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役に立てる喜び・後編

 今回は、人と一緒に行う家事についての話題です。前回は、大掃除など人と一緒にやることで家事も楽しくなるという話を書きました。上の写真のイベントのとき、みんなでつくったカレーはとてもおいしかった。プロが中にいたからでもありますが、手伝えた喜びが料理をさらにおいしくしてくれたと思います。

 今回は、助けること助けられることの意味について考えます。家事を独りで抱え込むのは大変です。家族の人数が多く、乳幼児や要介護者など、日常生活を送るにも支えがいる人がいては、なおさら大変です。一日に何回も洗濯機を回し、ベランダと往復して干して、乾いたら取り込んで畳んで元の場所に戻す。毎日大量に買い物をして運んで家で仕分けをして冷蔵庫にしまい、それからまた料理するときに取り出して、大量の食材を洗って切って炒めて煮る。食器によそって配膳して、みんなが食べたら片づける。

 大家族の家事の目立つものを並べただけで気が遠くなります。それをやっているというあなた、それは本当に偉い、大変なことをよくやっている、とねぎらいたくなります。その労働で培うさまざまな技は、飲食店で働く、介護施設や保育園などで働くスキルに通じます

 大人2人だけで暮らしている私は、その大変さを頭で走っていますが、体では知りません。でも、若い頃に育児で追われる友だちの家に行ったときに発見したことがあります。

モタモタしたときしか見つけられないこと

 小さな子どもは、大人が思いがけないことを喜び感動します。ある子は、ヤマト運輸の猫のキャラクターを観て「かわいい」といいました。私はヤマトだなとしか思っていなかったけれど、確かにあれは猫さんでした。

 ある子は周り中をびしゃびしゃにしながら洗い物をして、大満足の顔をしていました。お手伝いをできたことがうれしかったのです。そういえば私が最初にやった家事は、なんとキャベツの千切りでした。3歳のときの記憶です。部屋中に新聞紙を敷き詰めてもらって切ったんですよねー。きっと私が「やらせて」と母にまとわりついて毎日せがんでいたのでしょうね。きっとめちゃくちゃな切り方だったはずなのに、上手だったと思っていられるのは、両親がほめてくれたからです。3歳までは家族の蜜月期間でした。そして私は料理に対してコンプレックスなく育つことができました。

 子どもたちの感動は、初めて何かができたときの達成感を思い出させてくれます。世界が発見に満ちていたときの喜びも。お年寄りが、ゆっくりと道を歩いたり、スーパーのレジで一生懸命お金を出しているとき、実のところ急いでいる私はいらいらすることも多いのですが、それはやがて自分ものろのろしか作業ができないことに気づかされるからでもあります。

 思い切って、そういうゆっくりした動作の人に合わせてみると、新しい発見があるかもしれません。しみじみと切りかけの野菜を眺めてみると、スーパーに並んでいる均質な野菜にも個性があることに気づくかもしれません。

 私はめちゃくちゃヒマで毎日のように散歩していた難しい時期、3月になると、桜の木の幹がほんのりピンク色に染まり、花を咲かせる準備に入ったことに気づかされました。今はそんな姿に気がついているヒマはありませんが、その発見は今でも大事に心の中にあります。

 ゆっくりとしたペースでしか暮らせないとき、そういう人に合わせなければならないとき、人はとても大事な時間を過ごしているのです。

助けた相手に教えられる

 人は助け合って生きています。助けてもらったときは、もちろんうれしい。とても感謝します。でも、自分が弱いなと思っているときに、誰かを助けることができたら、役に立てた実感を持てたら、それがすごくうれしく、力をもらえたなと思えるときがあります。

 前に住んでいた部屋で、雨の日、隣の部屋の人が幼い息子さんと、荷物とベビーカーと傘の間で立ち往生していたことがありました。そこで私がベビーカーを持って階段を上って助けたことがあります。そのとき、もちろんお隣の人はとても感謝してくださいました。でも、実はその頃、仕事がなくて友だちもいなくてドツボにハマっていた私は、自分でも人の役に立てるんだ、と思ってとてもうれしかったことが印象に残っています。

 助けることは、ちゃんと感謝してもらえた場合に限るかもしれませんが、力をもらえることでもあるのです。家事も同じです。シェアするかどうか、外注するかどうかという問題は、とりあえず置いておいて。誰かと一緒に暮らしている人が家事をするとき、それは自分だけのためではなくて、家族のためにもしています。気づいてもらえるかどうかは別として、それは人の役に立つ行為で、それをしていることは誇りに通じます。世の中のおばちゃんたちが堂々としているのは、もしかすると確実に役立っている、自分がいるから家族が暮らせていることを知っているからかもしれませんね。

 

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