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ウィーンのメランジェ

今住んでいるハンガリーの首都ブダペストから電車で二時間半ほど西に行くと、隣国オーストリアの首都ウィーンに着く。日本という島国で生まれ育った私としては、こんなに簡単に国境を跨いで他の国に行けることに今だに慣れない。だいたい東京・浜松間と同じぐらいの距離である(ヨーロッパに新幹線があればもっと早く着けるのに)。

ブダペストに住んでいる感覚からいうと、ウィーンはやはり都会で洗練されているイメージがあって、観光、音楽、美術、買い物など色々目的はあるのだが、毎回欠かさないのが「コーヒーハウス」巡りである。

ここで「コーヒーハウス」というのがミソで、ウィーン出身の友達によれば「カフェとコーヒーハウスは別物」ということだ。彼によればカフェはスターバックスのようなチェーン店や新しくできた流行りの場所を指し、コーヒーハウスというのはウェイター・ウェイトレスがちゃんとした制服を着こなして、正統なウィーンコーヒーを提供してくれるところのことらしい。

お分かりのようにとても主観的な判断なので、ウィーン市民共通の見解ではないが、なるほどなと思った。私もそこまでたくさんのコーヒーを飲み歩いたわけではないが、確かに昔ながらのコーヒーハウスにはいわゆる普通のカフェとは違う由緒正しい雰囲気が漂っている気がする。

「カフェ」に行くと想像通りのメニューが並んでいる。エスプレッソから始まって、カプチーノ、カフェラテ、アメリカーノ、コルタド、マキアートなど。最近は流行りのフィルターコーヒーを提供しているところもあるが、基本的にはエスプレッソ系のコーヒー類である。

ウィーンの「コーヒーハウス」に行くと、上記のメニューはもちろん、他にも数十種類以上のバラエティに富んだコーヒーに出会うことができる。コーヒーの上にホイップクリームが乗ったもの、リキュール入りのコーヒー、その中でも私のお気に入りはメランジェ。

メランジェはホイップ付きやリキュール入りと比べるとなんてことない、ウィーンでは定番の普通のミルクコーヒーである。カプチーノに似ているなと思ったら、ウィキペディアにもそのように書いてあったのでそうなのであろう。

作り方は店によって違うようでココアのブレンドや生クリームが乗ってるものもあるそうだ。私の行きつけのお店はウィーンの中心地にひっそりと佇む老舗・カフェハヴェルカだが、そこではシンプルにミルクコーヒーにミルクの泡がのったものが提供される。毎回銀のお皿に乗せられて、少量のお水と角砂糖と共に。

小さめのカップ、お店の名前が入ったソーサー、そのタイポグラフィまで全てが美しい。

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コーヒーハウスには歴史が染み付いているので(特にカフェハヴェルカは)、新しいカフェと比べると食器類から家具まで年季が入っているのだが、そういう時の流れは即席の「それっぽいもの」では代用できない、独特の雰囲気を醸し出している。

そういえば日本でも「カフェ」と「喫茶店」は違うように思う。今、コーヒーを飲む場所のことを指すときにどっちを使っても間違いないだろうが、私の中ではどことなくコーヒーハウスは喫茶店(純喫茶)を連想させるものがある。