでしまう。
まず真水に入れるとパンパンに膨らみ機能しなくなる。
そこに洗剤を一滴でも垂らせば溶けて死んでしまう

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大雑把にいえば巡る

毎年、年末年始を迎えると時間について考えてしまう。
時間をムダにしたとか、1年がすぎるのは速い、といったことは常に思っているので、そういうことではない。

古典物理の世界では、時間は直進して、つまり過去から未来へ、同じ速さで一方向に進み続ける。
物理学を持ち出さなくとも、普通に生活する中で、昨日は過去でもう戻ってこないし、今日の次は明日だ。
しかしそれと同時に、「循環する」時間感覚が我々の中に存在

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考えてからやるか、やってから考えるか

考えてからやるか、やってから考えるか

ほぼ無意識に研究者をビジョン型とハードワーカー型に分けて見ている。
自分の周りにいた研究者にかぎれば、おおよそビジョン型が2割でハードワーカー型が8割だ。
ビジョン型は頭脳派、ハードワーカ型は体力派と言い換えてもいいのだが、少し異なったニュアンスを含む。
目的地を強く意識しているのがビジョン型で、ハードワーカー型は研究をすすめていく方向性や明らかにしたいことが明確ではなくぼんやりしている。

例え

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グラフとバンドとデジタルデータ

ここ10年で、論文の図に占めるグラフの割合が増えたと思う。体感として。

私は、手法的な区分でいえば分子生物学や細胞生物学と呼ばれる研究領域にいて、その他にも個体を使った実験に足を突っ込んでいる。
生物学の真ん中あたりだ。
中心という意味ではない。
学問領域には中心も何もなく、それぞれに興味を持ってやっているものが連携し広がっている。
だから中心ではなく他の学問からの距離がちょうど中間くらいという

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ツンデレじゃなくて、ただの職業癖です。

アニメとか映画とか趣味に関することで、盛り上がった気持ちを「分かってほしい」と思うことがある。
分かってくれないと悲しい気持ちや寂しい気持ちになるし、分かってくれると嬉しい。
そもそも他人と共有することに興味のない人もいるだろう。
でも、いつもではないにしろ、自分はそういう気持ちになる。

しかしどうも、同じ「分かる」といっても人によってニュアンスが異なる。
わりと長い間このニュアンスの違いについ

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集中できないのか、想像力があるのか

集中できないのか、想像力があるのか

以前より一度に読書できる時間が減った。
忙しくなって時間がとれなくなったのではなく、集中が続かない。
仕事で疲れてるのか、脳の体力が落ちてるのか、と色々考えていたのだけれどそれだけではないようだ。

例えばライトノベルを読んでいて途中で集中が切れることはあまりない。
好きになったTVアニメの原作ライトノベルを読むことが多く、作品世界を知っているので読みやすい面はたしかにある。
しかし、アニメ化され

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創作料理と研究

論文を読みながら、背景にある作業量の多さに吐き気がすることがある。
同様の発言をPodcast番組『いんよう!』などで発言したこともあるのだけれど、どうも論文から漂ってくる筆者たちが注ぎ込んだ膨大な時間や労力をうまく説明する良い方法を思いつかないでいた。
今日は思いつかないなりに、料理に例えてみようと思う。

一流とされている基礎生物系の学術雑誌では、ひとつの論文に30個から40個くらいの実験結果

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昔見ていた海外サッカーと科学コミュニケーションの話

昔見ていた海外サッカーと科学コミュニケーションの話

20年ほど前にスカパーに加入していた。
衛星放送らしくたくさんチャンネルがあって、私は海外サッカーを観ていた。
当時、ラウル・ゴンザレスというサッカー選手がいて、彼はスペインのレアル・マドリードという名門チームのエースストライカーだった。
常勝チームで点を取ることを義務づけられているなかゴールを決め続けて、チームの勝利に貢献していた。
左利きでテクニックがあって相手のディフェンダーを翻弄するプレー

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記録

数日前、父が死んだ。
朝方だったので死に目には会えなかった。
東京駅から新幹線に乗り、昼前に父が入院していた神戸の病院についた。
姉はどうしても外せない出張先から同じく新幹線に乗ってやってきた。
病理解剖をしたいといわれたので、病棟の入り口の椅子に座り母と姉と三人で待つ。
10時から始まった解剖は、2時間くらいで終わると思っていたが結局3時までかかった。
主治医の説明では感染対策に時間がかかったそ

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TV画面をスマートフォンで撮るように、脳と機械をくっつける

TV画面をスマートフォンで撮るように、脳と機械をくっつける

学生の頃に友人からASIAN KUNG-FU GENERATIONのCD-Rを渡された。
なんの話かと言うと、インターフェースの話だ。

20年ほど前は楽曲をCDに焼くのも一般的だったし、今現在クラウドが普及してもUSBメモリをまだ使う。
CDも場合によっては出番が回ってくる。
物理の記憶媒体。
データをやり取りするのに、TwitterやmessengerなどのSNSネット、メールに添付することも

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フィクション的現実と現実的フィクション

フィクション的現実と現実的フィクション

同じくらい強いキャラクターを漫画で登場させたらやりすぎだってボツにされるぞ、というフレーズが必ず出てくるほど藤井二冠は強い。
現実がフィクションを追い抜いた、みたいなことだ。
フィクションは想像の産物なので、現実には思いもつかないことを表現できると思っているからこそ、この逆転現象をあらわずフレーズを楽しめるのだと思う。

ところで、数学には曲がった空間を記述する分野がある。
リーマン幾何学というら

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長い石段を上り切ったところで歴史ボランティアガイドにつかまる

以前、静岡の久能山東照宮を訪れたとき、歴史ボランティアガイドの人につかまった。
日光の東照宮は後から建てられたもので、家康の墓があるのはここ静岡の東照宮の方だとその人は言った。
駿府は家康の居城だったから当然といえば当然かもしれない。
その家康の廟の裏手に愛馬の墓があり、木製の墓標が立っているのが気になったので近寄った。
墓標の文字を解読していると、横に立っていたそのボランティアの方から話しかけら

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たとえば歩くことも言語的なんじゃないか

たとえば歩くことも言語的なんじゃないか

普通、言葉といえば、日本語や英語など自然言語のことだ。
自然とつくからには自然ではない言語があり、プログラミング言語や機械言語がそれにあたる。
我々が普段、意思疎通や感情表現のために使う言語ではなく、ある特定の情報を正確に伝えるために作られた。
プログラミング言語は、機械に指令を出すためにある。
スペースがひとつ抜けただけでもエラーが出るし、コマンドを一文字打ち間違えただけで違う意味になったりする

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持ちつ持たれつ

持ちつ持たれつ

医学と基礎生物学は、持ちつ持たれつで発展してきた。
病気の研究をすることで生物学が進展し、生物学の成果により医学が進歩する。

医学は体の異常を研究し、
基礎生物学は体の正常を研究する。
異常を理解するためには正常が必要で、正常を理解するためには異常が必要だ。

医学部のカリキュラムでは、最初に正常な人体を勉強する。
解剖学、生理学、生化学などなど。
これらは全て人間がどうやって正常に生きて動くの

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