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桃の季節

私は地元の市場に行くのが好きである。ハンガリーでもスーパーマーケットで買い物をする人の方が多いだろうが、私は断然市場派である。

理由はたくさんあるが、一つには食べ物を通して直に季節を感じることができるからだ。特に果物の旬は顕著で、五月になれば苺一色になるし、夏頃にはチェリーや西瓜が出てきて、秋になれば葡萄や桃と言った具合である。まさに今は桃の季節だ。

桃と一口に言っても色々な種類があるようで、ハンガリー語が読めない私はよくわからないが、読めるところだとネクタリン、あとはハンガリー人の友人に教えてもらったところ、皮の色が濃いめの黄桃(ネクタリンとは違うらしい)、皮の色が薄めの白桃がある。黄桃の方が少し酸味があって酸っぱくて、白桃は甘い。

友人は白桃は甘すぎるので生で食べるなら黄桃、白桃はジャムとかピュレとかお菓子を作るときに使うと言っていた。私は白桃の方が甘くて好きである。甘いと言っても日本の桃のようにものすごく甘いわけではなく、適度に酸味があって美味しい。

思えば日本にいた時はあまり果物を食べなかった。もちろんスーパーに行けば季節の果物が売っていたけど、なんだか特別な感じがして、日常的に食べる習慣がなかった。ハンガリーに限らずヨーロッパの果物は日本のような宝石の美しさはないが、安くて美味しく、手軽に買える環境は嬉しい。

一般的に知られていないと思うが、ハンガリーはヨーロッパの中でも果物がよく獲れる場所で、ワインの名産地である他、果物の蒸留酒(パーリンカという。度数は40〜60度ぐらい)が有名である。旬の季節以外はアルコールかジャムやドライフルーツのような保存がきくようなものに加工して楽しんでいるようである。

また市場に行くからこそわかるのが果物の旬の早さである。旬の時期にはどこもかしこも同じ果物が並ぶのだが(もちろん質はお店によって違うからそれを探索するのも楽しい)、旬が終わった途端パタリと市場から消えてしまう。日本だったら年中売っていそうな苺も、旬を過ぎると市場には全くない。かろうじてスーパーなどで見かけるが、それでもギリシャ産などで国産のものは見当たらない。

一年でこの時期にしか食べられないという期間があるからこそ、意識的に注意して果物を手にするようになったのかもしれない。ちなみに私はハンガリーの苺が世界一美味しいと思っているが、苺は五月ごろにしか食べられないので早くも来年の苺の季節が恋しい。大人になってから毎年のイベントとして楽しみになることが少なくなってきたが、市場巡りは私の楽しみを増やしてくれる。