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「養ってやる」と思える理由・その2

 前回、マッチョな夫たちの中には、自分が「羊飼い」で家族は「羊」だと思っている人がいるのではないか、と書いたところ、多くの反響をいただきました。特に女性たちの「わかる気がする」という反応は、意外なほどでした。そのときの記事はこちらです。

 夫がマッチョなタイプではない、と思われる女性にも、「わかるわかる」と言われたのは、もしかすると少しは夫にその要素を見出したからかもしれません。あるいは、友人知人の中にその要素をみたことがあるからかもしれません。もちろん、それは反感を覚える相手とは限りません。長年連れ添った夫ならなおさらです。それはおそらく、夫と妻の役割意識が関係しているのと、夫婦という一筋縄でいかない関係によるのではないでしょうか。この問題は複雑なので、今回は後者の話だけに絞って考えてみます。

 実は先週ちょうど記事を上げた後に、映画『天才作家の妻』を観に行きました。グレン・クローズが、アカデミー賞の主演女優賞を逃したのはとても残念でした。なぜなら、口に出さずに表情だけで伝える彼女の葛藤がリアルで生々しかったからです。彼女に劣らず、夫役のジョナサン・プライスも、夫としての長年の葛藤を明らかにしたときの演技は迫真的でした。

ノーベル賞作家夫婦のおしどりぶり

 映画の夫婦は40年間連れ添いました。いわゆる略奪婚で一緒になった二人は、周囲もうらやむほどのおしどり夫婦。夫はことあるごとに専業主婦の妻への感謝を口にします。思いやりのある夫に見えます。

 夫婦の関係は、ノーベル文学賞を夫が受賞したときから、少しずつ歪み始めます。まず妻が動揺します。授賞式に臨むため、駆け出し作家の息子を連れて3人でストックホルムへ向かうと、伝記作家が家族に接近し、調べ上げた情報から、「実は妻がゴーストライターなのではないか」と揺さぶりをかけます。妻は否定しますが、動揺します。息子はそれが事実だと彼から言われ、思い当たるフシがあったので両親を批判します。

 夫に専業主婦だと強調された妻は、いらだちます。さらに受賞スピーチで妻への感謝をたっぷり語った夫を観て、妻は耐え切れなくなり席を立ってホテルへ戻ってしまいます。そして「離婚したい」と怒り出すのです。

 間に挿入される過去の思い出から、夫婦がもともと、どちらも独りで作品を世に送り出せない作家だったことが明らかになっていきます。より才能があった妻は、女性作家がアメリカで認められにくい1950~1960年代に若い時代を過ごしていました。彼女の貢献は内助の功以上のものでした

 夫は絶え間なく食べものを口にして落ち着きがない人です。これまで何度も浮気してきたらしく、ストックホルムでも浮気を試みます。その態度は、妻へのコンプレックスや作家としての悔しさからのものと思われます。

 ラスト近くの激しい夫婦喧嘩は圧巻です。仲が良いカップルもそうでない人も、「わかる」と思う部分がきっとあるのではないでしょうか。シチュエーションは違いますが、私も「わかる」と思った口です。

 もう離れたい。でも好き。そんな単純な言葉では言い尽くせません。お互いがお互いを必要としている。長年積み重ねた絆がある。でも、逃げ出したくなるほど相手の存在が重荷でもある。一緒に居続けるこれからを選ぶのか、それとも重荷を振り下ろすのか。夫婦の関係は意外な結末を迎えます。

必要だから難しい関係

 世の中の夫婦が夫婦を続けるのは、お互いが必要だからです。もちろん愛しているからという人もいます。でも、愛情だけで一緒に人生を歩むことはできません。人生にはいろいろな波があります。

 経済的困難を迎える場合もある。病気やケガでどちらか、あるいはほかの家族が介護を必要とするときもあります。この映画のように、どちらかの大きな成功や挫折も、夫婦関係を揺さぶります。2人の子どもが困難な時期を迎えることもあります。どちらかの親が夫婦を引き裂こうとする場合もあります。もちろん浮気をする人もいます。

 さまざまな困難を乗り越えるときに、お互いに距離ができていく場合もあります。助けを必要としているときに、相手が支えてくれなかったから、気持ちが離れる夫婦もいます。逆にそんなときに誰よりも強く支えてくれたから、夫婦のきずながより強くなる場合もあります。お互いだけが味方だと思う困難に立ち向かうときもあるかもしれません。

 家事や育児をシェアするかどうか、という問題は、そんな夫婦の数だけある関係性によって意味や重さが違ってきます。この深い問題を1回で書ききるのは難しかったですね。次は朝ドラの『まんぷく』を手がかりに夫婦の関係を考えてみたいと思います。

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