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聞いてもらう効用

 5月12日、4回目になるカテイカ・ミーティングが開かれました。そのときの模様は下記に上げています。

 メンバーの有賀薫さんがNサロンで行ったワークショップをもとに、3人1組で家事のモヤモヤを聞いてもらう形で行ったのですが、その結果、どうやら多くの参加者がモヤモヤの解決糸口を見つけ出す結果が出たのです。それはなぜだったのか、改めて考えてみました。

なぜ短時間で解決の糸口が?

 私たちは日々の生活で、いろいろな悩みを抱えています。仕事上の悩みや勉強、友人関係、家族のこと、そして家庭を回すにあたってのあれこれも、家事を行う人なら持っていることが多い。

 モヤモヤしたものを人に聞いてもらうとき、ふつうはけっこう話をするのに時間がかかりませんか? 

 「ちょっと話を聞いて」となったときは、お酒の席や食事、お茶の時間を設けて、1時間、2時間、場合によってはそれ以上の時間を、その話題を中心にいろいろ話をすることになります。今はあまり使われなくなったように思いますが、昔は電話もそういう手段の一つでした。長電話の原因は、一方が悩み事を抱えている、ということもあったはずです。

 ところが今回のワークショップでは、最初に悩みを聞き出す時間はわずか5分。追加のヒヤリングも3分で合計8分。聞く人、メモする人が話し合う時間も含めて、1人の悩みに費やす時間は全部で15分しかなかったのです。

 通常の相談に費やす時間と比べて、何と短いことでしょう! それなのに解決の入口へたどり着いたのは、「傾聴」というやり方にカギがあります。

 一般的に、人と話をするとき、「ちゃんと耳を傾けてもらった」と思える経験が少ない、という人は多いのではないでしょうか? しかし、このワークショップでは、話を遮らない、耳を傾ける、否定しない、というインタビューやカウンセリングの技術を使います。これは心がければ誰でもできることは、ちゃんと全員が話を聞いてもらった今回の結果からも明らかです。

 ふつうの悩み相談は親しい間柄で行うので、お互いの遠慮が少なくなります。そこに実は問題があります。もちろん、話し合うこと、相談にのってもらう、のることで関係は深まりますし、時間をかけて話すことですっきりする効果はあります。間においしい飲み物や食べ物があることも、楽しみを倍増させます。だから普通の相談を否定するわけではありません。

 ただ、私たちは相手を知っている気安さから、ついアドバイスをしてしまったり、自分の価値観と違うことを否定したりしがちです。ふだんからグチや悩みが多い人だと、「またか」と聞いてもらえないこともあります。聞いてもらえない経験があると、不満や未消化の気分が残り、また悩みを話す、相手は「またか」と再び思う、という悪循環にもつながります。

 きちんと耳を傾けてもらうことが分かる効用は、三つ。一つは、「受け入れてもらっている」という安心感が、自己肯定につながり、「解決できる」とポジティブに考えられるようになることです。

 二つ目は、聞いてもらっているからには、きちんと伝わるように整理して話そう、と心掛けるので、話すうちに自分なりの整理もできることです。

 三つ目は、他者には別の考えがあり、別の角度からの視点があること。このワークショップは、アドバイスを行うことが目的ではありませんが、聞く人がアドバイスを行うケースがいくつも見られました。聞く人は当事者とは異なる客観的な視点を持っています。そこでその人なりの解決策が見える人もいますし、少なくとも何らかの感想は持ちます。聞く人がしゃべる時間も設けられているので、そのときに、感想やアドバイスをすると、悩んでいる人は思いもよらない意見から、発見をするのです。そのアドバイスに従おうと思う場合も、「それでは解決にならない」と思う場合も、あるでしょう。どちらにしても、自分自身も自分の立場を客観的に見つめるきっかけをもらえるのです

聞いてもらって、すっきり

 日常生活では、なかなか人に真摯に聞いてもらうことも、人の話を真摯に聞くことも少ないかもしれません。今回のワークショップでは、家族がなかなか家事参加をしない、頼みたいレベルに達していない、といった悩みを抱えている人が何人もいました。それは、共同生活をすると発生しがちな悩みなのではないでしょうか。家事シェアが進む時代になったからこそ、パートナーへの期待が高まり、その期待が叶えられないことで、不満が溜まりやすくなった部分もあるかもしれません。

 もちろん、ワークショップの結果、全員の悩みがすっきり解決したわけではありません。後半の報告を聞いている限り、家族に対する悩みを抱えている人は、糸口が見つかったとはいえ、解決はもう1ステップ、2ステップ必要かもしれない、という人もいました。

 それでも、終わったときに、皆さんがすっきりした顔をして、冗談を連発して笑いを誘う場面が連続したのは、来る前よりは悩みが軽くなっていたのだと感じられました。

 昔ながらの井戸場が会議の効用と同じですが、人に話を聞いてもらうことは、大切です。人にひとときでも、悩みをシェアしてもらうことで、その負担感は大きく減ります。また、聞く側も「人の役に立った」実感は、その人自身の力になります。アドバイスを聞いてもらえばなおさらうれしい。そして、その悩みに思い当たるフシがあった場合、「自分だけじゃないんだ」と思えます。

 ワークショップをやってみて、私が発見したことは、本当に多くの人が何かしら家事の悩みを抱えていて、そしてその悩みを取り出してみると、たいていが「よくある」ことだということです。

 一人で抱えていると、悩みはぐちゃぐちゃになってだんだん大きな重荷になります。でも、人に話すことでその悩みを取り出してみると、案外その敵は小者だったりするものです。

 今回、インタビューのプロではない参加者の皆さんがすぐさま「傾聴」できたことからもわかるように、「傾聴」は誰にでもできます。それを生活に取り入れて、まず自分が聞いてあげられる人になると、家族も聞いてくれるようになるかもしれません。あるいは「今日はちゃんと最後まで聞いて」とお願いすることもいいかもしれません。そうやって、目の前の悩みが少しでも軽くなるといいですね!


 

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