VRゴーグルの教育的効果

冒険家の皆さん、今日も異世界に召喚されていますか?

さて、 昔モンゴルで冬の雪道を車で走っている時に、急に後輪がドリフトをし始めたことがあります。 僕は「またか」と舌打ちして、いつものように流れに逆らわず、ドリフトしていく方にハンドルを回しました。流れに逆らうと簡単にスピンしてしまうんですよね。そしていつもの通りすぐに車は安定し、まっすぐに走り始めました。

そしてその後に気がついたのですが、実は僕がドリフトを経験したのは、当時ハマっていた「リッジレーサー」というPS2のゲームの中だけだったのです。現実の世界でドリフトに対応したのはそれが初めてでした。しかしその瞬間はそれが初めての経験であるなどということは気づきもせずに普通に対応していたのです。

実はこのような現象はいろいろなところで観察されていて、例えば以下のビデオでは VR で練習したらバッティングセンターで打てるようになったという経験が紹介されています。

【衝撃】VRでバッティング練習したらリアルでも打てるようになるの? - YouTube 


この動画の中でチャンネル主は「技術面よりも精神面での成長がすごい」と言っていて、ここでは「剛速球が自分に向かって飛んでくる恐怖に慣れることができた」という話なのですが、これはもちろん外国語を話す時の学習者不安などにも該当する可能性があるのではないかと思います。

【すでに実証されている教育的効果】

学術的にもVRの教育的効果は確かめられていて、例えば以下の動画では、メリーランド大学の研究で、VRはフラットな画面で見るよりも9%も正確に記憶でき、思い出すのにかかる時間も12%短縮されるという結果が紹介されています。
Can Virtual Reality Change Your Mind? | Thong Nguyen | TEDxMinneapolis - YouTube 


(5分ちょうどあたりをご覧ください)

それでは第二言語の習得において効果はあるのでしょうか。
以下の研究では、中国語の語彙習得において、VRは従来の教え方よりも特に成績下位層に有意な差があるという結果が出ています。上位層にももちろん教育的効果はあるのですが、彼らは従来の方法でも同じぐらい覚えられるのに比べて、成績下位層は従来の方法よりも効果が高いことがわかったのです。

”Immersive Virtual Reality as an Effective Tool for Second Language Vocabulary Learning”
https://www.mdpi.com/2226-471X/4/1/13/pdf

なお、ここでいう「immersive」というのは「没入型の」という意味で、基本的には VR ゴーグルをかけて参加するような体験のことです。ただし、360°全方位をスクリーンにした特殊な施設などでの体験を「没入型」と表現することもあります。没入型でない VR と言うと、テレビやパソコンのモニターに表示するタイプの VR もあります。

没入型でないタイプの VR に関しては、日本語教育に関しても研究が進んでいて、Twitter でも積極的に情報発信をしていらっしゃるトレド大学のKasumi Yamazakiさん(@KasumiYamazaki)がいますよね。以下の2本の論文がオンラインで読めます。(二つ目は要約のみです)

"The Effective Use of a 3D Virtual World in a JFL Classroom: Evidence from Discourse Analysis"
https://www.academia.edu/39145435/Yamazaki_K._2019_._The_effective_use_of_a_3D_virtual_world_in_a_JFL_classroom_Evidence_from_discourse_analysis._In_E._Zimmerman_and_A._McMeekin_Eds._Technology_supported_learning_in_and_out_of_the_Japanese_language_classroom_Pedagogical_theoretical_and_empirical_developments_pp._227-251_

What happens when Japanese language learners take a course entirely in a 3D virtual world?
https://oasis-database.org/concern/summaries/8c97kq41f?locale=en
(VR の世界で「オアシス」と言うと、「レディプレイヤーワン」に出てくる巨大なバーチャル空間を思い浮かべる人がいると思いますが、もちろん関係ありません(^^))

Yamazakiさんのご研究はまだ VR ゴーグルが高価だった時代に行われたものですが、没入型の VR にもご関心があるようですから、日本語教育における没入型 VR の教育的効果などについても実証実験が今後が進んでいくものと思います。

【エンターテイメントの世界ではすでに普及している】

没入型の VR では本当に全く違う世界を体験することができるので、エンターテイメントの世界ではもうすでに実用段階に入っています。

以下の動画はかなり大掛かりな施設の中で、恐竜の時代を体験してみるものです。あまり精密なモデルではないように思う人もいるかもしれませんが、両目で立体的に見られるということと、360度全部がその世界なので、あまり気にならないのではないかと個人的には想像しています。
ABAL:DINOSAUR(アバル:ダイナソー) - YouTube 

最後の子どもたちの表情がいいですよね。

こうした施設は世界中にあって、僕の住んでいるカナダの地方都市にも何軒もありますし、もちろん日本の大きめの都市ならほとんど体験することができます。

しかし、こうした施設とは別に、また別の記事で書こうと思いますが、 単体の VR ゴーグルも普及段階に入っていて、それで遊べるゲームも多種多様なものが発売されています。レーシングやシューティングやダンス、謎解きなど本当にありとあらゆるゲームを楽しむことができるのです。
Top 10 Best Oculus Quest Games Reviewed - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=QSt2aQ_xb5g


【ビジネスの世界では教育用途で導入されている】

このようにエンターテイメントの世界ではすでに普及段階に入ったと言えると思いますが、教育の世界ではまだ導入が始まったばかりで、普及段階とは言えませんよね。しかし、企業研修などではもうかなり広く使われ始めているようです。少なくとも、 VR で企業研修を行う専門の企業が採算が取れるよ程度の市場規模はあるようです。以下の企業はそのうちの一つです。

STRIVR | Immersive Learning & Training in Virtual Reality https://www.strivr.com/

この企業のサイトの中には顧客の一部を紹介するページがありますが、これを見るとかなり大手の企業から研修を受注しているのが分かります。
Customers | STRIVR - Immersive Performance Training https://www.strivr.com/customers/

発注企業の中でも最も規模が大きいのはおそらくウォルマートで、そこでの研修の様子が昨年11月にニュースになったのでご紹介しましょう。
Walmart uses VR for Black Friday training - YouTube 

ご覧のとおり、これは実写型のVRなので、その世界の中に入ってあたりを見渡すことはできますが、その世界の中で動くことはできません。(こういうVRは「3DoF」と呼ばれています)

それでは外国語教育の世界において、実際に VR はどの程度使われているのかと言うことを書きたいのですがちょっと長くなってしまったので、この続きは次回にしたいと思います。

そして冒険は続く。


【参考資料】

【衝撃】VRでバッティング練習したらリアルでも打てるようになるの? - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=77CbFiqV-hE

(8) Can Virtual Reality Change Your Mind? | Thong Nguyen | TEDxMinneapolis - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=eFHj8OVC1_s

"The Effective Use of a 3D Virtual World in a JFL Classroom: Evidence from Discourse Analysis"
https://www.academia.edu/39145435/Yamazaki_K._2019_._The_effective_use_of_a_3D_virtual_world_in_a_JFL_classroom_Evidence_from_discourse_analysis._In_E._Zimmerman_and_A._McMeekin_Eds._Technology_supported_learning_in_and_out_of_the_Japanese_language_classroom_Pedagogical_theoretical_and_empirical_developments_pp._227-251_

What happens when Japanese language learners take a course entirely in a 3D virtual world?
https://oasis-database.org/concern/summaries/8c97kq41f?locale=en

ABAL:DINOSAUR(アバル:ダイナソー) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aD-2rKLUqZk

Top 10 Best Oculus Quest Games Reviewed - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=QSt2aQ_xb5g

Customers | STRIVR - Immersive Performance Training
https://www.strivr.com/customers/

【『冒険家メソッド』と電子書籍「むらログ」シリーズを購入して海外にルーツを持つ子どもたちを支援しよう!】

2014年以降のこのブログの内容はKindle本にもまとめられています。2019年中にこちらの本をご購入になると、その収益は全額が「海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人YSCグローバル・スクールに寄贈されます。ココ出版の『冒険家メソッド』は初版の本体価格の5%が同センターに寄贈されます。
https://amzn.to/2RiNThw

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

ありがとう! 冒険が待ってるぜ!
4

冒険家むらかみ

冒険家、日本語教育コンサルタント。 『冒険家メソッド』『しごとの日本語 IT業務編』の著者。 「むらログ 日本語教師の仕事術」管理人。発言は所属機関とは何ら関係がありません。未来につながる語学学習の情報を発信中。二人のホームスクーラーの父。

むらログ

1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。