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同性カップルの住宅購入で準備したいことは?当事者のマイホーム相談を受けてきた企業に聞く

LGBTQという言葉の広がりとともに、多様な価値観や生き方があることの認知が広がっています。同性同士で家を借りたり、購入したりする事例も増えていますが、婚姻関係を結ぶことができない同性カップルが住宅購入を検討する場合、異性の夫婦であれば必要のない準備や事前に知っておきたい注意点があるといいます。
では具体的にどのようなポイントがあるのか。今回は、同性カップルの住宅購入とリノベーションの対応実績があり、東京レインボープライド2023にも出展した株式会社groove agentマーケティング部の羽田真那さんにインタビュー。
当事者の住宅購入にまつわる課題と購入前に備えたいポイント、また、不動産業界に必要なヒントを伺いました。


自由なライフスタイルを実現する「住」へのアプローチ

groove agentのオフィスは、外苑前にある分譲マンションの一室をリノベーションしたそう

――groove agentの事業について教えてください。
 
私たちは「大人を自由にする住まい」をコンセプトに、不動産仲介と設計・施工、アフターフォローまでをオールワンストップでサポートする「ゼロリノベ」という事業と、リノベーション向きの中古物件のみを集めた検索サイト「スムナラ(sumnara)」の運営を手がけています。

住宅購入は、「新居を購入するならやっぱり新築!」といった固定観念や、身の丈に合わない予算組みによって、後悔してしまうケースも少なくありません。

私たちは、経済的・空間的な自由度の高いリノベーションによって、購入後の豊かな暮らしを提案しています。さまざまなお客様をサポートさせていただく中で、同性カップルのお客様をサポートさせていただくことがあります。同性カップルで住宅を購入する場合には、異性の夫婦では必要のない手続きであったり、金融機関の情報が必要になるケースがあります。
同性カップルの方はもちろん 、それぞれのお客様のマイホーム購入に「不」があるなら、それを一つひとつ取り除いていきたい、と考えています。
 
このようにさまざまなライフスタイル、ライフステージの方に、もっと豊かな暮らしの選択肢を知ってほしい、という思いから、社内の賛同もあって、東京レインボープライド2023(以下、TRP)に参加しました。

仲間を増やしたい想いから初参加へ TRP2023

約23万人が集まった、TPR2023。groove agentブース前では、たくさんの人が足を止めて興味深そうに施工例を眺めていました
 

――TRPは初出展ながら非常に盛況だったようですね。ブース内にリビングを再現した展示はかなり斬新だったと思います。発想はどこからきたのでしょうか。

TRPの「らしく、楽しく、ほこらしく」のモットーと、私たちの“自由な選択肢”や“可能性を広める”事業との関連性を、視覚的に結び付けてもらいたいなと思って、あの展示にしました。
リビングの再現以外にも、ブース内や時には私たち自身が写真を身に着けて(笑)施工事例をたくさん掲出してご紹介しました。

車いすユーザーの家、単身者の家、ペットと暮らす家、趣味を詰め込んだ家…等々、手がけた物件を並べたのですが、たくさんの施工例を通して“選択肢は一つではない”ということを表したかったのです。

施工例1)オープンな対面キッチンとバースペースを計画。友人が来た時のためのお酒のボトルを並べられるカウンターをつくり、いつでも飲み会ができる家に
施工例2)家族の距離が近くにあることを希望されたため、就寝スペースは個室を作らず畳の小上がりを造作。顔を見て会話をしながら作業ができるよう、キッチンは対面式に

――TRP2023出展の感想は?

現場でたくさんの人の生の声に触れることができ、その場の空気感と相まってとてもフレンドリーに交流が図れたうえ、好意的なコメントをいただけてとても励みになりました。
 
また出展後も、メディア掲載のほかLGTBQ当事者に限らず多数のお客様からのお問合せなど、多方面で反響をいただきました。
反響によって共感してくれる人がいたということは、一つの自信につながりました。

同性カップルの住宅購入には公正証書など事前準備を

groove agentのゼロリノベでは、あまたある中古物件の 中から見つけだした物件を自分好みの住まいにするためのフォローをするそう。同性カップルの場合で特に気を付けたいこととは…

――こと同性カップルの住宅購入やリノベーションに関して、どんなことに課題があるでしょうか?
 
リノベーションに関しては、住まい手の個性が異なるだけでLGTBQ当事者と非当事者との間で差はありません。

その点、やはり住宅購入、特に住宅ローンに関しては、事前に知っておきたいポイントがあると思います。
 
同性カップルが住宅ローンを組む場合、まず留意しないといけない点が2つあります。
1つが、ペアローンを組む場合、住宅ローンの融資を受けられる銀行が限られている点、もう1つが公正証書などの必要書類を準備しておかないといけない点です。
私たちは上記2点をクリアするためのサポートを行っています。
 
最も肝要なのが、必要書類は金融機関にもよりますが、パートナーシップ誓約書や公正証書といった必要書類の提出が求められることです。こうした書類の多くは申請してから手にするまでに2~3ヶ月かかるケースもあります。公的な書類を整えておくことは、ローン申込書の必要事項の記入不備を防ぐことにもつながるので、ぜひ前向きに検討いただきたいことですね。
 
 公正証書に関しては、書類作成料や公証役場での申請に費用がかかります。自力で作成することもできますが、行政書士や弁護士など専門家に依頼するとスムーズかもしれません。

――ほかに当事者が心がけておくとよい点などありますか?
 
ペアローンで言うと、関係解消のリスクを考えることです。
もし別れてしまって、どちらかがそのまま住み続けるとなったとき、ローンを一括返済しないといけない状況に 陥ることがあります。
また、パートナーと死別してしまった場合、公正証書を提出してローンで支払いを折半していても、夫婦間のように物件の所有権は移りません。亡くなられた方の親族に相続が発生します。
 
現行法では同性カップルは財産分与を求めることが難しいため、そこでトラブルが生じやすいのです。住宅購入前に遺言を準備するなど、不測の事態にも備えておいたほうがいいですね。 

――伺っただけでもすごい情報量です。groove agentではご相談にお見えになったお客様に、担当者が都度調べて対応しているのでしょうか?
 
そうですね。中でも金融に関して、LGBTQのお客様に対応する各銀行、各ローンは日々増えていて、変化がとても速いです。
頻繁に状況が変わっていくので、「こうですよ」と一つの方法を強く推すことが難しい。インターネット上の記事なども、“今”の情報でないものも散見します。
ですので、私たちがしっかり最新の情報をキャッチして、理解し、お客様につないでいく機転やスピード感が重要です。
groove agentの強みは、そこに柔軟に対応しているところだと思います。 

――groove agentのウェブサイト内のコラム記事『LGBTのカップル向けの住宅ローンの要件とリスク|銀行一覧有り』(ページ末リンク参照)も、2021年の掲載から更新されていますね。社内でもこうした情報は共有されているのでしょうか。
 
この件に関しては、不動産チームでタッグを組んで、当事者のお客様がお見えになった際にきちんとお伝えできるよう、活発にやり取りをして知見を蓄積していっています。
LGBTQに限らず“相談ができる人がいる”ということを私たちは大事にしているので、お客様をサポートしていくため、寄り添うためにも、知識の更新は欠かせないですね。

――先ほど「リノベーションには当事者も非当事者もあまり差がない」とのことでしたが、リノベーションの相談にあたっては、関係性を尋ねる必要が出てくると思います。カムアウトが必須になりませんか?
 
確かにそうですね。リノベーションのプランを作るには、住む人のライフスタイルや詳細な希望条件を伺うことが欠かせません。お客様が安心して関係性を明かせるよう、当社を、そして担当者を「この人なら信頼できる!」と思ってもらえるかが大切です。
この点は、同性カップルに限らず、どのようなお客様でも後悔のない住まい探しの一番の秘訣だと個人的に思います。
 
そこで“信頼のできる人”になるためにはどうしたらいいのか。単純に人柄だけではなく、先ほどお話ししたようなお客様に役立つ最新の情報や十分な知識をもって、プロとしてのアドバイスができることが重要だと、私たちは考えます。
 
当事者の事前準備と不動産会社のサポート体制、その両方をつなぐ信頼感、この3つが成り立ってこそ、いい住まいづくりができるのかもしれませんね。

同性カップルの不動産購入のハードルはまだまだ知られていないことが多い

刻々と変わる情勢の中、有益な情報を共有し、最適解をお客様に提供するgroove agentのみなさん。業界に関して期待することを伺いました

――同性カップルの住宅購入に関していろいろとお伺いしてきましたが、不動産業界がLGBTQ当事者の住まい探しにおいて改善できることは、どんなことがあるでしょうか?
 
近年、同性カップルの住宅購入や借入の選択肢が広がってきていると感じています。「パートナーと落ち着いて暮らしたい」というごく当たり前の想いを、社会としても私たち不動産会社としても、サポートをし続けなければと思います。

そのためにも、不動産会社全体が正しい知識をお客様に提供していくことを期待しています。

時代によって状況は変化します。
ですので、そこを一緒に更新していけたらいいですね。私たちも変化に追いつけるように、キャッチアップし続ける努力は惜しまずにいたいです。

――お客様と不動産会社をつなぐLIFULL HOME'Sのような不動産ポータルサイトに関して、期待するところはありますか?
 
ポータルサイトはユーザーと不動産業界をつなぐ中立な立場だからこそ言えること、発信できることがあると思います。
また、中立な立場で不動産情報を扱っていることで、いろいろなお客様の事例やパターンを知っているはずです。
現場のリアルに関しては私たちが情報発信し、ポータルサイトからはポジションを活かして多岐にわたる情報の吸い上げと、その発信をしてもらえるとうれしいですね。

――今後、groove agentではどんなことに取り組んでいきたいですか?
 
私たちのテーマ「自由な選択肢を広げる」を、さらに多分野に向けて進めていきたいです。住まいを切り口にそれが実現できる場面がもっとあると思うので、入り込む余地がある場所へどんどん進んでいきたいですね。
 
同性カップルの住宅購入に関しては、行政や他企業でも取り組んでいる方たちがいます。そうした人たちと協力しながら、選択肢を広げるための取り組みを積極的に進めていきたいと思っています。一緒に取り組むことで、物事が加速していくことが多いですから。 

おわりに

インタビュー中、写真付きで施工例も紹介いただき、お客様の要望を形にした様子をうれしさいっぱいに語っていた羽田さん。そして、“自由な選択肢を広げる”という強い軸を貫きながらも、肩肘張ることなく、しなやかにその想いを住まいづくりに反映している雰囲気が、groove agentが手掛けたお部屋から感じられました。
 
お客様一人一人の望む暮らしを叶えたい―—。そのシンプルな姿勢を徹底することで、誰も取り残されることなく、住まいの選択肢がある社会の実現につながっていくのではないでしょうか。

プロフィール

羽田真那(はだ・まなみ)
1983年生まれ、山梨県出身。2007年に株式会社リクルートに入社し、新築マンション領域の商品企画、住宅設備、リフォーム・リノベーション領域の編集長を務める。2020年より株式会社groove agentに入社し、マーケティング、新規プロジェクトの企画・推進に従事。二児の母。 

株式会社groove agent
ゼロリノベYouTubeチャンネル「ZERO RENOVATION」
ゼロリノベInstagaram

参考リンク:

✳︎LIFULLHOME'S
✳︎LIFULLマガジン
✳︎株式会社LIFULL

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