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それほど好きでなくても良い

「お寿司のともみ」さん( @osushinotomomi )というシンガーと、最近“お知り合い”になった。

彼女の存在をはじめて知ったのは随分前で、いつ頃だったか思い出せない。でも、当時生活を共にしていた人が「めっちゃ良い歌を歌う人がおったから、君も聴きなよ」とCDとフリーペーパーを渡してくれた事は覚えている。
その人が「絶対好きやで」と言っていた事も、好きだ!と思った事も、大きく丸い目をした睫毛の長い女の子のイラストがあった事も覚えている。

ここまで書いて、あの時のCDどこや~と家探ししたのに見つからなかった。ワンチャンiTunesに入れとるやろ、と思ったが入れていなかった。こんなに悔しい事ってない。「何やってんねん」と当時の私をどつきたい。

あの時聴いたCDの中に「あいどる」(こんな表記では無かったように思う。それを確認したかったのに、本当に悔しい。歌詞カードも見たかったのに、何やってんねんほんまに。)という曲があって、それが鮮烈に残っている。
CDを聴いた後すぐにTwitterで検索して、「お寿司のともみ」さんを見つけた。好きですという気持ちを指にのせ、フォローをタップした。そこまでしておいて何故CDをインポートしていないのか、当時の私は本当に何を考えていたのか、謎が謎を呼んでいる。どついて回したい。

余談ではあるが、私がともみさんをフォローした数日後に、彼女からフォローバックがあった。好きな人からフォローが返ってくる(つまり、好きな人が自分の事を認知してくれている)状況というのは、嬉し恥ずかし。思春期の初恋みたいな気持ちになる。


前置きが長くなってしまったが、ともみさんと実際に顔を合わせた時「ポジティブシンキング/メローマインド」というCDを購入させてもらった。上記画像がジャケット写真で、まず、この写真からして“良さ”しか無い。
そのツッカケの柄、何?かわいいし私も欲しい。夏の暑い日にタバコ買いに行く時とか、ぴょっとツッカケて外出たい。
今回はこのCDを聴いた私のアホみたいな感想文を書こうと思う。

ともみさんとライブ会場で少しお話させてもらったのだが、私の想像していた「お寿司のともみ」さんと実際の「お寿司のともみ」さんの実像がほとんど変わらなかった事に、まず驚いた。『こういう人だったらいいな~』という願望を多分に含んだ偶像は、たいてい現実とは異なるものだ。
私が会場に着いた時、彼女はちょうど自分の出番を終えてソファに座ろうとしているところだった。「お寿司のともみ」さんのライブが見たかった私は少し落ち込み、落ち込んだ後、『話しかけるタイミングとしては完璧やし逆にちょうどええ』等と馬鹿丸出しの思考で唐突に彼女に話しかけた。
私が「あの~お姉さん、すみません」とナンパの常套句的な声かけをしたら、お寿司のともみさんは華奢な身体をビクつかせてこちらを見た。肩口で切り揃えられた髪が揺れて、女の人の匂いがした。
「あの、Twitterでお世話になってます。艶窪青です。お寿司のともみさんですか?」
「……あっ、はじめまして、お寿司のともみです。」
確かこんな会話だったと思う。握手してくれた手は小さくて、柔らくて暖かかった。女の人の匂いのする、女の子のような人だと思った。

「ポジティブシンキング/メローマインド」の中に入っている曲は以下画像参照。全部で6曲。正直、どれがどう、とか、これがこう、とか言ってる隙間も無いほど全部が良かった。

6曲も入って500円って……安い。安すぎる。これからは1000円で売りましょう、ともみさん。

CDタイトルにもなっている「03.ポジティブシンキング/メローマインド」は一旦置いておいて、「04.通電」についての話をしようと思う。

この曲を最初に聴いた時、言語化できない感情が渦巻いた。
それは、後から客観的な視点を持って考えてみると、「不安」と「やさしさ」に似ていたように思う。
歌詞を一部引用させて頂くが、「想像して 夜が明けて」という言葉から始まるこの曲は、
「絶え間ない営みの中で
 自分が目覚めるのを待ってる
 どうにか上手くやらなくちゃいけないの?」
と続き、
「『狂おしいほど好き』って愛してんの?
 これは幻か、多分痺れ」
と決着する。
この歌詞で曲のタイトルが「通電」。通電とは、文字通り「電流・電気が通ること」という意味だ。一番最初にお寿司のともみさんのフリーペーパーを読んだ時に、「好きな文章を書く人だ」と思った事を思い出した。

彼女が使用する楽器は主にシンセサイザーで、私の音楽についての専門的な知識はマイナスと言っていいほど無知なので、「曲調がどうで、あそこであのテクを入れていて」みたいな説明ができないのがもどかしい。
歌詞カードには書かれていないが、「多分痺れ」と決着したあと、アウトロのようなものが流れてAメロが繰り返される。(おそらく。多分きっとそう。)
このアウトロのような部分で「UFOが不時着して、そのまま離陸していったんだなぁ」というイメージが浮かんだ。


私は疲れきって家の近くの商店街を歩いている。時刻は真夜中で、立ち並ぶ商店にはシャッターが降り、すれ違う人も居ない。呂律のあやしい酔漢の声が遠く聞こえてくる。商店街を抜けたらすぐに私の住むマンションがあり、もう出口はすぐそこだ。私は鍵を取り出そうとし、混沌を極めている鞄の中をまさぐる。真夜中の共用通路でこれをしてしまうと近所迷惑になる為、深夜に帰宅する際は事前に鍵を準備しておく習慣があるのだ。
私の指先に鍵が触れた瞬間、前方で強烈な光が瞬いた。
驚いて顔を上げると、商店街の出口を塞ぐようにして、どう考えても(どこから見ても)UFOだとしか思えない楕円形の円盤が鎮座している。
UFO(のような楕円形の円盤。直径5mほどと推測される。)は何度か激しい明滅を繰り返し、数分もしないうちに、音も立てず垂直に上空へと昇っていった。
しばらく茫然自失だった私も、さすがに驚いて声が漏れる。「ゆーふぉー……」という呟きは遠くで響く酔っ払いの声より小さく、私は自分の見たものが信じられない。

信じられないので、「疲れすぎてるやろ。どんな幻覚やねん。」と独りごちて、指先に触れていた鍵を鞄の混沌から救い出し、そのまま帰宅する。


「04.通電」は、私にとってはそういう曲だった。
誰にとっても、日常で起こる小さな“変化”や“サイン“、あるいは“きっかけ”が存在するのだと思う。
それは例えば、昨日まで安かったみかんが値上がりした事によって冬の終わりを感じ取ったり、朝と夜とで明日の天気予報が変わっていたり、そういう小さな事だ。
値上がりしたみかんを見て「みかん高くなったなぁ~そろそろいちごの季節か。」といちご狩りに行く予定を立てたり、朝の天気予報で諦めていた洗濯を夜になって「やっぱり洗濯できるやん!」となったり。そういう、些細といえば些細な事なのかもしれない。

些細な選択が連続した結果を、人生と呼ぶのだと私は思っている。
あの時、いちご狩りではなくスーパーでいちごを買って満足していたら。あの時、もう少し違うニュアンスで伝えられていたら。あの時、この会社に入らなければ。あの時、離陸しようとするUFOに飛びついて、宇宙へ行っていたら。

かつて、清水煩悩くん( @shimizubonnou )は地元である和歌山の事があまり好きではなかったらしい。お寿司のともみさんは和歌山在住で、主に和歌山で音楽活動をなさっている。
煩悩くんが初めてともみさんを見たのも和歌山で、「この人は何も気にしていない人なんだなぁと思った」と言っていた。自分の好きな事、好きなもの、好きな人、好きな諸々を、好きな表現でしている人なんだなぁと。彼女と初めて顔を合わせて、そして今回のCD「ポジティブシンキング/メローマインド」を聴いて、私はそう感じた。

「06.窓辺のギター」の中に、とても好きな歌詞がある。
「大型デパートにも 通勤電車も純喫茶にも どこにもなかった
 安心感を売っぱらった お金はないけど刺激があった
 悲しくて笑えたりして 多分、それって幸せ
 正しかなくても生きていた あたしじゃなくても多分、良かった
 心臓が泣いている 同じじゃないから泣いている」

そして表題にもなっている「03.ポジティブシンキング/メローマインド」の中にも(中にもというより、この曲に至っては歌詞全てが良く、曲を聴いていない段階で歌詞だけ読んで涙が出た。)素晴らしく好きな言葉がある。
「期待させないでほしい
 もっと曖昧なままで
 気になるのは 一体、君がどんな歌を歌うのか
 気になるのは 実際、君がどんな夢で眠るのか
 それだけ気になる
 大体同じ2人だけど 寄り添わない 手も繋ぎたくない
 大概似合う2人だけど デートしない LINEも教えない」


お寿司のともみさんは、私が描いた煩悩くんのアルバムジャケットや「ブッダ常夏キリスト富士山」のMV中に出てくるキリストのイラストを褒めてくれた。
「とても良くて、好きです」と言ってくれて、「今度ゆっくりお話したいです」とまで言ってくれた。
嬉しさのあまり気が動転した私は、「お寿司のともみさんって、お寿司好きなんですか?」と彼女が100回は訊かれているだろうアホみたいなつまらない質問をした。
「お寿司好きです!でも、好きやけど、1番好きかと聞かれると……私レベルの好きさで『お寿司のともみ』を名乗っていいものか……」
彼女は心底申し訳なさそうになり、脳みそを通過せず脊髄反射で口から出てしまった私の言葉でそんな表情をさせてしまって、こちらの方が申し訳なさでいっぱいになった。

でもともみさん。私は「艶窪青」と名乗っていますが、青色が特別好きなわけではありません。“色んな宗教ある方が素敵”なので、お寿司をそこまで愛していなくても、お寿司のともみで良いと思います。


今回紹介させてもらった「ポジティブシンキング/メローマインド」はお寿司のともみさんの通販サイトからも購入できる。
まだ手に入れていない人は買っとこ。別に興味ない人はそれでいい。人生は些細な選択の連続で、私はあの日、このCDを買った事によってUFO不時着の瞬間に立ち会えた。あそこでUFOに乗り込まなかった事を後悔はしない。
「04.通電」を聴けば、私はいつでも真夜中の商店街の出口に不時着してしまう、少し間抜けなUFOと出会える。今後、ふいに乗り込むかもしれないし、死ぬまで唖然とUFOを見つめるだけかもしれない。それでいい。
それが良いのだ。


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