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アドテク戦略から見る・2016年アメリカ大統領選挙

アメリカの大統領予備選挙が盛り上がりを見せています。

かつて、現大統領のオバマ氏が総勢200名のデジタルマーケティングチームと、16億円の予算を投じた大型デジタルキャンペーンを展開したという記事が話題となりました。

時が移り、現在の候補者のアドテク活用状況はどうなっているのでしょうか。

過激な発言をはじめ、何かと注目を集めるトランプ氏(Donald Trump)と、対抗馬として注目を集めるクリントン氏(Hillary Clinton)のサイトを、今回は比較していきたいと思います。

両氏の公式ウェブサイトに実装されている主な「タグ」から、その違いを読み解いていきましょう。

※調査にはGhosteryを利用しました(2016年5月5日現在の結果)。また、厳密にはアドテクの範疇に含まれないものもありますが、ご了承ください。


トップページ

トランプ氏のトップページ

王道のGoogleやTwitter、Facebookというシンプルな様相です。


クリントン氏のトップページ

対して、クリントン氏は日本のマーケターの中では馴染みの少ない「Adconion(Amobeeにより買収済)」や「Underdog Media」等、多岐に亘るソリューションを駆使しています。

また、興味深いのはA/Bテストツールの「Optimizely」を活用している点。キャンペーンと絡めて、サイト自体の継続的な改善を図っているようです。


献金ページ

公式サイトが果たす大きな役割は、支援者からの寄付金を募ることです。

先述のオバマ氏は選挙戦で600億円以上の献金を集めましたが、その大半はオンラインでの小額献金だったそうです。

それでは、資金集めの肝となる献金(donate)ページの状況を見ていきましょう。

クリントン氏の献金ページ

2種類ほど減っていますが、トップページの構成と、ほぼ変わりません。


トランプ氏の献金ページ

それに対して、トランプ氏は大きく様変わりしています。

先ず、DMP専業ベンダーの「Lotame」のタグが新たに埋め込まれています。

ちなみに、(*1)Lotameは選挙向けのマイクロターゲティングキャンペーンを手がける「Targeted Victory」社と提携し、スイング・ステート(選挙結果の予想がつきづらく結果が揺らぎやすい州)のマーケティングに活用されているそうです。

その他に興味深い点としては、オンボーディングサービスの「LiveRamp」を活用している点。

(*2)オンボーディングとは、オフラインの顧客データをデジタル化し、オンラインと接続可能な状態にすること。

オフラインのユーザーデータをセグメント化し、DMPとの連携やアドネットワークへの配信に利用していると推測されます。

更に「AddThis」、「Datalogix」(いずれもOracle傘下)からのサプライデータも統合し、かなり高度なキャンペーンを設計・運用しているようです。

また、アドテクではありませんが、決済が伴うページの安定稼働を目的として、「Honeybadger」や「New Relic」を利用している点も見逃せません。

ちなみに、 トランプ氏のデフォルト献金額は$10〜$2,700に設定されています。対して、クリントン氏は$3〜250。この辺りの戦略の違いも面白いです。


人材戦略

高度なデジタルキャンペーンを設計・運用する、人材に関してはどのような布陣で臨んでいるのでしょうか。

早速、Linkedinで「Hillary for America」を検索してみましょう。

各人の経歴を見ていくと、タレント揃いだということが一目瞭然ですが、代表的な方を記載します。

Stephanie Hannon(CTO)

Googleにてcivic innovation、social impact領域のプロダクトマネジメント担当役員。

Eurry Kim(Senior Analyst)

Facebookでは、広告プラットフォームとしての効果を科学的なアプローチから検証。

Kyle Rush(Director of Engineering and Optimization)

以前はオバマ氏のチームで献金プラットフォームを担当し「Optimizely」にも籍を置いていました。

Rush氏のオバマキャンペーンにおけるOptimizely活用事例レポートも大変参考になります。


クリエイティブ戦略

キャンペーンにおけるクリエイティブはどうでしょうか。バナーに焦点を絞って見ていきましょう。

トランプ氏のキャンペーンバナー

キャッチやボディこそ異なれ、パターンとしてはやや少なめです。


クリントン氏のキャンペーンバナー

デザイン違いを含めて、相当なパターン数が用意されています。

先に触れた”Google Dynamic Remarketing”を筆頭に、媒体やオーディエンスによってクリエイティブを細かく出し分けているようです。

別候補のサンダース氏との引き合いになりますが、digitalmarketer.comの分析記事で、クリントン氏のバナーは100種類以上存在すると確認されています。

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いかがでしたでしょうか。

一般ユーザーの目には見えない「タグ」という部分から着想し、両氏の戦略やカラーの違いを感じとることができました。

個人的には、組織編成を含めて、層の厚さを感じさせるクリントン氏のデジタルキャンペーンには学ぶ点が多いと感じました。

大企業並の巨額のキャンペーン予算が動く選挙戦は、デジタルマーケターにとってはまさに勉強の宝庫ですね。

追記:「Innovation Nippon」という国際大学とグーグル社の共同プロジェクトの研究報告書にて、本記事より出典いただいております。
テーマは、米国大統領選挙に見る「ITと選挙」のイノベーション。(P21〜24の広告技術の高度化について)
とても読み応えのある内容ですので、特にマーケターの方は是非ご一読下さい。

http://www.innovation-nippon.jp/reports/2016IN_Report_IT_and_Election.pdf


参考情報

この記事は、数年前にオバマ氏のアドテク戦略を考察した、Fringe81 田中弦社長のブログの切り口がとてもおもしろく、そこからヒントを得て書かせていただきました。是非あわせてご一読ください。

(*1)横山 隆治氏 菅原 健一氏 草野 隆史氏[著]:顧客を知るためのデータマネジメントプラットフォーム DMP入門 - DMP専業者の事例項 より参考

(*2)MarkeZine編集部[著]:Acxiom、オフライン顧客データをデジタル化するLiveRampの買収完了、アジアで展開強化 より引用

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