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私の純猥談 超短編「東京の夜」

妬ましい感覚に陥ったのは、この蒸し暑さが原因なのだろうか。
東京は今日も蒸し暑い。
お袋は顔を見せにこいだの、孫が見たいだの喧しい。
心配させてんだって事は、わかっているつもりだ。
そもそも、俺だってこんなはずじゃ無かった。
弱虫だってわかっている。俺はスーパーマンにはなれないし。
誰かを守るヒーローって柄でもない。主人公にはなれないんだ。
半年前に突然現れた君に、直ぐに取り憑かれた様な気分になった。
周りが見えない位に、君も俺しか見えてないって言っていた筈なのに。
何故、今は不機嫌になる君を宥めているんだ?君の本心がわからない。
それでも笑わせたいから、馬鹿なふりをしてふざけるんだ。
どうやったら、君の機嫌を損ねないか、それだけを考えてしまう。
君との関係は平等の恋愛じゃなく、俺の一方的な片思いだ。
そんな筈じゃ無かったと嘆いても、俺のことなんて君の目に映っていない。
粗方、他の男の事でも考えているんだろう。嘆いても仕方ない。
君の細く白い首筋と、細いウエストが俺をグッと締め付ける。
こんな筈じゃ無かったと嘆いても、もう遅い。後の祭りだ。
頭で警鐘が鳴り響く、それでも腰の動きも止められない。
君の声が昂る度に、俺の気持ちも昂って行く。
こんな筈じゃ無かったのに。後悔しても、先はない。
東京の夜は物悲しい。妬ましい気持ちになったのは、
彼女への気持ちが褪せたのか、俺が怠慢だったのか。
吐いた煙に問いかけても、聞こえるのは寝息だけだ。
東京の夜は、煩わしい。

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