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債務整理広告と不適切処理に関する報道について

一般社団法人 士業適正広告推進協議会
代表理事 弁護士 櫻井 光政

1.NHKの報道について

2 ⽉ 18 ⽇に NHK が「誇⼤ネット広告で不適切な債務整理に サポート団体⽴ち上げへ」という報道(以下「本件報道」といいます。)を⾏いました。

同報道は、「『借⾦が必ず減る』などとする誇⼤なネット広告を⼊り⼝に、多重債務者などが不適切な債務整理に誘導されて⾦銭的な被害を受ける事例が相次いでいる」というものでした。

しかしながら本件報道には、⼠業広告並びに債務整理業務⼀般について、誤解を招きかねない表現があることから、当協議会としては本書をもってこの点を指摘することとしました。

2.広告と処理内容は別の問題である

本件報道においては、誇⼤な広告に誘引されて債務整理を依頼した市⺠が、不当な処理により経済的な損失を被った、かえって⽉々の負担が増えた等と指摘されています。

当協議会は、⼠業の分野において、不適切な広告や不適切な処理が存在することは否定するものではありません。これらについては、適切な調査や対応が⾏われるべきであると考えており、違法不当な⼠業広告が市場から排除されることは、当協議会の⽬的の⼀つでもあります。

本件報道で紹介されているように、債務整理において不当な処理が⾏われた場合、依頼者に損害が生じることはありますし、当協議会もそのような事例のいくつかを把握しております。

しかし、その原因は、債務整理の処理内容が不適切だったからであって、広告の内容が不適切であったものではありません。

適切な広告で多くの依頼を受けながら不適切な処理を行う士業が存在することは残念ながら事実であります。

本件報道は、あたかも不適切な広告で誘引した結果として不適切な債務整理の処理が⾏われているかのような印象を与えかねないものでした。

しかし、上記のように広告の適否と事件処理の適否が別の問題であることに鑑みれば、本件報道は、市⺠に、⼠業広告⼀般について悪いものであるとの印象を与えかねません。

士業広告は、士業に相談、依頼することへの敷居を大きく下げてきました。これにより、市民が窮地に陥る前に適切な助力を得たり、あるいは泣き寝入りをすることを防いできました。このような重要な役割を無視して、士業広告と処理の問題を混同することは、かえって市⺠の権利実現への途を閉ざし、被害をもたらすことにもなりかねません。

3.債務整理の広告においてある程度見込みを肯定的に示すことは事実に反しない

本件報道では、必ず借⾦が減額される、という広告が問題視されていました。

確かに、弁護⼠広告においては、このように⼀定の結果を請け合い、保証する広告は禁じられています(弁護⼠の業務広告に関する規程 3 条 3 号[1])。

受任時にその様な説明を弁護⼠がすることも禁じられています(弁護⼠職務基本規程 29 条 2 項[2])。

したがって、「必ず」借⾦が減額されるという広告が不適切であるということは、当協議会も異論があるところではありません。

しかしながら、債務整理においては、極めて⾼い可能性で総⽀払額の減額、つまり借⾦の減額を実現することが可能です。任意整理においては、⼤部分のケースで、貸⾦業者と利息の減免や返済のリスケで合意をすることが可能です。

また、破産の場合、免責不許可事由があるケースでも裁量免責になるケースがほとんどです。結果的に「借⾦減額」が達成できないケースはごく⼀部です。

減額の出来ないケースとしては、税⾦などの破産でも免責できない債務を負担している場合や、弁護⼠に依頼後、約束した⽀払いや資料集めをしない、連絡をしないといったケースで、中途解約になる場合です。

たしかに、「必ず」借⾦が減額出来るという広告は、事実に反しています。

しかし、だからといって徒に借⾦が減額出来ないリスク、つまり債務整理が失敗するリスクを強調すること、とりわけマスコミがそのようなリスクを強調することは、借⾦問題について⼠業への依頼を躊躇わせ、状況を悪化させる問題があると考えます。


[1] 「誇大又は過度な期待を抱かせる広告」
[2] 「弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。」

4.まとめ

⼠業に依頼した結果、望まぬ結果となってしまったケースには、広告に問題があるケースもあれば、処理本体に問題があるケースも考えられます。

また、残念ながら、⼠業が介⼊することで取り⽴てが⽌まることから、その時点で依頼者が解決への意欲を失うなどして、事件処理が続⾏できなくなるケースも存在します。それぞれが別の原因であることから、広告と処理の問題は区別して議論するべきです。

また、債務整理は、⼤抵のケースで状況を改善することが可能な事件類型です。債務整理の広告について、処理の不適切さと広告の不当性を混同して、あたかも債務整理の広告⼀般に問題があるとの印象を与えかねない報道は、借⾦問題についての救済の途を閉ざしかねないもので適切ではありません。

債務整理の問題については、それぞれの問題を区別して、議論されることを望みます。 

以上


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