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エロ体験談 NO.2 某ダンサー似営業マン 出会い編

彼と出会ったのは、友達の紹介だった。
正確には、世界的に有名なDJが回すと聞いて集まった時にいて、紹介されて知り合った。
当時の私は、結婚する予定だった男に浮気をされ、失恋した直後だった。
本当は何かイベントに参加をする気分ではなかったのだけれど、悪友の葵に押し切られる様な形で、参加が決まった。
「失恋には新しい刺激」が良い薬になるという、葵の妙案だった。
共通の友達と、葵が「まどかを元気つける会」なるものも発足していた。余計なお世話である。
確かに失恋はしたけれど、私の価値は下がってないぞと伝えたい。
まぁ、葵と他の友人らの優しさなのだろう。残念ながら、チケットや日程の都合で来られないメンバーが出てきてしまった。
それでも、せっかくだからと失意?の中でも、参加を決めた。
なんやかんやあっても、当日は何を着ようか、お揃いにしようかなんて、計画を立てた。これもまた一興。

せっかくのイベント、女盛りの私達は目立ちたいと意気込んだ。
メイクにも余念を欠かさないし、気合いも十分だ。
コンセプトを決めて、洒落込むのも中々楽しい。お洒落を最大限楽しめていると、なんだか無敵で、怖いものなんて無くなっていくような錯覚にも陥る。
余談だが、女性が元気な国は素晴らしいと思う。特に若い女性が、心から笑えている国は幸福度が高そうにも思える。

当日は、イベント会場の最寄りで待ち合わせした。総勢10数名という中々の大所帯だった。

というのも、お目当てのDJが回し始めるまでは、かなりの時間があった。早く集まったのは、酒を飲む為でもある。こんな日は、アルコールの力を借りて気分をあげる他ない。
私も葵も蟒蛇である。気合いを入れないわけがない。勿論、先飲みソ○マックも仕込み済みだ。
温度が上がれば、ビールや他の酒の消費が増える。
飲酒を楽しんでいこうという気しかないみたいだ。でなければ、わざわざこんなにも早く、集まらない。

この日は大体が、初めて集まるメンツだった。
男性側の一人は元々からの知り合いだ。私に、色々教え込んだ先輩で、飲み仲間である。
他は、先輩の女友達数人と、親友と紹介された男がいた。そして、私の友人の葵がいた。

会場の近くに居酒屋があり、全員で乾杯した。段々とお酒も周り、大盛り上がりだ。
そしていつの間にか、みんなで話していたのが個々で話をするようになっていた。
私の隣には葵がいて、その横には先輩の親友が座って来た。

先輩とその親友は、私達より3、4個上だと言っていた。見た目は、黒髪に好青年の営業マンといった出立ちだった。
顔は、某イケメンダンサーにそっくりだ。

「まどかちゃん、乾杯しよう」

そう声をかけてきたこの男に、最初から興味がなかったのかと問われたら、そんなことはない。
多少の下心はあった。見た目が、とにかく好みだったからだ。

「乾杯」

カチャッとグラスが重なる音が響く。私は、喉を鳴らして酒を流し入れた。

「まどかちゃんって、見た目と違って良く飲むんだね」

褒めているのか、よくわからない言葉に少し困惑した。

「あ、貶しているわけじゃないよ。ギャップがいいなって思って。あ、俺、秀春。良かったら仲良くしてね」

そういうと、また乾杯を催促された。

この男は人当たりがよく、酒を飲ませるのが上手いことがわかった。とにかく気配りができ、周りのことも良く見ているのだ。
酒が足りてないと、わざわざ注いでくれたり、会話に飽きさせない配慮がしてあったり。先輩の親友という立場がなければ、本気で狙いたかったのにと思った。

この男ともっと話をしていたかったが、大所帯でもあるから、ずっと話しているには無理があった。
少し、名残惜しい気もしたが私は他のメンバーとも酒を酌み交わした。

そして、陽が傾くにつれて、メンバーのボルテージも上がってきた。
DJが回し始めるまで、もう少しというところで、私は酒に酔った先輩に絡まれた。
どうやら、私が先輩の親友に色目を使ったと、言いがかりを付けたいらしい。
何を勘違いしたのかわからないし、意味がわからなかったけど、先輩は激怒していた。喧嘩になるものの、周囲が何とか一緒に収めてくれた為、すぐに鎮火された。
突然の言いがかりに、ものすごく腹が立つのと、めんどくさくなって帰ろうか確認しようとした。しかし、私が帰るのも違うなと思い、最後まで楽しんでやろうと意気込んだ。

いい頃合いなので、私たちは会場へと移動を始めた。女子全員で、撮影したりしながら会場まで歩けたので、少しは気が晴れた。これがなかったら、きっと最悪な感じで過去を、振り返らなければいけなかった筈である。
女子メンバーには、感謝である。(正直、イベントは同性だけでいった方が毎回面白い)このメンバーで違うイベントに参加しようと約束するくらいには、仲良くなれた。
先輩とその親友は、私たちの撮影の手伝いをさせられていた。私と先輩の険悪ムードは収まらなかったので、ずっと無視した。

会場に着くなり、ロッカーに荷物を入れる。なるべく軽装になる為に、不必要なものは全てここにおいていく。私たちも、どんどん身軽に、そして大胆な装いに変える。お祭りはここからなのである。
全員で会場入りし、まあまあな位置に陣取った。刻一刻と迫る歓喜の瞬間に、胸も高鳴った。
真っ暗な会場に、ド派手なDJブースが置かれている様は、今か今かと、待ち侘びている様だ。

そして、ドーンっと低いベースの音が鳴り響いた。いよいよ、開始の時である。
一瞬気を抜いた、その瞬間。誰かが私の手を掴んで、一気に前方までつれていった。
あまりのスピードと、思っても見なかった事態に頭が追いつかない。

「軽すぎて、びっくりした。羽でも生えてんの?」

私の手を持って、走り出した主の声がした。今度は、体を受け止めてくれる体勢になっていた。そう、うまく抱き寄せられているような体勢で私は声の主の腕の中にいた。

「え…..?」

突然の出来事に驚きすぎて、一瞬何が起きたのかわからない。
でも次の瞬間には、あたりが真っ昼間のように明るくなって、状況も照らされた。
お目当てのDJが登場したのだろう。耳を塞いでしまいたくなるような程の、大歓声も上がる。

声の主は秀春だった。歓声が上がって、みんなが飛び跳ねているのに、私たちはその体勢のまま時が止まったように、その場に佇んでいた。

そして、秀春は私の体をグッと抱えて人目も憚らず、唇を押し付けてきた。

「あいつの事は、どうでも良いから踊ろう」

キスの意味を訪ねようか悩んだが、何だか野暮な気もする。普段だったら、こんなキスは嫌いだ。
でも、どうして嫌がらなかったのか、気がついているようでわからなかった。
この男を試してみたいと、思ったからだろうか。

私はただ、頷いて画面に大きく映し出されたDJの顔を初めてみた。
そして、まるで何事もなかったように、爆音に身を委ねる事にした。

今夜は酔っている。DJも最高のパフォーマンスをしている。
それだけでも、言い訳にするには充分な筈だ。


私たちは限られた時間を、精一杯楽しもうと、出す力を惜しまなかった。
でも、グループで来ている以上、このまま過ごすわけにもいかない。
惜しい気持ちもあったが、私達はみんなのところへ帰った。
陣取った場所に戻ると、私を見つけた葵がニヤッと笑ったのを見逃さなかった。

こういう時のあいつの勘は、侮れない。間違いなく気が付いているし、目で合図を送ってくる。
それでも、葵以外の他メンバーは気が付いていない様で、私と秀春は何食わぬ顔で中に合流できた。

すると、一息つくまもなく、葵が「どこ行ってたのか、ビールを奢って貰いながら聞きましょうか」と催促するから、そのままバーカウンターまで逃げた。

人もまばらなカウンターで、お酒を注文しながらも尚、葵はニヤニヤしている。

「さて、聞かして貰おうか?ん?」

「と、言いますと??」

「とぼけても無駄なの、わかるよね?私とまどか、一体何年の付き合いだと思っているのかな?」

「はい。仰せのままに。」

私は、簡単に今さっき起きた事を伝えた。キスの話は、何だか秘密にしておきたくて、話さなかった。
一通り聞いた葵は、「気しかねーだろ」、と笑った。「こんなわかりやすい好意もなかなかない」と茶化してみせた。
どうするの?
と尋ねられたけど、私は上手く答える事が出来なかった。
私が大失恋をかましてから、葵は少し過保護になったように思う。常に心配してくれているのだ。茶化して見せたのも、私を気遣っての事。本当に有難いと思っている。

「そろそろ、これ持って戻ろう」

飲みかけのお酒を抱えて、メンバーの元へ戻った。どうやら、次の計画を練っているようだった。
そこに、先輩がやってきた。

「まどか、お前はどうすんの?次行くの?」
妙に喧嘩口調の先輩に、嫌気が差した。葵に目配せをすると、静かに頷く。
大体こういう時は、私の好きなようにしていいと言ってくれている合図だ。

「いや、気分悪いから帰ります。今日はありがとうございました。これで失礼します。」

正直喧嘩した手前、相手が喧嘩腰というのもあって、捨て台詞を吐いてしまった。
それ以上は、何も語らず他のメンバーへ挨拶をして回った。
どうやら日中からの、大宴会にみんなヘロヘロで、このまま解散する流れになるようだった。
私と葵は、二人で飲み直す気満々だった為に先に会場を出て、荷物を受け取りにロッカーまで戻った。
その際、追いかけてきた先輩が何か言いかけたけど、気が付かないふりをした。
秀春とは目が合ったけど、私はそれすらなかった事にした。わからない。
この時の自分の感情がわからなかった。
でも、追いかけてこないなら、追う必要もないと思ったのだ。
恋愛にタイミングが肝心だと、先人達は言うけれど、それもあながち間違ってはいないのだろう。私も、タイミングが合わなければ、どうでも良い人になるのだ。

会場の外は、さっきまで夢の中にいた住人達で溢れていた。まだ、燃焼しきっていないからなのか、余韻にひたっていたいのか、各々が酔っているような感覚が心地よかった。
私の耳の裏でも、先程かかっていたお気に入りの曲が鳴り止まない。
それは葵も一緒だったようで、口を開くまでしばらくかかった。

「まどか、今日楽しかった?」

「楽しかったよ。葵は?」

「私も楽しかったよ〜あの先輩は、困ったね。なんで、機嫌が悪かったのだろう?」

「さぁ…な、」

私が全てを答え終わる前に、葵が歩みを止めた。

???「君たち、何してんの?」

???「イベント?何、何〜?」

突然現れたのは、30代中程のサラリーマン二人組みだ。ナンパである。楽しかった気分に水を刺された様で、一気に気分が悪くなった。
答えるのも馬鹿らしくて、ただ黙った。こういう輩は話すとつけあがるので、無視を貫くに限る。
それは葵も同じ考えだったらしく、私たちは無視を決め込んだ。しかし、相手も手強い。距離を詰めてこようとするし、私たちが無視を決め込んでいるのもお構いなしに話しかけてくる。
行くても塞がれて、どうしようか考える。
最悪、拳で解決してやろうかとも思ったが、相手は成人した30代くらいの男二人。私一人なら逃げるくらいはわけないが、葵がいるからそれは難しい。
どうしようか考えていると、

「おい、邪魔だよ。俺らの女に、ちょっかいかけんのやめようや」

大きな影が二つ。私と葵を、サラリーマンから引き剥がしてくれた。
そのうちの一人は、ちゃっかり私の腰に手を回している。
あまりの気迫に、サラリーマンは何も言わずに去っていった。
このヒーローの正体が、先輩と秀春だなんて思わなかった。

「おい、お前ら大丈夫か?変な男に声かけられてんじゃねーよ。」

先輩はまだ喧嘩腰だった。
すると、秀春が声を出して笑った。

「お前こそ、良い加減にしろよ。まどかちゃんと葵ちゃんの事が心配で、わけわかんない感情になってんだよ。」

「「え??」」

私と葵が思わずハモった。綺麗に、ハモった。驚き過ぎたのだ。

秀春が言うには、当日の私達が目立ち過ぎていて、知らないところで狙われているのを先輩は先に気が付いていた。そして心配し過ぎた為に、訳のわからない感情になって、おかしな態度をとってしまっていたらしい。それを暴露された先輩は、少し罰が悪そうにした。

「申し訳ない。このまま、まどかと葵ちゃんを帰すわけにはいかないから弁明する時間と、飲み直す時間が欲しい。」

私は、今度は葵に目配せを送った。次は葵に委ねる番だったし、大体こういう時は成り行きに任せる方が面白いのだ。

「先輩方の奢りなら、謝罪を受け入れましょう」

葵がニヤっと笑って云う。
先輩と秀春は、笑いながら承諾した。


私たちは、場所を変える為に電車に乗って移動した。他愛もない話をして、今日はどうだったとか、次は誰のイベントに参加するだの、本当に何でもない話しかしなかった。
私は、忘れかけていたキスの意味を考えていた。電車の外を見ようと視線をずらした時、窓越しに秀春がこちらを見ている事に気が付いた。
顔が赤くなった気がして、急いで気が付かないふりを決め込む。それでも、窓越しの視線は私を捉えて離さないようだった。
恋愛経験はそこそこあるつもりでいたのだが、どうやら私はこういうシチュエーションに弱いみたいだ。慣れていないのがわかるだろう。
やはり私には遊び慣れている女は、演じきれないみたいだ。秀春の視線に、体中が熱を帯びて行くような感覚に陥った。
大好きな曲を聴いて、なんだか甘美な気分になった時と似ている気がする。
出会いはこの瞬間を楽しむのが、醍醐味であったりもする。

私達の新たな会場は、電車を乗った先にあるおしゃれなダイニング&バーだ。
席に案内されるがまま、生ビールを注文し、料理が決まる前には全員の手に生ビールのジョッキが握られていた。流石のパリピと、いったところだろうか。

「「「「乾杯!!!!」」」」

傾けられたジョッキが、軽快に音を鳴らす。喉にグッと力を込めて、キンキンに冷えたビールを一気に流し込む。
まさに、至福の時だ。4人とも、一気にジョッキのビールの大半を飲み干す。
そして、適当なつまみと酒で、何度も乾杯をした。
話は、先程までのイベントで十分だった。

一日を通して喧嘩腰だった先輩も、流石に上機嫌になってきた。
「おい、お前らが次大丈夫なら。カラオケ行こうぜ。」

こういう時の先輩の誘いは、いつもなら面倒くさくなって、断ってしまうのだが。
今日は、葵と相談して行くことに決めた。
その間、葵はこちらを見てニヤニヤしていた。言いたいことは、よくわかっていた。

ノリと勢いだけで、カラオケに来た。これは、もう朝までオールするしかなくなった。終電が無くなってしまったのだ。
最初はカラオケを楽しんでいたのだが、こういう時は大体が弛れるのが常である。
だんだんと、歌う時間よりお喋りをする時間が増えてきた。

私は、お手洗いへ行こうと部屋を出た。
事を済ませ、部屋に戻ろうと扉を開けるとそこに秀春が立っていた。
どうやら、煙草を吸いに出て来たらしい。
私の姿に気がつくと、ニコッと笑い、手招きをしてきた。私は素直に、それに従う。

「煙草、吸うの?」

「ん?煙草、吸う男ってまどかちゃんは嫌いなの?」

「そんな事はないよ?私は吸わないって、だけで。」

「吸ってみる?」

差し出された煙草を一口、ゆっくりと煙を吸い込む。肺に入った煙が、肺を押し潰そうとして来た。
むせると、秀春は笑って自分も吸い込んだ。

「一気に肺に、入れすぎなんだよ。」

優しい声で言われて、一瞬ドキッとした。それでも、それ以上距離を縮めてくることは無かった。私も、どうもしなかった。


始発の時間を待って、カラオケを後にした。少し明るくなった薄暗いブルーの空をみると、なんだかとてつもなく悪い事をしている気分にもなる。駅につくと、各々の路線に散らばった。

「「またね」」

「「おう、またな」」

それぞれが、また更に別れた。私も葵と簡単な挨拶をして、帰る方へ歩き始めた。
この時間、人がまばらだし、なんだか異様な雰囲気がした。

「待って」

突然呼び止められた。秀春だった。息を切らしている。

「どうしたの?」

「このまま帰ったら、後悔するから。連絡先を教えて欲しくて、あいつに頼むんじゃなくて、自分が聞きたいから追いかけてきた!」

実直な言葉に、グッときてしまった。そんな風に言われたら断る方がどうかしている。二つ返事でOKした。

私の帰りの足取りは、いつものオール時より違った。それも、大幅に。
この新たな出会いに期待をして、まだ誰もいない改札を出ていく。
そして、いつもと少し違う朝、いつもの街に戻ってきた。

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