さらば、承認欲求お化けだった私よ

 小説を書いていると、手放さないととてもやっていられないというようなものがある。
 そのうちの一つが、「作品に対する評価=自分という存在に対する評価」という固定概念だ。

 2013年10月。私はバイトの傍ら締め切り数時間前にぎりぎり書き上げた短編で、「第13回女による女のためのR-18文学賞」に応募した。
 結果はものの見事に一次選考落選だったわけだが、この挑戦には一つの成果があった。
 当時お付き合いしていた男性、そして現在の夫であるところのけろっぴさんに、私の書くものを認めてもらうことができたのだ。

 けろっぴさんは、私に「頼むからこれからも書いてほしい」と言った。
 ニナには才能があるから、それを無駄にしないでほしいと。
 それから彼はことあるごとに私の執筆活動を支え、「ちゃんとした担当編集がつくまで、おれがニナの担当だから」とまで言ってのけた。
 なにせ建築設計という激務の傍ら、私の十万字超の原稿に本気の赤入れをしてくれたりするのだ。
 そのスタンスは結婚した今でも変わっておらず、私は今でも執筆のたびに彼の世話になっている。


「小説を書いていたのは知っていたけれど、まさかここまでとは」

 最初に私の小説を読んだけろっぴさんが言った台詞だ。

 そう。私は昔から小説を書いていた。
 ことの発端は、小学校六年生の時にまでさかのぼる。

 初めて家にパソコンがきて、初めてインターネットに触れた私は、大好きな漫画のファンサイトに夢中になった。
 そこは少しBLの要素が入ったところで、私はすぐにメインキャラ二人のカップリングに夢中になった。

 そして当時の個人サイトにはよくあったことなのだけれど、そのページには「プレゼントのコーナー」があり、サイト閲覧者や仲の良い他サイトの管理人さんからもらったイラストや小説などの作品が飾ってあった。

 私は「このページに私も参加したい!」と強く思い、wordでぽちぽち書いたつたない小説を管理人さんに送り付けた。
 間もなく私の小説は、管理人さんによる感想と解説付きでそのページに掲載され、私はそのことに強烈な快感を得た。
 今思えばそれは私の初めての「小説を通した成功体験」だったのかもしれない。

 それから色々なジャンルを渡り歩き、自分でサイトをもったこともたびたびあった。
 なかには弱小ジャンルながら一日1000ヒットを叩き出す、いわゆるジャンル大手になったこともあり、奇しくもその時期は私の二年間の不登校体験とも重複していた。

 この時の私にとってはまさしく「自分の小説に対する評価=私という人間に対する評価」で、私は書くことによりなけなしの自尊心をたもっていたのだ。
 サイトのアクセス数やPixivのブックマークは私の命だった。
そういう風に自分の承認欲求を満たし、満たすことこそが目的になっている「承認欲求お化け」はこの世にたくさんいると思う。

 話は現代に戻る。
 けろっぴさんは私の一次選考落選に対して、「そんなもんで落ち込むな」とばっさり切り捨てた。
 コンペ慣れしたけろっぴさんは、選ばれることの難しさをよく知っている。
「そんなもの、100回挑戦して1回成功するかどうかなんだから」
 その言葉は、私なんかの泣き言よりも数千倍重かった。

 この世で一番認めて欲しいひとにそう言ってもらえることは、とても幸せだと思う。
 けろっぴさんの言葉を噛み締めながら、私は「じゃあ100回でも200回でも頑張ろう」と自然に思うことができた。考えを改めるというよりは、正しいことをすとんと理解したという心地だった。

 それから「徒川ニナ」となった私は、幾つかのweb上の賞を受賞し、電子書籍を刊行するに至ったわけだけれど。
 結果を出している時に共通しているのは「発表をそわそわ待っていなかった」ことだ。

「あれの結果そろそろだな。どうかな。どうかな」

 そう思っていると、必ずといっていいほど落ちている。
 この時「作品に対する評価=自分という存在に対する評価」という価値観を持ったままだったら、さぞ辛かっただろうなぁと思うのだ。

 だから私はけろっぴさんに心の底から感謝をしている。
 有難う。小説とは別のところに私の存在価値を見つけながら、私の小説を全力で認めて、バックアップしてくれて。
 だから私は4年経った今でもひたむきに小説が書けている。

 今の私の目標は、娘が三歳になるまでにデビューして、「お母さんの仕事は小説を書くことなんだよ」と言えるようになることだ。

 けろっぴさんがいなかったら叶うどころか抱くこともなかったこの夢を実現する為に、私は今もただひたすら書いている。
 存在意義を証明する為じゃない。ただ、書きたいから、書いているのだ。

「ちょっと応援してやろうかな」と思って頂けたのなら、是非サポートを!あだがわの心の糧となります!