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覗きこむ猫

隣の部屋で飼われている黒猫はベランダの手摺を伝ってやってくる。
自由に行き来しているらしく、ベランダで物音がすると大体は彼がいる。

その日は部屋の掃除をしていた。
私はずぼらな性格である。そのためなかなか掃除をしないのだが、思い立った時はとことんまでやる。A型の性質がこういうときに出てくるのかもしれない。普段は気にしていない汚れが気になりだし、徹底的に掃除をしはじめる。
そうして熱中して掃除をしていると、ふと視線を感じて手を止める。顔をあげると網戸越しに彼と目があった。
彼は猫らしい黄色の瞳を真ん丸に開き、私の部屋のなかを覗き混んでいる。網戸が開いていたなら入ってきそうな勢いでガン見している。
掃除が面白いのか、隣の部屋が珍しいのか……。
彼はそらからしばらく私が掃除する様を眺めたあと、自分の家へ帰っていった。

彼は賢い猫だ。
夕方になるとベランダ伝いに端の部屋まで行き、通りを眺める。飼い主が帰ってくるのを今か今かと待っている。
それに、飼い主が名前を呼ぶとちゃんと返事をする。
ただ、どこから返事をしているかわからないらしく、飼い主はしばらく名前を呼んでは「帰っておいで」と呼び掛けているのを聞く。

たまにベランダに干した布団の上を歩いていかれることをもあるが、とてもカワイイ隣人である。
ただし、私が名前を呼んでみてもガン無視されるのだった。
そこも含めて、やっぱりカワイイ隣人だ。

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