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『俺を変えてくれたキミへ(仮)』

2011年3月、本来ならこの作品は小さな舞台上で公開される予定でした。

しかし、ご存知のとおり日本に未曾有の大災害が起こりそれどころではなくなりこの作品は日の目を見ることはなくなりました。

ホコリを被り、SSDの奥底に眠っていたこの作品をなぜわざわざ掘り返したのか?

それは世界規模で蔓延しているこの危機を目の前に思い出し、あの自粛ムードに封殺されたこの作品を思い出したんです。あの時とは時代も流行りもまったく違うし、問題もまったく違う。でも、せっかくなら誰かの目に触れる形にしたい。この作品が家で過ごす時間に潤いをもたらせたらなぁ、と公開する決断をしました。

あの頃の自分を変えたくないので、舞台用の台本をそのまま載せます。読み難いと思うし、めちゃんこ長いです。その点はご容赦くださいませ。

前置きが長くなったけど、どうか最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです。

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翔悟、机に向かって手紙を書く。

翔悟  あの時、キミと出会えたから今こうして俺は笑って生きていられる。
    キミが俺を愛してくれて、俺はどれだけ価値のあるものになっただろう。
    言葉だけじゃ伝えきれない。月並みかもしれないけど、キミを愛してる。
    本当に本当にありがとう・・・・・

手紙に封をしながらドアの外に出る。

暗転/場面転換

翔悟  マジで今日は全然引っ掛けれねぇーな。
    今日はもう帰って風呂でも入って寝るかな。

半笑いでため息をつき、ポケットのタバコを探りながら歩き出す。

タバコに火をつけようとしていると、鞄の中にある何かを探す女性を見つける。
  
  女性、携帯を見つけ惠実に電話を掛ける。

玲奈  もしもし惠実?
    ちょっと待ち合わせに遅れるかもだから先にお店に入ってて。
    うん、うん。
    ごめんね。うん。すぐ着くと思うから。

玲奈、電話を切り鞄に携帯を入れようとするも下に落とす。
気づかない。駅の方に小走りで向かう。

翔悟、落ちた携帯を拾い、声を掛ける。

翔悟  携帯落としましたよ。

玲奈、振り返らず歩き続ける。

翔悟  あのー、携帯落としましたよ。

翔悟、玲奈を小走りで追いかけ、肩をたたく。

玲奈、振り返ると目の前に携帯が有り、驚いた様子で。

玲奈  っえ? あっ、私のだ。すみません、本当にありがとうございます・・・

翔悟、携帯を受け取る玲奈に一瞬見とれる。

玲奈  良かった。拾っていただいて。本当にありがとうございます。
    お礼をしたいんですけど、今、ちょっと急いでて、あの、えっと・・・
    そうだ、番号を教えますので、連絡ください。
    近いうちに必ずお礼しますから。

玲奈、翔悟にメモを渡して走って駅の方に向かう。

翔悟、呆気にとられて呆然と紙を持ったまま玲奈の後ろ姿を見つめる。

暗転/場面転換

上手照明イン

翔悟、会社の喫煙所で拓朗と話す。

拓朗  なぁ、昨日も街に行ったの?

翔悟  行ったよ。恒例行事だろ。

拓朗  好きだねー、そんなしょっちゅうで飽きないわけ?

翔悟  恒例行事だからね。趣味みたいなもんだから。

拓朗  趣味ねぇ。もう履歴書の欄にナンパって書いたら?

翔悟  そんなの採用すんの、ティッシュ配りのバイトぐらいだろ。

拓朗  ティッシュ配りでも無理だろうな。配った相手をナンパしたりしてな。

翔悟  ははは、一瞬でアレだな、アレ、昇進だな。

拓朗  社長、一杯おごってくれてもいいぜ。

翔悟  たくちゃんに出す金はねーよ。
    それなら女子に貢ぐね。いや、俺はそんなタイプじゃねーな。
    女に貢とかマジでねーわ。

拓朗  ちげーねー。

二人でへらへら笑う。唐突に拓朗が切り出す。

拓朗  でっ、良い子見つけたの?

翔悟  いやぁ、全然ダメ。マジで昨日はダメダメだったね。

拓朗  マジか、まぁ、しょーごでもそんな日があんだな。

翔悟  あっ、でも女の子の番号はゲットしたぜ。

拓朗  全然ダメって言ったじゃん。やっぱしょーごはちがうな。
    でっ、どんな子?かわいいの?やっぱギャル系?
    てか、どうやってゲットしたわけ?

翔悟、矢継ぎ早な質問責めにいつものが来たと思いながらニヤける。

拓朗『ふー』っと息をはいてニヤけ顔の翔悟をうらやましそうに見つめる。

拓朗  勿体ぶんなよ。良いだろ?教えろよー。

翔悟、タバコに火を点けながら話しだす。

翔悟  いやぁー、どっかのドラマじゃないんだけど、
    全然収穫がねーからさ、タバコでも吸ってから帰ろうと思ったの、
    そしたら、ケータイを落とした女の子が居たわけよ。

拓朗  それで?

翔悟  いやー、全然気づかなくてさ。急いでたんだろうな。
    んで、俺が拾って渡したわけよ。

拓朗  ふーん、で?
    もしかして『お礼がしたいんで電話してください』なんて言われたのか?

拓朗、笑いながら両手を合わせて目をパチクリさせる。

翔悟  そのまさかだよ。
    番号書いた紙を渡してきて、駅の方に消えてったんだよ。

拓朗、訝し気に翔悟の顔を見る。

拓朗  お前その子どうすんの?話だけ聞いた感じだとギャルじゃないよな?

翔悟  そうそう、清楚なおじょーさまーって感じだったな。

拓朗  だろー?歳は?

翔悟  大学生くらいかなぁ?

拓朗  全然年下じゃん、てか、しょーごのタイプじゃぁないよな?
    てかさ、もう一回訊くけど、その子どうすんの?

翔悟  どーもしねぇよ。全然タイプじゃねーし。

翔悟、少し顔を曇らせてタバコの火を消して喫煙所を出る。

上手照明アウト 下手照明イン

ほぼ同時刻大学のカフェテラスにて

惠実  昨日のカフェ、雰囲気良かったよねぇ。
    今度また新しいトコ見つけよ。
    あっ、でも今度は遅刻は無しにしてよね。

玲奈  昨日は本当にごめんね。バイトが長引いちゃって。本当にごめん。
    すぐ連絡しようとしたんだけど、携帯見つかんなくて。
    電話したあと鞄に入れたつもりが落としちゃ・・・

惠実、玲奈の話しを遮るように。

惠実  冗談よ。冗談。昨日も言ったでしょ。
    全然気にしてないし。そもそも三十分くらいなら遅刻になんないって。
    玲奈は相手の言葉を真に受け過ぎなんだよ。

玲奈、申し訳なさそうに顔をあげて。

玲奈  ごめんね。そうよね。もっと相手の考えてることを察しよう・・・

惠実、玲奈の言葉を遮るように。

惠実  玲奈は気にし過ぎなの。そんな暗い玲奈は嫌いだよ。
    笑ってる玲奈の方が、私は好きだな。

玲奈  ありがとう。惠実はいっつも私に優しいね。

惠実  玲奈は特別なの。で、携帯落としたの?
    昨日は言ってなかったじゃん。どうしたの?

玲奈  わたしね、全然気づかなかったんだけど、
    すぐに拾ってくれた人がいたの。

惠実  へぇー、良かったじゃん。

惠実、考え事をするように空を見る。
少し間をおいて。玲奈のほうに向き直る。

惠実  まさか、お礼がしたいとか言って連絡先渡してないよね?

玲奈、驚いたように惠実を見る。

玲奈  よくわかったね。そうそう、電話番号書いたメモを渡したの。

惠実  玲奈。そこが玲奈のとっても良いところだけど、
    見ず知らずの人に連絡先を教えるって、あぶないよ。
    その人どんな人だったの?

玲奈  うーんとねぇ、かっこいい感じでぇ、髪は長くて・・・
    かっこいい銀色の指輪とか、ネックレスも着けててね。
    あっ、それから、ジーンズのポッケから鎖がじゃらじゃらしてた。

惠実、頭を抱えて、玲奈をまっすぐ見る。

惠実  ・・・。玲奈、その人多分、結構遊んでいる人だと思うよ。
    お礼も大切だけど連絡先を渡しても良い相手かどうか考えないと。

玲奈  そっかぁ。でも、優しそうな人だったよ。
    それに見掛けだけで人を判断するのはイケナイ事なんだよ。

惠実、また始まったという表情で。

惠実  まぁ、渡しちゃったのはしょうがないか。
    それよりさぁ、向こうの連絡先は知ってるの?

玲奈  あっ、わたし、良く考えたら、自分の番号しか教えてない。どうしよう。

惠実  そんなことだろうと思った。その人からなにか連絡あったの?

玲奈  ううん。無かったよ。きっと忙しいんだと思う。
    連絡が来たらちゃんとお礼をしなきゃだね。

惠実  わかった。もうお礼をするなとは言わない。
    けど、もしも二人で会うことになったらわたしも行くから。
    必ず連絡して、約束だからね。絶対よ。

玲奈  わかった。そうなったら絶対に惠実に電話するね。

ふたりで『ゆびきり』をする。

暗転/場面転換

翔悟、デスクに向かって携帯をぼんやり眺めている。

正義  おい、佐久間、おーい。呼んでんだから返事しろよな。

翔悟、正義の呼びかけに気づかない。

拓朗、翔悟の腰をたたく。

翔悟  ・・・? なんだよ。たくちゃん。

拓朗、正義のデスクを指差しながら。

拓朗  あれあれ、まーくんがご立腹だぞ。

翔悟、気怠そうに正義のデスク前まで行く。

翔悟  なんすか?

正義  佐久間、お前、携帯ばっかり見てんじゃないよ。
    そんなんだから、こんな簡単な見積もり書も間違えんだよ。

正義、書類を翔悟に突き出す。

翔悟、無言で受け取り、自分のデスクに戻ろうとする。

正義  すみませんの一言も言えないのか?
    佐久間、お前本当にやる気ないよな。
    もう良いよ。帰れ。お前みたいなやつとは一緒に仕事したくない。

翔悟、正義に背を向けたまま。

翔悟  すんませんでした。

翔悟、書類を自分のデスクに投げて鞄を持って部屋から出る。

正義、拓朗のところまで行く。

正義  あいつはやれば出来るはずなのに、なんでいつもああなんだろうな。

拓朗  彼はまだ若いんですよ。
    マジに生きる事がかっこわるいと思ってるんじゃないですか?

正義  ふっ。手塚、あいつの事しっかり面倒見てやってくれよな。

拓朗  もちろんですよ。彼はわたしの親友ですから。
    もう関わるなって言われても最期まで彼の味方でいつづけますよ。

暗転/場面転換

翔悟、気がつくと玲奈と出会った駅前に来ている。

翔悟  キャラじゃねーよな。やっぱ、電話すんのはやめよう。
    家に帰って、風呂でも入って全部忘れよう。
    あの子の事も、仕事の事も。

翔悟、自分に言い聞かせるようにつぶやいて家路に着こうとする。

玲奈、駅に向かう途中で翔悟を見かけ、声を掛けようと近づく。

玲奈  あのー、昨日携帯を拾ってくれた方ですよね?

翔悟、振り返ると、玲奈が居る事に驚きながら。

翔悟  あぁ、昨日の。こんばんは。連絡しようとは思って・・・

玲奈、翔悟の言葉を聞き終える前にしゃべりだす。

玲奈  やっぱりそうだ。本当に昨日はありがとうございました。
    それで、あの、わたし昨日、自分の連絡先を教えたら満足しちゃって、
    その、自分の名前もちゃんとお教え出来ていないし、
    あなたの事はなんにも聞かずに、立ち去ってしまいました。
    本当にごめんなさい。
    改めてなんですけど、ご連絡先をお伺いしても良いですか?

翔悟  別に構わないんですけど、お礼なんてわざわざいいですよ。
    大した事をした訳じゃないですし。

玲奈、電話番号を準備する。

玲奈  いえ、わたしの気が治まらないんで。お礼、させていただけませんか?

翔悟、渋々携帯を出す。

翔悟  わかりました。じゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます。

玲奈  良かった。いつ頃ならご都合が良いですか?

翔悟  基本的にはいつでも大丈夫ですよ。

玲奈  じゃぁ、お互いの都合のいい日を見つけましょう。
    今晩連絡しても大丈夫ですか?

翔悟  はい、今晩なら空いてるんで大丈夫ですよ。

玲奈  あっ、お引き止めしてすみませんでした。
    それでは、また改めて今晩、連絡しますね。失礼します。

玲奈、会釈をして街の中に消えて行く。

翔悟、玲奈の後ろ姿をただただ見送る。

暗転/場面転換

上手照明イン

翔悟、ベットの上で携帯を握りしめている。

翔悟  玲奈さんか、かわいい名前だな。そろそろ電話くるかな?
    ・・・? 俺、こんなキャラだったっけ?
    会うまでは忘れようと思ってたのに、
    なんでこんなにワクワクしてんだよ。

下手照明イン

玲奈、椅子に座り、電話を掛ける。

翔悟、手の中の携帯が鳴り、焦る。

翔悟  すぐ出たらなんか、待ってましたって感じになるか。
    よし、五コール目で出よう。

翔悟、携帯の受話ボタンに指をスタンバイし五コール目で電話に出る。

翔悟  もしもし。

玲奈  あっ、もしもし、佐久間さんですか?

翔悟  はい、そうです。佐久間です。

玲奈  こんばんは。あの、今お時間は大丈夫ですか?

翔悟  こんばんは。全然大丈夫ですよ。

玲奈  良かったー。あの、本当に携帯拾って頂いてありがとうございます。

翔悟  そんな、たまたま目に入ったから。ただそれだけのことなんで。

玲奈  たまたまでもうれしかったです。ありがとうございました。

翔悟  いえいえ。どういたしまして。

玲奈  あの、それで、お礼の事なんですけど、
    何かプレゼントをと思ってるんです。
    なので、今度一緒に佐久間さんの欲しいものを選びに行きませんか?

翔悟  え? 一緒に? る、流川さんと?

玲奈  嫌ですか? やっぱり自分で選んだものをお渡しした方が良いですよね。

翔悟  いやいや、そうじゃなくて、すごくうれしいですよ。
    でも、良いんですか? 俺みたいなのと一緒に歩いて。

玲奈  何を仰るんですか。佐久間さんは恩人ですよ。
    受けたご恩はお返ししないと。
    それで、いつ頃でしたらご都合が良いですか?

翔悟  そうですねぇ・・・。流川さんは学生さんでよかったですかね?

玲奈  はい、大学生ですよ。

翔悟  だったら、来週の土曜日か日曜日なんてどうでしょう?

玲奈  はい、土・日だったらうれしいですね。お言葉に甘えても良いですか?

翔悟  俺も基本、土・日が休みなんで全然大丈夫ですよ。
    じゃぁ、来週の土曜日にしても良いですか?
     時間は昼過ぎが良いですかね?

玲奈  はい。昼過ぎがうれしいです。
    では、細かい時間はまた後日メールでやりとりしましょう。

翔悟  わかりました。では、おやすみなさい。

玲奈  はい。良い夢が見れると良いですね。おやすみなさい。

翔悟、携帯を持ったままガッツポーズをする。

玲奈、携帯を置いて、部屋を出る。

暗転/場面転換

上手照明オン

翔悟、会社喫煙室で拓朗と話している。

拓朗  しょーご、マジで昨日のはやばかったな。まーくんブチ切れてたぜ。

翔悟  知らねーよ。別に仕事なんてどっちでも良いし。

拓朗  しょーご、なんでそんなまーくんが嫌いなわけよ?
    結構絡みやすいぜ。みんな慕ってるみたいだしな。

翔悟  たくちゃんには関係ねーよ。まーくんが嫌いな訳でもねーし。

翔悟、聞こえるか聞こえないかの大きさで。

翔悟  仕事だって嫌いじゃないよ。ただ、熱くなれないだけなんだ。

拓朗  へ? しょーごなんか言った?

翔悟  何も言ってないし。

翔悟、タバコに火を点けて天井を見上げる。

拓朗  そういえば、しょーごさぁ、昨日話してた子どうしたの?

翔悟  どうもしねーし、それもたくちゃんには関係ないだろ。

拓朗  めずらしいな。しょーごが女子の話をしたがらないなんて。
    なになに、もしかして、もう手出しっちゃったわけ?

翔悟  ふー、たくちゃんごめん、今日はそんな気分じゃないんだわ。
    俺、先にオフィス帰っとくわぁ。

翔悟、半分以上残ったタバコの火を消して外に出る。

拓朗、翔悟の後ろ姿を見送りながらつぶやく。

拓朗  ふーん。しょーごのやつ、今回は軟派じゃないみたいだな。

上手照明アウト 下手照明イン

同時刻大学のカフェテラスにて

惠実  ホント、大学ってつまんない。講義も全然興味わか無いんだよね。

玲奈  またそんな事言って。惠実ほとんど寝てるじゃない?

惠実  だって玲奈が一緒だったら寝てても問題無いでしょ。

玲奈  もう、わたしを当てにするのはダメだよ。自分でしないと。

惠実  とかなんとか言って、教えてくれるんでしょ?

玲奈  ダーメ。もう教えない。次の講義起きてたらどうするか考えよっかなぁ。

惠実  えー。わかったよー。

玲奈、突然思い出したように。

玲奈  ところでさ、昨日あの人と連絡とったんだ。

惠実  へー。・・・? えっ? 連絡着たの? なんて言ってきたの?

玲奈  んとねー、昨日の夜にわたしから連絡したんだ。
    お礼をしたいって言ったら、土曜日なんてどうですか?って言われて。
    学生なんで土曜日が良いですって言ったら、じゃぁ、そうしましょって。

惠実  突っ込みどころが満載で、なんて言って良いかわかんないや。
    まぁ、まずは、一つずつ整理させて。まず土曜日に会うのね?

玲奈  うん。惠実も来てくれるんでしょ? 約束したもんね。

惠実  そうね、何時にどこ? それよりどうやって向こうの連絡先を知ったの?

玲奈  あのね、どこかのドラマじゃないんだけど・・・

暗転/場面転換

土曜日の昼過ぎ、駅前にて

翔悟、待ち合わせ場所でそわそわしている。

翔悟  やべー、めっちゃ早いじゃん。あと・・・四十分くらいあるな。
    どーすっかなぁ、どっかで時間つぶすか・・・
    ていうか、気合い入れすぎたか。最近、キャラじゃない事してんなぁ。
    俺は待つタイプじゃなくって待たすタイプなんだけどなぁ。

翔悟、腕時計を見る。

翔悟  うだうだ考えてたらもう五分たったか・・・ 

翔悟、喫煙所の方を見つめながら

    タバコでも・・・いや、ニオイがつくからやめとこう。

翔悟、再び時計を見る。

翔悟  なんか緊張してきたな。いつもどおり、いつもどおりでいこう。
    いや、そもそもタイプじゃねーし。どうこうなりたいわけでも無いしな。

翔悟、時計を見る。

玲奈、時計を見ている翔悟の前に立つ。

玲奈  お早いんですね。もしかして、待たせちゃいましたか?

翔悟、時計から目を外して前を向く。あまりの近さに驚く。

翔悟  !? こ、こんにちは。いや、あの、全然待ってないですよ。
    マジで、今来たとこなんで、本当にあの・・・

玲奈  よかった。それで、あの、プレゼント買ったあとなんですけど・・・
    この前見つけたお洒落なカフェがあるんですけど、
    わたしと一緒に行って頂けませんか?

翔悟  良いですけど、良いんですか? 俺と一緒に居るのとか。

玲奈  ?? あっ、すみません。彼女さんとかいらっしゃったら、
    そうですよね、勘違いされちゃいますよね。

翔悟  いや、彼女はいないですよ。
    それは俺の方で、流川さんの彼氏さんに恨まれないですかねぇ?

玲奈  ふふふ。わたしも彼氏はいないんですよ。お互い気兼ね無いですね。

翔悟  そうですね。じゃぁ、行きましょうか。

玲奈  はい。何が欲しいですか? 欲しいもの探ししましょ。

暗転/場面転換

お礼の品を買い終え、カフェに移動する。

惠実、先にカフェに入って二人を待つ。

惠実  どんな奴が玲奈をたぶらかしてんだよ。
    これ以上、玲奈が関わろうとしないように仕向けてやるんだから。

惠実、カフェに入ってくる二人を見つけて、玲奈に手招きする。

玲奈  佐久間さん、友達が来てるみたいなんで、ちょっと良いですか?

翔悟  ああ、良いですよ。じゃぁ、あっちの席に居ますね。

玲奈  ホント、ごめんなさい。すぐ行きますね。

玲奈、惠実の座っている席に向かう。

玲奈  約束通り、佐久間さん連れてきたよ。
    でも、なんか隠し事してるみたいで嫌だよ。

惠実  いいの、いいの。あの人、こっちに呼んできなよ。
    わたしがどんな奴か見極めてあげるからさ。

玲奈  わかったよ。でも、わたしの恩人なんだから、失礼なことはやめてよ。

惠実  わかってるって。はやくはやく。

玲奈、翔悟の席に向かう。

玲奈  お待たせしてごめんなさい。
    あのー、えっと、その、友達が・・・・
    友達が一緒にどうですかって。お連れの方もよかったらって。

翔悟、下を向き少し考えて顔をあげる。

翔悟  いいですよ。せっかくですし。全然大丈夫です。

玲奈  すみません、わがまま聞いてもらっちゃって、ありがとうございます。

翔悟  いえいえ、人数が多い方が楽しいだろうし。

二人で惠実の席に向かう。
恵実、椅子に座ったまま。冷たく。

惠実  こんにちは。はじめまして、美里 惠実と申します。

翔悟、椅子に座る前に。

翔悟  はじめまして、俺、佐久間 翔悟って言います。

翔悟、椅子に座りながら。

翔悟  あのー、美里さんは、流川さんの大学のお友達なんですか?

惠実  そうなんですよ。学科まで一緒だから講義もほとんど一緒で。

玲奈  惠実は寝てばっかりだけどね。

惠実  そんなことないよ。ちゃんと起きてるでしょ。

玲奈  それはこの前わたしがもうノート見せないって言ったからじゃない。

翔悟、二人の会話のリズムに入れずきょろきょろする。

惠実  ちがうよ。もともとノートだって課題だって自分でやってたし。

玲奈  昨日、『課題終わんない、助けてー』って、言ってたのは誰だっけ?

惠実  わたしです・・・

玲奈  結局、惠実の課題を手伝ってくれたのは誰だったっけ?

惠実  玲奈様でございます。

玲奈  うむ、素直でよろしい。

玲奈、ふと翔悟を見る。

玲奈  あっ、すみません。二人で盛り上がっちゃって。

翔悟、頬を掻きながら。

翔悟  いやー、ガールズトークだなぁと思って。
    しかも、若いからテンポもはやくって。いやー、俺、おじさんだな。

惠実  おじさんって自分で仰ってますけど、ファッションは若いんですね。
    そういえば、玲奈の携帯拾った日はお仕事ってどうされてたんですか?

翔悟  それは、ほめられてるって思って良いのかなぁ。
    まぁ、いいや。仕事ね、俺の仕事って、基本九時五時なんですよ。

惠実  ふーん。街には、何をしに行かれたんですか?

翔悟  いや、その・・ 買い物ですよ。ちょっと、欲しい物があって。
    二人もたまにない? 急にあれ欲しいなって思うこととか。ありますよね?

玲奈  あっ、わたしも、たまに無性に買い物したくなります。

惠実  ちなみに何を買ったんですか?

翔悟、惠実の突っ込んだ質問に慌てる。

翔悟   えーっと、多分言っても分かんないかもな。
    アレなんですよ。専門性が高いものなんで。

玲奈  そうなんですか。仕事で使うんですか?

翔悟  まー、そんなところかな。

惠実  どんな仕事されてるんですか?

翔悟  うーん。簡単に言えば、営業のサラリーマンってところかな。

惠実  佐久間さんって、モテそうですよね。ナンパとかってしたことあります?

翔悟  いやいや、俺って全然モテないんですよ。
    ナンパなんかする勇気もビジュアルも俺には無いですし。

惠実  ふーん。遊んでそうに見えますけどね。

翔悟  そんなことないですよ。普通ですって。

翔悟、時計を見てあわてたフリをして。

翔悟  やっべ。もうこんな時間だ。すみません。
    俺、そろそろ帰らないと。ここは俺出しときますから。

翔悟、伝票を持って席を立つ。

翔悟  美里さん、またご縁が有ったら、お会いできたら良いですね。では。

暗転/場面転換

上手照明イン

翔悟、ベットで横になっている。

翔悟  美里 惠実かぁ、あの子鋭いな。気をつけないと。 ・・・?
    いや、何に?別に玲奈ちゃんとどうにかなろうなんて・・・・

携帯が鳴る。(玲奈用の着信音設定済み)

翔悟、飛び起きて机の上の携帯を取る。

翔悟  玲奈ちゃんからだ。ん? メールか。ん?なになに・・・

玲奈に照明イン

玲奈からのメール本文。

玲奈  今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。
    でも、カフェで友達が失礼な事を言ってしまい。本当にごめんなさい。
    佐久間さんとはもっとお話ししたいなって思ってたんですけど・・・
    今度また電話お掛けしても良いですか? お返事待ってます。

玲奈の照明アウト

翔悟、直ぐに返事をしようとする。

翔悟  今日は、俺も、楽しかったです。んー。友達の事は触れるべきか・・・
    とりあえず、いやいや見た目こんなんなんで、くらい書いとくか。
    電話かぁ。どうしようかな。正直、また会いたいな。

翔悟、携帯を持ったままベットにもぐる。

翔悟  やべーな、俺、あんなタイプの子、全然興味無かったのにな。
    俺はあんな子好きになるキャラじゃねーしよ・・・
    頭から玲奈ちゃんの声が、顔が離れねーな。マジか。俺、マジか。

翔悟、返信をしようと本文を作りは消しを繰り返す。

翔悟  いつもなら、返事なんて三分なのにな。何やってんだろ。

翔悟、返事を考えながら寝落ちする。

暗転/場面転換

翔悟の部屋、子どもが廊下で騒ぐ声が聞こえ起きる。

翔悟  むーん。うるさいなぁ。何時だ? あれ、ケータイ?

手に握りしめたままの携帯を不思議そうに見る。

翔悟  なんでケータイ握ってんだろ。
    まぁ、いいや。とりあえず顔でも洗おっと。

のそのそとベットからおき、洗面所に行きかけであわてて戻る。

翔悟  やっべ、玲奈ちゃんに返事したっけ。あぁ、やっぱしてねーか。
    どーしよ。電話か? いや、いきなりは・・・
    『昨日は返事できなくてごめんなさい』みたいなメールにするか・・・
    なんで迷ってんだ。中学生じゃあるまいし。やっぱ、メールだな。

翔悟、メールを打ち始める。

下手照明イン

玲奈、出かける準備をしている。着信音が鳴る。

玲奈  ん? メール? あっ、佐久間さんからだ。えっと・・・

翔悟からのメール本文。

翔悟  返事遅くなってすみません。昨日は俺もすごく楽しかったです。
    お友達に言われた事は、よく言われるんで全然大丈夫ですよ。
    電話やメールは俺もしたいと思ってました。いいですかね?

玲奈、うれしそうに一旦携帯を閉じる。

玲奈  惠実はあんな風に言うけど、やっぱり誠実な人だよ、佐久間さんは。
    今度会ったら、もっと佐久間さんの事、色々訊いてみたいな。

玲奈と翔悟、同時に携帯を開き、電話を掛ける。
同時に話はじめる。

玲奈  もしもし、惠実?
    あのね、ちょっと相談したい事があるんだけど。

翔悟  もしもし、たくちゃん?
    あのさ、ちょっと、聞きたい事があるんだけど。

暗転/場面転換

上手照明イン

拓朗、会社の喫煙室でにやにやしながらタバコを吹かす。

翔悟、喫煙室に入ってくる。

拓朗  よっ、待ってたぜ、しょーごちゃん。昨日の電話はさすがにフいたぜ。

翔悟  たくちゃん、アレは笑い過ぎだ。
    俺だって自分でもおかしいと思ってんだぜ。

拓朗  わりー、わりー。まぁ、あんまりにもガラじゃない事を言うからさ。
    んで、どうしたいワケ? ん?
    わざわざ、しょーごが俺に電話するなんて今までなかっただろ?

翔悟  いや、あのさ、昨日も言ったんだけどさ、
    正直どうしたいかとか分かんないんだよね。
    キャラじゃないんだけどさ、ただ会いたいんだよね。話がしたいんだ。

拓朗  ふーん。あの子、えーっと、玲奈ちゃんだっけ?
    そうとうハマってんだな。
    今まで出会わなかったワケ? 『死ぬほどトゥキですー』って子は?

翔悟  大昔な。もうこいつしか居ないって思った子がいたんだけど、
    あっさり浮気されてさ。女なんてこんなもんかって思ったんだよね。
    そしたら真面目に付き合うなんて馬鹿らしくなってさ。

拓朗  それで、チャラ男になったワケか。
    でもな、俺はどんなしょーごでも好きだぜ。あっ、ラブじゃねーよ。

翔悟  わかってるよ。ありがとな、たくちゃん。

拓朗  へへ、せっかくマジになれる子が見つかったんなら、
    やる事は一つしか無いだろ? しょーご、お前ほんとはわかってんだろ?

翔悟  いや、まだ好きとかそんな・・・

拓朗、翔悟が言い切る前に。

拓朗  言い訳するなよ。もっと正直になれよ。
    キャラじゃないとか、今はまだとか、
    そんなこと言ってっとタイミング逃しちまうぞ。いいのか? それで。

翔悟、声を荒げる拓朗に驚く。

翔悟  ・・・え?

拓朗  すまん、すまん。あのさ、決めるのはしょーごなんだ。
    ただな、今このときにマジになんないと絶対に後悔するぜ。
    反省はまだやり直せる。でも、後悔はどうしようもないだろ?
    俺を言い訳にしても良いんだぜ。今なんだよ、今しかないだろ? なぁ?

翔悟  だな。俺、今日約束を取り付けるよ。
    んで、素直に今思っている事、伝えるよ。

拓朗  そうそう、悔いは残すなよ。マジになれ。応援はするぜ。

翔悟  たくちゃん、ありがとよ。
    でも、あのさ、マジになれなんてて久々に聞いたぜ。

拓朗  しょーがないだろ。こう見えてもしょーごより2年も年取ってんだぜ。

翔悟  最長老、勉強させてもらいます。

拓朗  そこまでは年とってねーよ。まぁ、がんばってくださいな。

上手照明アウト 下手照明イン

ほぼ同時刻、大学カフェテラスにて

惠実  玲奈、昨日の電話のことだけど、本気なの?

玲奈  うん。佐久間さんと話してると楽しいんだ。

惠実  んー。まぁ、玲奈がそうしたいんだったら別に反対はしないけどさぁ。
    ただね、わたしは玲奈と佐久間さんが合うとは思えないんだ。

玲奈  心配してくれてありがとう。でもね、わたし思うの。
    佐久間さんって優しくって誠実な人なんじゃないかって。
    ただのわたしの直感なんだけどね。

惠実  わかった。わかりました。もう反対しない。
    そのかわり、絶対になんかあったら相談しなさいよ。
    良い? 約束だからね。

玲奈  ありがとう。惠実はなんだかんだでわかってくれるから大好き。

惠実  わたし、そんな趣味ないよ。

玲奈  わかってるよ。もう、そういう意味じゃないんだから。

惠実  はいはい、ムキになんないの。で、次はいつ会うの?
    愛しの佐久間さんとは次の約束はしてないの?

玲奈  まだだよ。
    それに、佐久間さんがわたしの事、どう思ってるかわからないし。

惠実  じゃぁ、まずは、デートの約束をしないとね。

玲奈  えー、わたしからは無理だよ。

惠実  何が『えー』っよ。お礼がしたいとか言って、デートに誘ったじゃない。

玲奈  あれは違うよ。
    あれはデートじゃなくて、ただお礼がしたかっただけだもん。
    あっ、でも、あれって普通に考えたらデートだったのかも。どうしよぉ。

玲奈、恥ずかしさで顔を隠し、下を向く。

惠実  玲奈って本当に不思議な子だよね。
    あとね、もし佐久間さんが玲奈に興味が無かったら、
    わざわざあの日、あの場所には絶対に来なかったと思うよ。
    これはあくまでわたしの勝手な予想だけど、
    佐久間さん、きっと、今頃は玲奈の事ばっか考えてると思うよ。

玲奈  えー、そんなわけないよ。だって、この前会ったばっかりなんだよ?

惠実  わたしにはわかるの。玲奈は佐久間さんのこと気になってるんでしょ?

玲奈  うん。そうなんだけどさ。

惠実  そうなんだけどなに? なんか気になるの?

玲奈  どうやって、誘えば良いかわからなくて。

惠実  なにそれ、簡単じゃない。『おいしそうなお店見つけた』とか、
    『いい雰囲気のカフェがある』とかさ、わたしを誘う感じで良いんだよ。

玲奈  そうなの? めんどくさいとか思われない?

惠実  大丈夫だって、わたしの感覚って男の人に近いから、
    わたしが食いつきそうな誘い方をしたら良いの。
    全部が全部じゃないけどね。

玲奈  なるほど、じゃぁ、惠実が今まで
    『行かない』って言った事はNGなんだね。
    あっ、でも、惠実って誘ったら絶対来るよね? 断られた事ないような。

惠実  あはははは、そうだった。玲奈に誘われたら断れないんだよねぇ。

玲奈  やっぱり。でも、参考になったよ。ありがとう。
    今夜、メールしてみる。惠実のアドバイスを活かしてみるね。

暗転/場面転換

上手・下手照明イン

翔悟、自室で机に向かいメールを打っている。

翔悟  ちょっとお話したい事があるので、電話しても良いですか?
    都合がいい時間を教えて頂けたら、こちらから改めて連絡します。
    っと、こんな感じかな。

玲奈、電話を掛けようとしているところにメールがくる。

玲奈  あっ、佐久間さんからだ。
    えーと、話したいこと?なんだろう。とりあえず、返事しなきゃ。

玲奈、メールの返事を打つ。

玲奈  こんばんは。今、佐久間さんに電話を掛けようと思ってたんですよ。
    凄い偶然ですよね。あっ、それで、話したいことって何ですか?

翔悟  あっ、もう返事きた。
    はやいな、もしかして携帯握りしめてたのか?
    えーと、マジか、電話、電話を。

翔悟、発信する前に大きく深呼吸する。

翔悟  あっ、もしもし、こんばんは。今、時間大丈夫ですか?

玲奈  こんばんは。大丈夫ですよ、電話しようと思ってたくらいですから。

翔悟  ですよね。ははは、そりゃそうだ。

玲奈  ふふふ。ところで、ご用件をお伺いしても良いですか?

翔悟  ご用件ってほどでも無いんですけど、
    あのー、そのですね、ホント空いてたらで良いんですけど、
    もし良かったら次の土曜日か日曜日にでもお食事に行きませんか?

玲奈  お誘いありがとうございます。えーと、土曜か日曜ですよね。
    ちょっと予定を見ますね。

翔悟  あっ、はい。ホント空いてたらで良いんで。

玲奈、手帳などはいっさい開かず。

玲奈  そうですねぇ。・・・大丈夫ですよ。
    日曜日はアルバイトがあるので、土曜日でしたら。

翔悟  あっ、はい。土曜日ですね。わかりました。お時間は?

玲奈  土曜日なら、いつからでも大丈夫ですよ。
    あっでも、わたし朝があまり強い方ではないのでお昼以降が嬉しいです。

翔悟  そうなんですね。わかりました。
    では、十五時、十六時あたりにしましょうか。

玲奈  それ位の時間がうれしいです。

翔悟  食事まではどうしましょうか? 映画とかで良いですかね?

玲奈  佐久間さんにお任せします。楽しみは取っておきたいタイプなんで。

翔悟  なるほど。
    じゃぁ、流川さんのご期待に添えるかどうかわからないですが、
    自分なりのプランを考えておきますよ。

玲奈  ありがとうございます。
    どんな一日になるのか、佐久間さんにお会いできる日が楽しみです。

翔悟  あんまり期待しないでくださいよ。期待値が高過ぎるとアレなんで。

玲奈  アレなんですね。おもしろいですね。

翔悟  いえいえ、オレは全然面白い事が言えるタイプじゃないですよ。

玲奈  佐久間さんってわたしが今まで出会ってきたどんな人にも似てなくて、
    ホント話してるといつも新鮮な感覚があるんです。

翔悟  本当ですか? 嘘でもうれしいです。
    あっ、で、オレの用件は以上なんですけど、    
    流川さん、オレに電話掛けよとされてたんですよね? 何かありましたか?

玲奈  いえ、あの、大した事じゃないんです。お気になさらないでください。

翔悟  そうですか。では、詳しい時間を決めたらまた連絡します。
    長々と喋ってしまって、すみませんでした。

玲奈  いえ、こちらこそ、ごめんなさい。

翔悟  いえいえ、では、そろそろ失礼します。おやすみなさい。

玲奈  はい。今日は、お電話頂きありがとうございました。おやすみなさい。

翔悟、電話を切り、歓喜の声をあげる。

玲奈、電話を一旦机に置き、微笑む。

翔悟  玲奈ちゃんかわいいな。オレ、マジでがんばろ。プランニングせねば。

玲奈  佐久間さん・・・。もっと知りたいな。

暗転/場面転換

上手照明イン

翔悟、会社喫煙室にて。タバコに火を点けながら。

翔悟  仕事ってマジでやると結構疲れんだな。
    まぁ、今まで自分がやった仕事の尻拭いなんだけど。

翔悟、天井を見つめる。

拓朗、喫煙室に入ってくる。

拓朗  よっ、元気にやってっか?

翔悟  あぁ、たくちゃんか。全然元気じゃねーよ。仕事ってこんな疲れんだな。
    もう、昼過ぎから心がポッキリしそうだったし。

拓朗  何言ってんだよ。昔、教えてやっただろ? 忘れたのかよ。

翔悟  なんだよ。昔って、たくちゃんは、
    『オレも最近ここに入ったばっかだから知らないんだよね』とか、
    『オレってさ、新人みたいなもんだから知らないんだよね』とか、
    そんなことばっかしか言ってなかったじゃん。

拓朗  完全に忘れてんな。言われたら絶対に思い出すぜ。
    『やるも、やらないも、キミ次第だけど、これだけは忘れちゃいけない。
    世界はキミのやった分しか評価しないんだ。
    最底辺でいいなら、何もしなくていい。
    ただ、てっぺん取りたいなら死ぬ気でやれよ。』
    どう? 憶えてない?

翔悟  そんな事言ってたっけ?
    たくちゃんには『がんばるな』ってよく言われてた気がするけど。

拓朗  しょーごはまだまだ若いな。『がんばる』のは当たり前だろ。
    『がんばる』けど失敗しました。これで何か業績が上がるか?
    確かに経過も大切だ。でも、それ以上に結果が大切なんだよ。

翔悟  なんか、難しい話だな。
    つまり、たくちゃんの『がんばるな』はどういう意味なんだよ。

拓朗  はー、少しはこういうことにも頭を回す練習をした方が良いぞ。
    わかりやすくいうなら、ナンパを一生懸命しました。
    Aは絶対声掛けてもダメな女、Bは声掛けたら付いてきそうな女。
    ナンパが成功したらうれしいのは?

翔悟  どっちも女だからなぁ。でも、Aだろうだな。

拓朗  そうだな。じゃぁ、今日の相手を探してたとして、
    絶対に一人が嫌だとしたら、しょーごならどっちに声を掛ける?

翔悟  きっと『B』だろうな。Aは絶対無理なんだろ?

拓朗  それなんだよ。Aが絶対に無理って誰が決めた? 

翔悟  えっ、たくちゃんが絶対に無理って・・・

拓朗  それは、しょーごが徹底的に調べたのか? オレの情報が正しい根拠は?

翔悟  卑怯だろ、出題者の言う事が正しくないと成立しないだろ。

拓朗  しょーごの言う事は概ね正しいよ。
    でも、一般論であって、根拠じゃない。
    つまり、まずは相手を知る。
    出来る出来ないの判断基準を持ってないのに、
    ただ盲目的に突き進むなってこと。

翔悟  うーん。さっきのオレで言うなら簡単にBを選んだ事が、
    たくちゃんの言う『がんばる』ってことなのか?

拓朗  それじゃぁ、△だな。徹底的に調べた結果『A』が落とせる可能性が、
    半々ならそっちに行くよな? つまり、それが『がんばる』ってこと。
    たとえ失敗しても『B』に保険を掛けとく方法だって考える事も出来る。

翔悟  なるほど。つまり、先に調べる事、そして、その上で労力を使う事、
    それが、がんばったってことなんだな。

拓朗  そういうこと。恋愛も一緒だ。
    相手を知らないと相手の求めている物は見えないだろ。
    まずは自分でよく見て、よく感じて。それを基準にしていく。
    それが恋愛だとオレは思ってるんだ。

翔悟  そうか、当時は全然興味無かったから、右から左だったっぽい。

拓朗  まぁ、しょーごらしいよ。

翔悟  なんだよそれ、ほめてんのかよ。

上手照明アウト 下手照明イン

ほぼ同時刻大学のカフェテラスにて

惠実  おはよう。

玲奈  おはようって、もうお昼過ぎだよ? 今日の午前の講義はどうしたの?

惠実  いやー、課題やってたら寝ちゃって。
    気づいたらタモリさんがこんにちはしてたんだよね。

玲奈  ダメ。講義は三回休んだら『不可』になっちゃうんだよ。
    本当に体調が悪い時に休めなくなっちゃうよ。

惠実  大丈夫だって。自主休講は計画的にやってるから。
    それに、わたしの事は別に良いの。玲奈、佐久間さんとはどうなったの?

玲奈  昨日、お食事の約束をしたんだ。土曜日に会うんだよ。

惠実  そうなんだ。すごいじゃん、玲奈。

玲奈  電話しようとしたら、佐久間さんからメールがきてね。
    それで、返信したら電話を掛けてきてくださって。

惠実  ふーん。人の色恋沙汰ほど聞いてつまらない物はないね。
    もしかして、『わたしたち周波数ぴったりですね』なんて話したわけ?

玲奈  そんなこと言ってないもん。偶然んですねっって。
    今度、お食事でもどうですかって。それだけだもん。

惠実  はいはい、ごちそうさまです。うまく行くと良いね。

玲奈  ありがとう。どんなにからかっても最後は応援してくれるから。

惠実  そんなに感謝されてもなにもでないよ。
    玲奈とは古い付き合いだから、ただ心配なの。
    わたしが男だったら絶対にほっとかないんだけどな。

玲奈  照れるからやめてよ。

惠実  だから、わたしの玲奈を泣かすようなやつは絶対に許さないんだから。

玲奈  わたし、本当に友だちに恵まれてる。惠実が友だちで良かった。

惠実  そうでしょー。感謝しなさい。

玲奈  うん・・・。
    でも、そんな友だちが落第するのは嫌だから、勉強してね。

惠実  ぐぅ。それは・・・。

玲奈  わたしを悲しませるやつは許さないんだよね?

惠実  もう、わかったよ。玲奈はそういうところ抜けて無いからなぁ。

玲奈  へへへ。だって、一緒に卒業できないとか、絶対に嫌だもん。

惠実  はいはい。一緒に卒業できるように尽力させて頂きます。

玲奈  よろしい。じゃぁ、三コマ目は絶対に寝たらダメだよ。

惠実  わかってるよ。

玲奈  今日だけじゃなくて、サボるのもダメだからね。

惠実  なるべくね。

玲奈  わたしを泣かせるようなやつは、惠実がどうしてくれるんだっけ?

惠実  わかったよ。もう休まないし寝ない。約束する。

玲奈  ありがとう。

暗転/場面転換

翔悟、約束の四十分前に待ち合わせ場所に到着する。

翔悟  また早く着いたなぁ。でも、流石に遅刻するよりかはマシか。

翔悟、ふと空をみあげる。

玲奈、空を見上げる翔悟に近づく。

玲奈  何見てるんですか?

翔悟、突然の玲奈の声に少し驚きながら。

翔悟  空。たまに見とかないと、空がある事を忘れちゃいそうで。

玲奈  へー、そうなんですか。なんか、ロマンティックな表現ですね。

翔悟  いえいえ、全然そんなんじゃないんですけど、癖ですかね。

玲奈  良いと思います。わたしも今度マネしてみようかな。

翔悟  ちょっと約束よりも早いけど、行きましょうか?

玲奈  はい。では、エスコートをお願いします。

翔悟  かしこまりました。お嬢様。

玲奈  ふふふ。

暗転/場面転換

翔悟、映画館に玲奈を連れて行く。

翔悟  今日はまず、映画を観ようと思います。

玲奈  はい。どんな映画を観るんですか?

翔悟  アクション系の映画にしようと思います。

玲奈  あぁ、今話題になってる映画ですよね?

翔悟  えぇ、それです。CMとかで見て結構気になってたんですよ。

玲奈  わたしもです。気になってたんですよ。

翔悟  ホントですか? いやー、良かった。じゃっ、さっそく行きましょうか。

玲奈  はい。ポップコーン買いましょうか?

二人で、受付に行きながら。

翔悟  良いですねぇ。買いましょう。すみません。大人二枚ください。

暗転/場面転換

イタリアン・レストランにて

翔悟  いやー、すごかったですねぇ。

玲奈  はい。わたし、すっごくドキドキしました。

翔悟  俺、主人公のあの台詞にはしびれましたよ。

玲奈  どれですか?

翔悟  『酒はやらない。タバコは吸う。
     好きな女を守れないくらいなら、男をやめる。』
     漢の中のオトコですよ、アイツは。

玲奈  それ、わたしも感動しました。あのシーンにあの言葉。素敵でした。

翔悟  ですよね? やっぱ、ですよね。
    いやー、流川さんが楽しんで頂けたなら、良かったです。

玲奈  今日は素敵なプランありがとうございます。

翔悟  いえいえ、こちらこそ付き合って頂いちゃって。

玲奈  このデザートを食べ終わったらこの時間が終わっちゃうんですよね。

翔悟、玲奈の一言にドキッとする。

翔悟  えっ、あっ、あのー、俺もちょっと寂しい気持ちがあります。

玲奈  ホントですか? うれしい。

翔悟  良かったら、このあとBarにでも行きませんか?

玲奈  良いんですか? 是非、ご一緒したいです。

翔悟  じゃぁ、あんまり遅くならない範囲で飲みましょうか。

玲奈  はい。

暗転/場面転換

Barへの移動中。

翔悟  そこを曲がった先にあるんですよ。

玲奈  そうなんですか。
    そういうとこ、あんまり行ったことないんで楽しみです。

翔悟、過去に関係を持った明花を見つける。

翔悟  あっ、やっぱり今日は別のところにしましょう。

玲奈  どうかしたんですか?

翔悟  いえ、流川さんにおすすめしたいのはこっちじゃ無かったんで。

玲奈  そうなんですか? 別にこっちでも良いですよ。

翔悟  いえ、こっちはちょっと刺激がつよ・・・・

明花  あれ、やっぱ翔悟だ。あの日以来じゃない。

翔悟  よっ、よう。久しぶり。
    ごめん、俺、急いでんだ。流川さん行きましょう。

玲奈  良いんですか? 久しぶりって、お友だちじゃないんですか?

翔悟  良いんです。行きましょう。

明花  今度はお嬢様系にしたわけ? そんな清純そうな子を、
    ウチみたいに食べたらポイってしたら可哀想だから、しちゃダメよ。

玲奈  えっ? 佐久間さん、ど、どういうことですか?

翔悟  なんでもないですよ。俺たち流の冗談みたいなもんです。

翔悟、玲奈の腕を掴んで歩き出す。

翔悟  あんなのほっといて行きましょう。

明花  冗談。ウチと寝たのも冗談だったってこと?
    あんたって、本当にやることやったら急に冷たくなるよね。

玲奈、翔悟の手を振り払う。

玲奈  佐久間さん、わたし、
    そんな気持ちで佐久間さんと一緒に居るわけじゃないですよ。
    そんなことが目的でわたしに優しくしたりしてたんですか?

玲奈、怒りと悲しみで体と声を震わせる。

玲奈  携帯を拾ってくれたのも、電話をくれたのも、
    みんな、わたしの体が目当てだったんですね。最低です。
    もう、これで終わりにしましょう。失礼します。

玲奈、走り去る。

翔悟、あまりの出来事に呆然と立ち尽くす。

明花  翔悟、あんなのが趣味だったの? 以外ねー。
    良かったんじゃない? どうせうまく行きっこ無いって。
    なんか言いなさいよ。

翔悟  ・・・た・・。

明花  え?

翔悟  ・・れ・、き・・ん・・。

明花  なになに、全然聞こえない。あっ、わたしと寝たいの?

翔悟  ・・れが、決めた。誰がうまく行かないって決めた。

明花  何言ってんの?
    あんたと、あの子、どうやったって住む世界が違うのよ。
    あんなのが良いなんて、頭どうかしちゃったんじゃない?
    あんたみたいなの、もう興味ないわ。どっか行きなさいよ。

翔悟、明花に突き飛ばされ、よろめきながらその場に倒れる。大声でさけぶ。

翔悟  殴りたかったら、もっとやれよ。ホラ、やれよ。

明花、翔悟の気迫に後退りする。

翔悟  やれって言ってんだろ。やれよ。ホラ、やれって言ってんだろーが。

明花、顔を強張らせて、その場から走り去る。

翔悟  覚悟か。覚悟が足りなかったな。
    因果応報ってやつだよな。だけど、まだ終わっちゃいない。
    一パーセントでも希望が残ってんなら俺はがんばれる。

翔悟、体を起こす。

翔悟  まずは、玲奈ちゃんに謝罪しないと。
    それから、過去の清算。てめえのケツを拭かないとな。

翔悟、立ち上がる。

翔悟  俺は、俺になる。玲奈が大好きだ。それは揺るがない。

翔悟、ゆっくりと一歩を踏み出す。

暗転/場面転換

上手照明イン

翔悟、昨日の服のままベットに横になっている。子どもたちの声で起きる。

翔悟  うっ、うーん。・・・? 朝か。

翔悟、携帯を確認する。

翔悟  連絡なんかくるわけないか。俺は待たない。俺からしないと。

翔悟、玲奈にメールを送る。

翔悟のメール本文

翔悟  おはようございます。
    まず、電話じゃなくメールでの連絡で申し訳ありません。。
    そして、俺は流川さんにやってはならない事をやってしまいました。
    言い訳はしません。昨日の女性が言ってた事は事実です。
    ただ、一つだけ間違いがあります。流川さんは俺の大切な人だってこと。
    ゆっくりと確実に関係を深めて行きたいと考えてました。本当です。
    それを証明する事になるかはわかりませんが、
    今日から毎日、十九時から終電まで出会ったあの場所で待ってます。
    流川さんが来てくれるまで一生でも待ちます。脅迫ではないので、
    一ミリでも俺に会いたくない気持ちがあるなら、来ないでください。
    長文、失礼致しました。それでは、失礼致します。

翔悟  こんな感じかな。さて、全力で償いをしてかないとな。

翔悟、軽く伸びをして、洗面台に向かう。

上手照明アウト 下手照明イン

玲奈、ベットの中に潜っている。

玲奈  携帯鳴ってる。誰だろ?

玲奈、起き上がり、携帯を見て、携帯を壁の方に投げる。

玲奈  朝からどういうつもり? 絶対に許さないんだから。

玲奈、再び横になるも、携帯の方をチラチラと見る。

玲奈  なによもう。・・・。メールを見るくらいなら良いか。

玲奈、携帯を拾う。

玲奈  えーっと、・・・。見るんじゃなかったな。
    でも、まだ許せない。それ以上に信用できないよ。

玲奈、行き場の無い感情に泣き出す。

暗転/場面転換

翔悟、玲奈と初めて出会った場所に立っている。

翔悟  流石に昨日今日ってことにはならないか。そろそろ終電だな。

翔悟、時計を見て駅の方に歩き出す。

一週間、二週間と、時が過ぎて行ったある日の駅

翔悟  今日でまる一ヶ月か。
    玲奈ちゃんを待つ&過去に関係を持った女性への謝罪、
    同時進行させてたけど、謝罪の方はなんとか片付いてきたけど、
    玲奈ちゃんの方は全然だな。
    そもそも、形に見えるもんじゃないからアレだけどな。

翔悟、時計を見る。顔を戻すと目の前に惠実がいる。

惠実  とりあえず、一発殴らせて。話はそのあとね。

翔悟  え?

翔悟、惠実に殴られる。

翔悟  いってー。なんですかいきなり?
    確か流川さんのお友だちの、えーっと、美里さん? でしたっけ?

惠実  えぇ、よく憶えてるわね。あと、惠実で良いから、こっち来て。

翔悟、惠実に手を引かれカフェに入る。席に着くなり惠実が話し始める。

惠実  お久しぶりです。単刀直入に言うからよく聞いて。
    玲奈から伝言①。あそこに行ってあの人が居なかったらすぐ帰って。
    ②もし居たら、ごめんなさいって伝えて。以上。

翔悟  なるほどね。俺を殴ったのはキミの意思ってことと、
    流川さんが俺の事をまだ心のどこかで、
    気にしてくれてたってことはわかった。

惠実  わたし、玲奈を泣かすやつは誰だろうと許さないって決めてるの。
    あなた、玲奈にどれだけ大きな傷を負わせたかわかってんの?

翔悟  あぁ、殴られて当然だと思ってるし、
    自分がどんなにひどい事をしたかも、自覚してるよ。
    流川さん以外の女性にもだ.。
    謝罪しても決して許されないことはわかってる。
    でも、俺の出来る事は心の底から謝罪する事、それだけなんだ。

惠実  そう。玲奈はあなたにチャンスを与えようとしてたの。
    話してみて、どうしようもない奴だったらわたしが潰すつもりだった。
    でも、あなたは玲奈に更生されたみたいね。嫌いになれないタイプだわ。

翔悟  それは良かった。で、流川さんがくれたチャンスって?

惠実  はい。これ。しっかり読む事。

翔悟  え? 

翔悟、惠実から手紙を受け取る。

翔悟  手紙?

惠実  そう、これを読んでそこに来てって。

翔悟  それは流川さんが会ってくれるってことなのか?

惠実  そうね、あと、これはわたしからのサービスだからね。感謝しなさいよ。
    ヒントは、玲奈はあなたを信用する事が出来なくなっちゃったってこと。
    また、信用したいのよ。これだけ言ってもわからないなら、諦めなさい。

翔悟  わかった。ありがとう。じっくり考えさせてもらう。

惠実  これ、わたしの連絡先だから。時間は後日教えるから。
    玲奈に直接の連絡は一切禁止。
    破ったら一生玲奈には近寄らせないから。

翔悟  わかってる。ありがとう。

惠実  それじゃぁ、期待してるわよ。じゃぁね。

惠実、伝票を持って店内から立ち去る。

翔悟、静かに手紙に目を通す

暗転/場面転換

翔悟、机に座って手紙を眺めている。

翔悟  どういうことだ? なんも書いてないじゃん。
    白紙って。くっそ、よく読めって何をどうやって?

翔悟、頭を抱える。

翔悟  アレか? あぶり出しか? いや、絶対に違うな。
    白紙ってことと、信用を取り戻すってこと。共通項を見つけないと。

翔悟、もう一度手紙を見つめる。

翔悟  白紙。何も無い、真っ白、まっさら。・・・。さら? 新品ってことか?
    信用を取り戻すってのはなんだ? 考えろ。ヒントがどっかにあるはずだ。

翔悟、携帯にメールがきている事に気づく。

翔悟  メール? たくちゃんか。えーっと・・・。
    ちっ、知らねーよ。くっそー、海外出張とかうらやましすぎる。
    行け行け。俺は今はそれどころじゃないっつーの。

翔悟、携帯を置く。

翔悟  ん? 待てよ。信用を取り戻す。一からってことか。
    白紙、取り戻す。最初に会った場所だ。そうか。駅だ。
    これは多分、最初に出会った場所に来てほしいってことだ。
    そこから、やり直したいってことか。きっとそうだ。

暗転/場面転換

翔悟、約束の当日、自宅にて。

翔悟  そろそろ時間だな。あの日の服も着た。手紙も書いた。
    あとは俺と玲奈ちゃんの周波数がぴったり合ってるかだな。行こう。

翔悟、家から出る。

街の雑踏。約束の場所に着く翔悟。

翔悟  今日は約束の五分前か。来てくれ。
    とりあえず時間までは喫煙所にいるか。

翔悟、喫煙所に移動し、街の雑踏を眺める。

翔悟  ・・・。マジか。あの時のまんまだ。携帯探してる・・・。

翔悟、玲奈に近づく。

玲奈、翔悟に気づくも、そのまま惠実に電話を掛ける。

玲奈  もしもし。うん。来てくれたみたい。うん。ありがとう。じゃぁ。

玲奈、携帯を落とし、駅に消えて行く。

翔悟、携帯を拾って、玲奈に声を掛ける。

翔悟  携帯、落としましたよ。

玲奈、進み続ける。

翔悟  携帯、落としてますよ。

翔悟、玲奈の肩をたたく。

玲奈、ゆっくり振り返る。目には涙が溜まっている。

翔悟  携帯、落としましたよ。流川さんに受け取って頂かないと話が進まない。

玲奈、翔悟に抱きつき、大声で泣く。

翔悟  ごめんなさい。
    本当に謝っても、どんなに謝っても、許される事じゃない。
    でも、俺はあなたを失いたくないんです。忘れる事なんか出来ない。

玲奈  わたし、あの日、本当にあなたの事が大っ嫌いになりました。
    でも、次の日、また次の日って時間が過ぎても嫌いなはずなのに、
    佐久間さんと一緒にいた、楽しかったことばっかり思い出して。

翔悟  俺、手紙書いてきたんです。口頭じゃぁ、うまく伝えられないし、
    多分ぐだぐだになっちゃうんで。

翔悟、ポケットの中の手紙を差し出す。

玲奈、手紙を受け取り読み始める。ゆっくりと一文字ずつ噛み締めるように。

玲奈  ふふ。ありがとうございます。

翔悟  ごめんなさい、もう、泣かせたりしません。寂しい想いもさせません。
    俺は、あなたのことが好きです。

玲奈、涙をこぼしながらうなずく。

翔悟  実は俺、めっちゃ緊張してたんで、もう、限界かも。

翔悟、立ちくらみでふらっとする。

玲奈  読んでください。わたし、佐久間さんの声で聞きたいです。

翔悟  えぇ、マジですか。わかりました。読みますよ。

翔悟、玲奈から手紙を受け取る。

翔悟  俺の今の正直な気持ちです。聞いて下さい。

翔悟、息を整えて

    『まずは、お礼を言わせてください。
    こんな俺にもう一度合ってくれる。そのことにとても感謝しています。
    本当にありがとうございます。そして、心から謝ります。ごめんなさい。
    ずっと、あなたを駅前で待っていると心に決めて一ヵ月がたちました。
    俺はあなたに会うまではどうしようもない奴でした。
    女性をただの物としか思っていないような最低な奴でした。
    でも、あなたに出会って俺は変わろうと思いました。
    一目見て恋をしました。
    こんな気持ちは後にも先にもただの一度だけの経験だと思います。
    この一ヶ月、俺は過去の清算をしてきました。
    過去に関係を持った女性に、一人一人連絡を取り、謝罪しました。
    あとは流川さんにお許しを頂ければ、俺の謝罪は終わりです。
    もう、俺の言葉はあなたに届かないかもしれない。
    それでも俺はあなたに許してもらえるまで、謝り続けます。
    あなたに許してもらえたとき、改めて、告白させてください。
    あなたの事を愛していると。この気持ちは揺るがないと。』

翔悟、照れくさそうに玲奈を見る。

玲奈  あなたを許します。だから、わたしを振り向かせてみてください。

翔悟  ありがとう。俺、一生を掛けてでも流川さんを振り向かせてみせます。

暗転/場面転換

上手照明イン

半年後、翔悟、会社の屋上で空を見上げている。

拓朗  おっ、ここにいたのか。タバコやめたって噂、本当だったんだな。

翔悟  たくちゃん。いつ帰って来たんだよ。

拓朗  昨日だよ。さっき、まーくんに挨拶してきたところ。

翔悟  おかえり。あのさ、たくちゃんには話したい事がいっぱいあるんだぜ。

拓朗  なんだなんだ? のろけ話なら犬だって食わねーぜ。
    面白いんだろうな? えっ? 聞かせてみろよ。

翔悟  犬さえ食わないような話だからやめとくよ。

翔悟、屋上から立ち去ろうとする。

拓朗  ジョーク、ジョークだって。なんだよ。シャレだろ。

翔悟、ニヤッとして振り返る。

翔悟  へへ、わかってるよ。
    だいたい、聞きたくないって言ったって聞かせるよ。

拓朗  耳元でささやいてくれんのか?

翔悟  そうそう、寝てるたくちゃんの耳元でな。

拓朗  マジか、それはキモ過ぎだろ。マジで引くわ。

翔悟  言った俺もキモイと思った。

拓朗  で? あの子とはどうなった?

翔悟  あぁ、今は俺の大切な人になってくれてるよ。

拓朗  ふーん。まぁ、別れてないんならそれでいいや。

翔悟  なんだよ。深く聞かねーの?

拓朗  正直、時差ボケで頭いてーんだわ。また今度ゆっくり聞いてやるよ。

拓朗、ドアの方に歩き出す。

翔悟  わかった。じゃぁ、またな。

拓朗、振り返らず、手を振る。

拓朗  おう。

上手照明アウト 下手照明イン

ほぼ同時刻、大学のカフェテラスにて。

惠実  マジで単位ヤバいかもー。だれかーーーー。

玲奈  誰か助けてくれたら良いね。

惠実  れーなー。助けてよー。マジでヤバいんだってー。

玲奈  わたし、忠告したもん。

惠実  助けてよ。お願い。ねっ? これで最後だから。

玲奈  もう。惠実の『最後のお願い』は聞き飽きたよ。しょうがないなー。

惠実  さっすがー、やっぱり持つべきは友だね。

玲奈  本当にこれが最後だよ。早く片付けちゃお。

惠実  今日は愛しの彼とのデートだもんね。

玲奈  わたしの事は良いの。早く片付けるよ。

惠実  はーい。

暗転/場面転換

翔悟、自分の部屋で手紙を書いている。

翔悟  あの時、キミと出会えたから今こうして俺は笑って生きていられる。
    キミが俺を愛してくれて、俺はどれだけ価値のあるものになっただろう。
    言葉だけじゃ伝えきれない。月並みかもしれないけど、キミを愛してる。
    本当に本当にありがとう・・・・・

手紙に封をしながらドアの外に出る。ポケットが膨らんでいる。

暗転/場面転換

玲奈、いつもとは雰囲気の違うレストランにきょろきょろする。

玲奈  翔悟さん遅いなぁ。なんか一人だと落ち着かないよ。早く来ないかな。

翔悟、レストランに入ってくる。

翔悟  お待たせ。遅くなってごめんね。

玲奈  遅いよー。ん? どうしたの? いつもよりちゃんとした服着てる。

翔悟  そう? まぁ、たまにはピシッとしないとね。

玲奈  ふふふ。何それ、まぁ良っか。

翔悟  食事の前にこれをどうぞ。

翔悟、手紙を玲奈に渡す。

玲奈  なになに? 今読んでも良いの?

翔悟  どうぞ。

玲奈  じゃぁ、読ませてもらうね。

翔悟、玲奈が手紙を読んでいる隙に玲奈の前に小箱を置く。

玲奈  なんか、改めてこんな手紙もらうと恥ずかしいね。

翔悟  へへへ。俺も書くの結構恥ずかしかった。

玲奈  ん? これなに?

翔悟  あけてみて。きっと気に入ると思うから。

玲奈、小箱を手に持って開ける。

暗転/終焉


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