ラブホ街を通る

引越しをして、通勤時にラブホ街を通るようになった。

私の仕事はサービス業で、曜日も時間もシフト制である。9時から、10時から、11時から、12時から、と四種類ある時間の中からランダムに振り分けられたシフトに従って、毎日会社へと通う。
これが何とも、昔から「決められた時間に決められたことをやる」ことが極端に下手くそだった私からすると、拷問のように思えてならない。
学生ではなくなり、親の庇護下から出て、”社会人”と区別されるような年齢になっても尚、「通う」ということの難しさを痛感している次第である。もう少し言うと、「通い続ける」ことって、本当に難しい。
世のおとな達、本当に凄いなあと感心を超えて驚愕せざるを得ない。

さて、ラブホ街の話だ。
「ラブホ街」。読み方は「らぶほがい」。どうだろうこの響き。
私がまだうら若きJKだった時分、同級生の口から出てくる「らぶほ」という言葉に胸踊ったものだが、ラブホはラブホ。結局はホテルなので、実際に天井が鏡張りだったり円形のベッドが回ったりガラス張りのお風呂があったりすることは極稀である。稀な上に、そういった部屋のあるラブホはお高い。
私もいい年齢になり、実際のラブホでうにゃむにゃすることができるような立場になった。だが、実際のラブホはただのホテルの一室であって、かつての友人たちの口から飛び出した「らぶほ」とはまた別物のような感じがする。

何故だろう、と自転車を漕ぎながら考えた。
一号線から横道に入り、裏路地を真っ直ぐ抜けた時に考えた。ケバケバしい赤と緑と金色で、「Merry Christmas」と暖簾を掲げたラブホが目に入ったからだ。
暖簾のすぐ隣にはアクリル板張りの看板があり、「90分2,000円~」と、これまたケバいレモンイエローででかでかと印字されている。

私もいい加減に大人なので、くたりとした”Merry Christmas”の裏から、明らかにひと仕事終えた綺麗なお姉さんと壮年の男性が出てきたとしても目線を向けないし、特に感想も持たない。
ラブホはラブホ。ホテルといっても、そこはある特定の目的の為に作られた時間貸し制の部屋なのだ。

たらたら自転車を走らせながら、かつて高校生だった友人たちの「らぶほ」を思った。
彼女たちの話に出てくる「らぶほ」はラブホがメインなのではなく、「彼氏」に修飾される単語として、いつも登場していた。違いはそこなのだ。
彼女たちが話したかったのは彼氏の話であって、決して彼氏に付随する「らぶほ」やラブホに付随するうにゃむにゃの話ではない。
ユニバに行った話をしたとしても、お花見に行った話でも、「らぶほ」の話でも、何にしても(ユニバも、お花見も、らぶほも)全ては「彼氏」にかかる修飾語なのだ。なるほど~。
だから、あんなにキラキラして聞こえたのだな、と一人納得する。

あと、ラブホ街を自転車で通りながら思ったことがもう一つある。
「ラブホ街」ってご大層なお名前ですなあ、ということだ。

「ここらへんラブホ街なんで、家賃はちょっと低めです」とか「ラブホ街近くにあるから、連れ込まれへんように気ぃつけな!」とか、これらは「ラブホ街」の定型文と言っても過言では無いだろう。「ラブホ街」を使った例文を作りなさい、のお手本だ。
だが、実際、ラブホ街ってどうだろう。
街(まち)、というほど大層なものだろうか?たいがい、「ラブホテルが軒を連ねている一角」ではないだろうか?

疑問に思ったので辞書を引いてみた。

〖街〗 ガイ・カイ・まち
四方に通ずる道。大通り。また、その道に面した人家の群れ。まちの一画。まちすじ。ちまた。まち。まちなか。

ピンと来なかったので「町」も調べてみた。

〖町〗 チョウ(チヤウ)・まち
1.市街のくぎり。また、市街地。 「町会・町人・町家」
2.《名・造》地方公共団体の一つ。 「市町村・町長」

なるほど。
噛み砕くと、「まち全体を指し示す”町”」と「ある一角を指し示す”街”」という事らしい。なるほど、なるほど。
これらを踏まえて文章にしてみると、”町(まち全体)のなかにあるラブホ街(ある一角)”という事だ。

じゃあ、「ラブホ街」で合っていますね。
また一つ勉強になりました。

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