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朝ドラで話題騒然!?謎のアニメ「キックジャガー」にある伝説のアニメーターの影を見た。

NHKの朝ドラ「なつぞら」に、「キックジャガー」なるアニメが登場して話題になっている。

「なつぞら」は御存知の通り、昭和30〜40年代のアニメ制作現場を描くテレビドラマで、広瀬すずが演じるヒロイン・奥原なつは所属する大手アニメ制作会社で敏腕アニメーターとして活躍しているという設定だ。

そのモデルとされるのが、奥山玲子。東映動画で原画マンとなったのを出発点に、劇場アニメ、テレビアニメを問わず数々の作品に足跡を残した伝説の人だ。

ドラマでの奥原なつは、実際の奥山玲子とは細かいところで異なる設定が与えられており、奥山以外のアニメーターの要素もいくつか盛り込まれている。その一つが、「キックジャガー」だ。

ドラマ内では、「キックジャガー」は昭和44年に放送が始まり、昭和47年秋まで3年間続いたことになっていた。その名前から想像される通り「タイガーマスク」と「キックの鬼」のあわせ技と見て間違いなかろう。ミック・ジャガーも連想されるが、そこを追求するとややこしくなりすぎるので止めておこう。

「タイガーマスク」も「キックの鬼」も、ともに東映動画の製作で原作もどちらとも梶原一騎、放送時期もほぼ重なっている。ただし、奥山玲子はどちらの作品にも関わっていない。もしかしたら名義を変えて(あるいはノンクレジットで)原画を描くくらいはしていたかもしれないが、そこはさすがにわからない。ここでは関わってなかったことにしておく。

ドラマ内の「キックジャガー」を見た限りでは、ストーリーはほぼ「タイガーマスク」といってよかろう。ちびっこハウスのようなのも出てきたし、原作漫画とは違う最終回の迎え方がアニメ版「タイガー」に極めて近かった。

ちなみに、「タイガーマスク」は原作が月刊誌だったことなどもあり、放送の途中から原作の種が尽き、途中からオリジナルストーリーが主体となって原作とは違う終わり方をしている。放送終了時、原作はまだ最終回を描いてすらいなかったのだから、違うのは当たり前だ。これについて、一見こうるさそうに見える原作者の梶原一騎は一切口を挟まず、むしろアニメならではのきれいな最終回を絶賛していたと言われる。一方、オリジナルエピソードを作ることになった脚本担当の辻真先は、梶原から何か言われないかと恐る恐るだったというが、「その頃の経験が今やっているミステリー作家の仕事に随分役に立った」と、かつて私とのインタビューで打ち明けてくれた。

さて、そんな中での「キックジャガー」だが、29日の放送回で最終回のカットが完成版の形で披露された。キャラクターのタッチなどは、まさに当時の「タイガー」のそれだった。よくここまで再現したなと思ったら、それもそのはず、このアニメを手掛けていたのは、「タイガーマスク」の作画を実際に手掛け大橋学だったことがわかった。大橋は、「タイガーマスク」の実際の作画監督、木村圭市郎の愛弟子である。そういえば28日の回で、帰宅を急ぐなつに「原画を見てくれ」と声をかけた若手原画マンがいたが、ひょっとして大橋がモチーフだろうか?

そんな大橋の師匠である「タイガー」の作監・木村圭市郎には辻真先と同じく4年前に、直にインタビューして話を聞くことができた。豪快さで鳴らした木村の作監の仕事はまさに天才肌で、演出担当が書いたコンテを「これは気に入らない、こうしたほうがもっといい」と勝手に書き換えて監督も知らないカットを作ってしまったことも何度かあったという。結局、度々演出サイドと衝突したことがアダとなり、木村は最終回を迎える前に番組を降り、東映動画からも去ってしまう。それでも、彼が描いたOPとEDのタイトルバックだけは最後まで放送され続けた。木村は、「あのオープニングのようにタイガーを描けばいい」と若手原画マンに言っていたという。それを聞いていた一人が、大橋だったわけだ。

その木村圭市郎は、2018年10月に急逝している。その直前まで、新たなアニメの描き方を模索し続けていたという。今回、大橋の手を通じて、木村の足跡に触れられたのは幸いだった。だが、願わくば、あの梶原一騎バリの強面風アニメーターの姿をドラマの中に登場させてくれたらなあ、とも思った。あ、でも、ひょっとしたら、なつがいる現場でオールバックにアロハシャツ&グラサン姿で歩き回る制作進行風の男が、木村圭市郎的なあれなのだろうか?


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