ヴィンセント・イン・ブリクストン ~ 追記

先日 note を書いた 新大久保グローブ座で上演中の お芝居。
画家になるよりもずっと前のゴッホの下宿先での物語について…..

前半、ゴッホは下宿屋の娘に一目惚れして、そこに越してくるのだが そののち娘の母親である未亡人と恋仲になる。
自分の親みたいな年齢の ずっと喪服をまとっているような女性を好きになるところの説得力が無い、と書いたのだが…….

ヴィンセントはたかだか19歳かそこらなんだよね。
見た目もパッとしないし気もきかず、頑固、女性にモテない19歳。だから 相手はダレデモヨカッタんだよ。たぶん。
そう考えると、恋に落ちるための説得力なんて不要であり、そのために60分も費やさなくてよかったんじゃないの? と 脚本に問いたくなる。
翻訳モノですから、本上演に際してどうこうできることではないでしょうが。

ダレデモヨカッタような恋であれば、挨拶もせずに出て行ってそのまんま、次に訪れたのは、飢えた時という身勝手さも すんなり腑に落ちる。

やはり興味深いのはヴィンセントよりも、下宿屋の女将である未亡人の方ですね。1870年代 夫を失った彼女は 生きていく拠り所?希望?を 若い人を支え才能に手を差し伸べることに託そうとした。
若い下宿人と恋に落ちるなど堕落の極みと思っていたでしょう。

ヴィンセントが去った後、がっくりと老いた彼女の姿は 自分を恥じ 生きる価値もないと思っていることを体現していた。
ヴィンセントはといえば、愚にもつかぬ アーメン説教始めちゃうし。

だが、最後に救済がある。
この脚本のちょっとした、そして最大のアイディアとも言える。
自然な流れで 置かれたブーツを無心にスケッチし始めるヴィンセント。
そこにろうそくの炎のような照明が当てられる。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画のよう。
ぼろぼろにくたびれ疲れ汚れた日常の中に小さく灯る美しい灯り。
小さく浮かぶ才能。
ゴッホは生涯に何枚ブーツの画を描いたのでしょう?
履き潰され 薄汚れたブーツの画は雄弁に庶民の生活を映し出す。
150分の いや何年にもわたるストーリーが 一枚の画に詰まっていることを観る者は知る。
数日経ってみると、一番覚えているのはそのラストシーンで、なるほどなぁと思わされています。

#演劇    #グローブ座    #ヴィンセントインブリクストン #Aぇgroup


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