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久しぶりの富士登山

小学3年生の時に家族5人で初登頂した富士山。34歳で人生の転機を迎えた時、取り敢えず頂上に立てば、これから何でもやっていけると思い、道中色々考えながら2回目の登頂。以来、5年間で計7回、毎年山開き後の最初の金曜日に、夜五合目に入り登頂、翌日ご来光を拝んでから下山というスケジュールで登山を続けてきたが、その後の登山ブームや、世界遺産登録で入山者が急増。またマイカー規制も加わって、気軽に登山できる山ではなくなってしまい、しばらく遠ざかることになった。それでも、駐在から帰国した年に縁あって、8月末に久し振りに登ることにした。しかしながら、それまでの富士登山で一度もなかった悪天候に見舞われて8合目で登頂を断念することになった。それから3年経ち、山開き期間が9月10日(従来は8月末)まで延長されていることを知り、急遽8月26日に登ってみることにした。

朝4時に横浜を出発。今回は静岡県側の富士宮ルートを選択。5合目に向かう富士スカイラインの途中にある水ヶ塚公園が駐車場とシャトルバスの発着場。6時のバスの始発を目指して道を急いだ。御殿場インターを降りて富士スカイラインに入ったところで自衛隊の東富士演習場があるが、そこでその日に行われた総合火力演習を見学する車の列に巻き込まれてしまった。その事実を知らなかったため、まだ11kmも先にある駐車場の列がここから始まっているのかと茫然となった。5時半を過ぎたころに車列が動きだし滝ヶ原駐車場と表示された駐車場に前の車が次々に右折して行くので、水ヶ塚駐車場が満車の場合の臨時駐車場と勘違いしてそれに続いた。入口にいた若い自衛隊員(まずここで疑うべきだが、御殿場は自衛隊駐屯地もあり、こんなお手伝いもしているのかとあまり気にも止めなかった)に、念のため、ここからシャトルバスが発着するのかと尋ねたところ、シャトルバス(行先は5合目ではなく演習場で違った訳だが)はここから出る、Webでの申込み書を持っているかとの返答があった。事前にHPでマイカー規制や駐車場の件を確認しても、Webでの申込みが必要という記載は一切なく、一瞬混乱したが調査不足で仕方なしとして帰路につくことにした。しかし、やはり腑に落ちず、自衛隊の駐屯地を過ぎたあたりで車を止めて関連のHPを確認してみた。やはり、その案内を見つけることができなかったので、満車を覚悟で水ヶ塚に向かうことにした。その方面に向かう車はほとんどなく、ほぼ諦めの気持ちで運転して駐車場に到着。係員のおじさんからの満車のお知らせを覚悟して、車を進めると普通に駐車料金を求められて、駐車スペースへの案内を受ける。そうこうしていると、臨時シャトルバス(6時始発、以降は30分間隔だが6時15分を増発する)とのアナウンスがあり、それに乗るべく急ぎ支度を済ませ、切符を購入、何とか席を確保した。5合目には思っていたよりも早く30分で到着し、結局当初想定していた時間に登山口(標高2,400M)に立つことができた。ほっとした。なんだかんだあっても幸先の良いスタート。

久しぶりの早朝からの富士登山。天気は快晴。眼下に雲海を眺めながら7時に登山を開始。なだらかな火山礫の斜面をゆっくり登り、最初の山小屋のある6合目に7時10分に到着。丁度、動き始めの息もあがって、warm up完了。そのまま山小屋を通過して、岩場の続く登山道に入り歩みを進めた。久しぶりの登山ながら、2002年から数年続けていた登山のペースを身体が覚えていて、ゆっくりと立ち止まらずに前進を続けるというスタイルで進んだ。その先の青い空に、少し変わった雲が現れて、思わず歩みを止めて双子でヤンチャな感じの雲の兄弟を写真に収めた。何か司馬遼太郎先生の「坂の上の雲」を想起させた。これから先の自分。

2000年前半の頃を振り返って見ると、自分を見つめ直し、再発見するために、週末や連休は、良く山に行っていた事を思い起こした。
北アルプスの穂高、南アルプスの鳳凰三山、八ヶ岳、槍ヶ岳、北岳、大菩薩嶺、瑞牆山・金峰山、両神山、旭岳、檜洞丸、雲取山、金時山・明神ケ岳、大岳山、塔の岳、天城山、屋久島の宮之浦岳 などなど。
この中で唯一山頂まで登頂できなかったのが槍ヶ岳(3,180M)。最後の50mを前にして暴風雨に見舞われ、それこそ自分自身が風で吹き飛ばされそうになったので、山頂前にある山小屋に飛び込むまでは大きな岩影に身を潜めて、風が少し弱まった瞬間に這って歩みを進める事を繰り返し、長い時間をかけて何とか山小屋までの最後の50mを進んだ記憶がある。翌日には天気もおさまって、槍ケ岳の穂先(頂上)に立てるかなと期待していたものの、叶わず、きっとまた戻って来ようと思って下山した思いが今もはっきり残っている。前回の富士登山と同じ様に。でも、こうして、また戻って来れるから。

新7合目に7時45分に到着。荷物を降ろして5分間の小休止。そこから先も続く岩場に備えて、グローブをつける。10数年前とは違い、流石に脚力だけでなく、三点支持での身体全体でのリフトアップが効率的なので、グローブは火山岩をしっかり掴むための必須アイテム。そこからも変わらず、一定のペースで先に進んだ。この時点では、無心で目の前にある道を直向きにこなしていく感じ。この気持ち、真っさらな感覚も久しぶりで清々しかった。

30分後の8時20分に次の山小屋の元祖7合目に到着。決して、新7合目と元祖7合目の山小屋は仲が悪いわけでも、張り合っている訳でもないと思うので念のため。
標高は3,010M。天気は相変わらず快晴で、汗もしっかりかき続けていたものの、風で身体が冷える事も考え、半袖の上にウインドブレーカーを着て、8時 30分に登山再開。

ここから、今まで感じた事のなかった、息苦しさを少し感じる(やば!年?)。ゆっくり深く息を吐いて、ペースを変えずに歩みを進めた。相変わらず、岩の多い登り道が続く。この辺りから、ご来光を拝んで下山される方たちとすれ違うようになり、登山道と下山道が同じ富士宮ルートならではのストレスを感じた。通常は登山者が優先ながら、全く意に介さずに下山される方など。でも、気の持ちようで、ゆったり構えて、こちらが道を譲って穏やかに対処した。山に親しんでいる方からの挨拶は気持ちが良いので、ちょっと息があがってきている時でもしっかり声に出して返答。不思議なもので、それがかえって身体を元気にさせてくれた。

25分後の8時55分に8合目(3,250M)に到着。山頂までの行程では半分を超えたかなという感覚。ランニングや、スポーツにとどまらず何でもそうだが、折り返し地点はすごく力が湧いてくる。ここまで進んできた、さあ、水分を補給して後半もしっかりいこうって気合が入る。そう思うと、物事を進める上での工程表やマップはとても大切だと改めて感じた。今、自分がどこにいるのか、それを認識する事は、目標を再確認して大きな力の源になる。

10分休憩の後、登山を再開。岩場だけでなく、火山礫の斜面もあり、少し歩みを進め易いところもあったのと、アドレナリンも出始めたせいか心地良くなって、気持ち良さすら感じながら登山を続けた。今日、登山できた事と、天候に感謝しながら。

9時30分に9合目(3,460M)に到着。小休止の時のもぐもぐタイムは、昔から定番の明治のアーモンドチョコ。小休止毎に2粒を口に入れて水分補給をする。今回は、猛暑という事で、3リットルの水を準備した。2本は前日に冷凍庫で凍らせたもの。これが正解。最後まで暑い中キンキンに冷えた水を補給する事ができた。また、今年になって良きパートナーとなった一眼レフもつれてきたので、今までの中で最も重い荷物での富士登山になった。でも、全て必要なものなので、アルプスに行った時の荷物の重さをイメージしながら、久しぶりに負荷を感じる登山を楽しんだ。

9合目、いよいよ山頂(10合目)と思うところが、この先にもう1ポイント。9合目での休憩の後、登山を再開して10時に胸突き八丁と呼ばれる9合5勺に到着。もう、ここからは肉眼ではっきり山頂付近を確認でき、見ると目と鼻の先の様に感じる。でも、胸突き八丁という言葉の由来通り、ここからの八丁(870M)は、再び火山岩の急勾配。しっかり、チャレンジの場を与えてくれる。

10分の休憩の後、山頂を目指して登山を再開。ここからの道のりは、胸突き八丁での最後の一踏ん張りというよりは、久しぶりに来た富士登山がもう間も無く終わってしまうという気持ちが強くて、ここまでの道のりにも感謝しつつ、一歩ずつ噛みしめながら、足を前に出して楽しんで山頂の鳥居を目指した。
火山岩も多くて決して平易ではない道を進む。そして、10時40分に山頂の奥宮に到着。登山開始から3時間40分。久しぶりに原点に戻ってきた感じ。自然と力が湧いて来た。

山頂について、先ず、奥宮にお参り。このところ心は固まっているので、気持ちは一緒。神聖な気持ちでいつもと同じ様にお参りする。
奥宮の外に出て、剣ヶ峰(3,776M)を目指した。久しぶりの火口、その先の馬の背。相変わらず、遮蔽物がなく風も通っていて、岩肌が露わになった坂で滑りやすい最後のアプローチ。年をとって高いところが苦手というか、高いところに立つと足がすくむようになってしまい、結構馬の背から西側の斜面を覗いた時は足がガクガクして、ドキドキしながら登頂を続けた。我ながら情けない。

剣ヶ峰では、「日本最高峰剣ヶ峰」と刻まれた碑の前での記念撮影のための列ができており、そこからの景色を写真に収めながら順番を待った。皆さん、列の前後の登山者と交互にお願いし合って記念撮影していた。
自分の順番になり、1枚目は、そのまま撮って頂く。2枚目は、予め準備して印刷したA4サイズのメッセージカードを胸の前にして写真を撮って頂く。そのメッセージを出した瞬間、列に並んでいた人達から一斉に「おっー!」との声が上がり、中には僕にカメラを向ける方もいた。最高峰で口にしたかった思いを表したメッセージ。そう思って準備してきたし、しっかりと形に出来て、達成感と共にとても幸せな気分に浸った。しっかり撮影して頂いた方にも感謝、感謝。

奥宮に戻って、お守りを頂いた。その後、山頂の岩場に腰を落ち着けて、コンビニおむすびの昼食を楽しんだ。通常であれば、ストーブを持ってきてお湯を沸かし、ミニサイズのカップヌードルをスープ代わりにしておむすびを食べ、また食後にはコーヒーを飲むのが通常だが、一眼レフのスペースを優先してストーブや薬缶の携行は、今回は断念した。でも、キンキンに冷えた水もあり、久しぶりの富士山頂での昼食はとても美味しかった。

山頂から剣ヶ峰への登頂も含めて約1時間半の幸せなひと時を山頂で過ごし、12時に帰途につく。

登山道と下山道が一緒なので、登山者を優先して、時間を気にせずにゆったりした気分で下山する。過去の登山では、如何に早く下山出来るかなという思いもあり、岩場であっても、何も考えず小走りに滑り降りるように下山して来た。今回は、歳を重ねて膝と大腿の筋力が今までより衰えたせいか、岩場を一つずつ降りる感覚も異なって、しっかり着地する足を確認する事を意識して、バランスを崩さないように下山した。そんな風に思っていたところで、若い男女の登山者が爽やかな挨拶と笑顔と共に、軽やかに弾むように下山している姿を目にして、正にバネ、躍動感が違うなと感じた次第。同じようには行かないが、年齢並みに焦らず最後までしっかり下山したいと思い、ゆったりとした気分で歩みを進めた。

8合目の山小屋に13時に到着して小休止。その後、新7合目には13時50分に到着。高度が一気に下がって来た事を感じながら、また、今日一日の登山を振り返りながら下山を続け
5合目には14時35分に到着。

トラブルなく、快晴の天気に恵まれて、登山できた事に感謝。心の中で、目標達成の報告をして、今年の富士登山の締めとした。
2002年の頃と同じ様に、また新しいステージに挑戦していく、良い励みになった。
これからが楽しみ。とても気持ちの良い1日になった。感謝、感謝の登山。

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