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【CROSS TALK Vol.5】 日本文化が持つ〇〇〇が世界を救う!? AI時代の教育を考える

こんにちは!アドビ未来デジタルラボ編集部です。2024年が始まりました。ちょうど一年前ごろにChatGPTが登場してから一気に身近なものになった生成AI。今年もその進化や活用には目が離せません。

2023年7月、文部科学省は小中高校向けに、生成AI利用に関するガイドラインを公表しました。同ガイドラインは暫定的に取りまとめられたものであり、機動的な改訂が行われることが前提になっています。この文部科学省の対応一つとっても、急速に発展を遂げるAIと教育のあり方を国が模索している様子が伺えます。

これからの教育現場では、AIをどのように位置付けて、向き合っていくとよいのでしょうか。

今回は、教育改革に関する国や自治体の委員を務めるデジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐 佐藤 昌宏氏に取材し、“AI時代における教育のあり方”をテーマに、アドビの教育事業本部 執行役員の小池 晴子がお話を伺いました。



左から アドビ 小池 晴子、デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐の佐藤 昌宏先生

1)誰でも簡単にAIを使える時代


小池:
2023年はAIの話題に事欠かない1年でした。佐藤先生はAIを取り巻く現況をどのようにご覧になっていますか?


佐藤:
一言でいうと、AIの汎用化がとんでもないスピードで進んでいます

AIは「最近生まれた最新技術」というイメージがあるかもしれません。しかし、その歴史は1950年代の第1次AIブームから始まり、2021年から続く現在の第4次ブームへと繋がっています。

教育分野では、AIを用いて1人1人に最適化された学習内容を提供する「アダプティブラーニング」が第3次ブーム(2006年〜2021年)期に登場したあたりから、教育の現場でのAI活用が議論に上るようになりました。

そして、今現在真っ只中にある第4次ブームの象徴的なサービスが「ChatGPT」です。

AIに限らず、テクノロジーの進化は技術の汎用化をもたらすものですが、ChatGPTのような生成AIは主に専門性の高い人がサービスのバックエンドのテクノロジーとして活用していたAIを、サービスのエンドユーザー誰もが使えるようになったことが革新的なのです。


小池:
ChatGPTなどの生成AIの登場は、AIの歴史の中でも大事件なんですね。


佐藤:
はい。生成AIは、エンドユーザーがこれまでは簡単にはできなかったことをいとも簡単に実現させる、まさに「魔法の杖」という表現がピッタリでしょう。

今後もテクノロジー(AI)の進化は止まりません。今のAIが画像認識機能、音声認識機能、文字の音声化機能、つまり目と耳と口がついた状態と捉えると、今後続々とセンサーが搭載されたAIが開発されて、いわば五感が備わったAIが普及する日も夢物語ではないかもしれませんね。


2)教育分野においてもAIの人間中心の使い方を


小池:
進化するAIの教育分野における活用法について、有識者の間では現在どのような声が上がっているのでしょうか。


佐藤:
教育におけるAI活用について、積極的な声も多い半面、消極的な声も一部見受けられます。


小池:
文部科学省としては教育現場におけるAI活用を進めたい考えですよね。その一方でどのような理由で消極的な声が上げられているのでしょうか。


佐藤:
たとえば「子どもたちの思考力が低下する」という懸念が聞かれます。調べれば答えがあるような問いであれば、AIを使ったほうが速いので、、自分の頭で考えなくなるという心配ですね。私は「AIは教育分野でも活用すべき」という考えですが、この懸念自体は理解できます。でも、先ほど述べたようにAIは「魔法の杖」つまり道具なので、使い手が上手に使いこなせるようになる必要があるのです。AIがもっともらしい答えを瞬時に出してくれたとしても、ハルシネーションを見抜けなければいけないし、その回答が脈に即しているか、倫理的な問題はないか、など最終的な判断は人間がするということがポイントです。その点で、学校においては、子どもの年齢・発達に合わせた議論は必要です。

小池:国連教育科学文化機関(UNESCO)はAIの“人間中心の活用”を提言していますね。AIの進化のスピードを目の当たりにすると、AIを使わないという選択肢はすでになく、“AIをいかに教育に取り入れるのか”という段階ではないでしょうか。


佐藤:
その通りですね。AIがむしろ私たち人間の理解や思考を促進させてくれるような、人間中心の使い方を教育分野においても模索すべきだと私は考えます。


3)時間割作成や授業のアイデア出しにAIを活用する先生も


小池:
すでに教育現場でAIを取り入れている例にはどのようなものがありますか?


佐藤:
例えば、時間割のたたき台をChatGPTで作成されている先生がいます。ChatGPTに「学習指導要領で示されている標準授業時数を基に、小学6年生の時間割をバランスよく組んでください」という趣旨のプロンプトを入力した上で、結果(時間割)をExcelで出力してもらう。


小池:
時間割作成は大変時間のかかる業務だと思いますが、この方法であれば時間割のたたき台づくりの手間が大幅に削減できますね。AIに任せるのはたたき台づくりで、最終的にいろいろな考慮観点をもって先生が判断して仕上げるという役割分担ですね。


佐藤:
ほかにも、授業のアイデア出しにAIを活用する先生もいますよ。

ChatGPTに国立教育政策研究所の「指導と評価の一体化」を学習させた上で、例えば小学6年生の社会科の授業のアイデアおよび評価基準を複数出してもらう。アイデア出し、ブレインストーミングの相手としてAIを使って、やはりここでも先生が判断と仕上げを行って、授業に活かす訳です。


小池:
「魔法の杖」を人間が新しいインスピレーションを得る道具にする素晴らしい使い方ですね。


佐藤:
人間中心の使い方をするためには、“AIのアウトプットが本当に正しいのかどうかチェックすること”が重要であり、AIを使う人間の重要な役割でもあります。


4)日本の創造性×AI=世界の幸せ!?

小池:AIに使われるのではなく、AIを使いこなせるようになるためには、学校ではどのような学びの変化が必要でしょうか。


佐藤:
技術の限界と可能性を知ることです。まず「限界」を知るには、人間がAIのアウトプットの確からしさを判断できなければいけません。そのためには、実はこれまでの教育の基礎学力を身に付ける部分は引き続き必要です。例えば、AI以前から私たちの身近にあるテクノロジーとの関わりに引き付けて考えてみるとわかります。スマホやパソコンの普及で、漢字を書く頻度は激減しましたが、予測変換のリストから正しい漢字を選ぶ能力は必要です。また、自動翻訳が普及しても文脈にあった適切な翻訳になっているのかどうかは、ある程度その外国語に習熟していなければ確かめることができません。ただ一方で、漢字を書く頻度が激減しているのに、漢字の止めハネまで突き詰めた書き取り指導がいるかどうかはまた別の観点です。


小池:
テクノロジーの普及で、社会でもとめられることが変化していることを前提に、教育も変化する必要があるということですね。「可能性」のほうはいかがでしょうか。


佐藤:
「可能性」のほうは、テクノロジーを活用して何をアウトプットするかが本当の勝負ということです。「創造性(クリエイティビティ)」を発揮させる方向にますます進むことを期待しています。そのために文系・理系の枠にとらわれずに、文理融合で、課題解決や価値創造に資する能力を伸ばす「STEAM教育」の更なる推進が重要だと考えます。個人的には、日本には諸外国とは異なる独特の創造性があると思っていて、それで世界と勝負できると。


小池:
マンガやアニメはもちろんですが、最近はアメリカのオーディション番組で、日本のダンスグループが独特の世界観を表現して称賛された例もありましたね。


佐藤:
イグノーベル賞を日本人が17年連続で最多受賞していることもそう。日本文化には滑稽さやおかしみという独自の価値観があって、そういった感性はもっと自信をもって伸ばしていったらいいんじゃないかと思います。今、世界各国はAI開発競争ともいえる状態ですが、日本はそこの土俵ではなく、AIやテクノロジーを使ってわくわくする独創的なアウトプットを出す人材を輩出すればいいのです。創造性を発揮して、世界を幸せにできるような「魔法の杖」の使い手を育てる教育が大切なのではないでしょうか。


小池:
アドビは、人間ならではの創造性の発揮の支援をとても重視してきましたが、教育現場にも生成AIを身近なツールとして提供している立場として、子どもたちがわくわくするアイデアを出せる使い手になるように、一層力を入れていきたいと思います。

本日はありがとうございました!


佐藤 昌宏(さとう まさひろ)
デジタルハリウッド大学大学院 教授 学長補佐
1992年日本電信電話(NTT)株式会社入社。2002年デジタルハリウッド株式会社執行役員に就任。日本初の株式会社立専門職大学院デジタルハリウッド大学大学院の学校設立を経験する。2004年にはEラーニング開発・人材育成コンサルティング事業を展開する株式会社グローナビを設立し、代表取締役社長に就任。2009年に同大学院事務局長を経て、専任教授としてデジタルテクノロジーを活用した教育イノベーション「EdTech」の研究実践および学生の指導に携わる。2017年、一般社団法人教育イノベーション協議会を設立。2021年4月同大学学長補佐に就任する。そのほか、教育に関する国の委員や全国の教育系起業家の育成にも携わっている。


小池 晴子(こいけ せいこ)
教育事業本部 執行役員 本部長 兼 ダイバーシティ&インクルージョン推進担当
北海道札幌市出身。子どもの頃から自分で手を動かしてモノを作ったり、ヒラメキとアイデアで身の回りのちょっとした困りごとや使い勝手を工夫をするが大好き。アイデアとモノづくりという文脈で福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社。22年間さまざまな企画開発に携わった後、もっとヒラメキとデジタルテクノジーの掛け合わせをしたくなりEducaion Technologyのベンチャーを経て、2017年にアドビ入社。「クリエイティビティとは人間の創意工夫のこと」が信条で、次世代と日本社会をデジタルxクリエイティブでよりよくしていくことにパッションを持っている。



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