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「ハイジ」っぽい「なつぞら」劇中アニメとあの頃のテレビ風景。

NHK連続テレビ小説「なつぞら」が佳境を迎えている。今週は、東洋動画からマコプロダクションに移ったヒロイン・なつが、夫の坂場一久や昔なじみの同僚たちと新しいテレビアニメの製作に加わり、第1話が放映されるまでが描かれた。

「大草原の小さな家」をモチーフに描いた劇中アニメ「大草原の少女ソラ」は、「アルプスの少女ハイジ」がベースにあるのは異論のないところだろう。「ハイジ」の放送開始は1974年1月からだったが、劇中の「ソラ」は同年10月だった。これは、意識的にずらしているのだろう。この手のやり方はこのドラマで過去にもいくつか見られた。

なお、「ハイジ」のスタッフには高畑勲、宮崎駿らドラマでモデルにされたアニメ界のレジェンドたちが参加しているのはご存知のとおりだが、奥原なつ(現在は結婚したので坂場なつ)のモデルとされる奥山玲子は参加していない。彼女が「ハイジ」と同じカルピスまんが劇場枠で参加するのは76年放送の「母をたずねて三千里」からとなる。

おそらくドラマでは、もしも奥山玲子が「ハイジ」の作画を手掛けていたらこうだったのではないか、といった、作り手側の思いも入っているのだろう。そのことは決して悪いことではないと思う。

そんななか、「ハイジ」ならぬ「ソラ」が放映された、1974年の日曜夜のテレビ風景が私の頭には浮かんできた。

74年というと、前年に巻き起こった第1次石油ショックが、それまでの高度成長に水をさした時期だ。ノストラダムスの大予言なんかが巷を騒がせていた頃でもあり、小松左京のベストセラー「日本沈没」が前年の映画化に続いてテレビドラマとなり、日曜夜8時からTBSで、つまり「ハイジ」(こっちはフジテレビ)のすぐあとの時間帯に放映され話題となった。

ちなみに、日曜夜8時というとNHK大河ドラマとぶつかるわけだが、この年の作品は「勝海舟」だった。主役は渡哲也が演じていたのだが、放送開始からまもなく病気により降板し、松方弘樹が最後まで代役を務めた。大河史上空前絶後の出来事として歴史に刻まれている。それでも平均視聴率は24.2%だったというから、テレビ黄金期の勢いを認識させられる。

また、TBSは「日本沈没」の前の時間帯、すなわち「ハイジ」の真裏でSFドラマ「猿の軍団」を放映していた。これも原作は小松左京。同局は日本SF界の巨人に日曜のゴールデンタイム1時間30分分を委ねていたことになる。全く素晴らしい時代だ。

そして、「ハイジ」の裏にはもう1本、エポックメイキングな番組が10月に産声を上げた。SFアニメの金字塔「宇宙戦艦ヤマト」である。しかし、周知のように「ヤマト」は、「ハイジ」と「猿の軍団」、さらには「減点パパ」(NHK「お笑いオンステージ」の別名)を前に苦戦を強いられ、視聴率は軒並みヒトケタ台。本来予定していた39話分は26話に短縮されてしまった。その後、熱烈なファン(主に高校、大学生が中心)の強い要望などもあり、再放送で人気に火が付き77年の劇場版公開へ進むわけだが、74年の時点でそこまで想像できた人間は「ヤマト」の生みの親である西崎義展くらいだろう。

以上がが1974年の日曜夜のテレビ風景の概要だ。なお、「ハイジ」と「ヤマト」がクロスしたこの頃から、それまでの「テレビまんが」という呼び方は「テレビアニメ」へと代わっていった。アクションやナンセンスギャグの色合いが強かった子供向けの“まんが”だけではない、中学生より上の年齢でも見応えを感じさせる質の高い、“まんが”より1ランク上の作品が、見る側だけでなく作る側からも湧き上がってきたというわけだ。

きょう(9月14日)放送分の「なつぞら」の劇中で、「ソラ」の出だしの視聴率が芳しくないという会話があった。実際のハイジは平均視聴率20%と、決して悪い数字はなかった。だとすると、劇中のこの話はヤマトの視聴率低迷をなぞっている可能性もある。数字は低いものの熱心なファンからの好印象の手紙が殺到したというその後の展開も、「ヤマト」で起こったことに近い。「これまでにない新しいものを作っているんだから、人気が出るまでには時間がかかりますよ」というセリフも、当時「ハイジ」など見向きもせずに「ヤマト」にかじりつき「地球滅亡まであと〇〇○日」というナレーションに胸踊らせていたあの頃の私の気持ちを代弁するかのようだった。

熱心なアニメファンの中には、登場人物とそのモデルとなった実際の人物との描写が離れすぎてしまっていることに不満を持っている声も少なからずあるようだ。しかし、アニメ界全体の歴史の断片を描くやり方として、このドラマの作り方は十分満足できると私は思っている。放送はあと2週を残すのみだが、最後までしっかり見届けたいと思う。


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