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コンテンツから第二言語を学ぶならファンタジーのほうが無難かも

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

ハリーポッターなどのファンタジーを外国語で読むことに対して、その世界にしか存在しない特殊な用語が使われていて、それらは辞書では調べることができないのでファンタジーは難しいという主張があります。実際それはもっともだと思う時もあります。

しかしその一方で、ファンタジー世界が舞台になっているコンテンツでは、それらの用語はそのコンテンツの中で説明されているという利点があります。ですので、自分のレベルに合った内容を読んでいる限り、それほど大きな問題にはならないように僕は認識しています。

なぜこのようなことを考えたのかと言うと、いま僕はアメリカのテレビドラマの「スーツ」というのを見ているからです。日本でも織田裕二が主演でテレビドラマ化されたようですね。

このドラマでは、登場人物も視聴者も、同じ世界を共有していることが前提になっているので、このドラマの外の世界から色々な引用があるのです。

例えば先日見たエピソードでは登場人物のタクシー運転手が本名ではない「Atticus Finch」という名前で呼ばれていました。僕は知らなかったので検索してみたところ、1960年に出版された小説「アラバマ物語」に出てくる弁護士の名前であることがわかりました。このタクシー運転手は弁護士ではないのに非常に弁が立つので、主人公がそれを皮肉ってそのように呼んだわけですね。

また、同じエピソードの中で、そのタクシー運転手が「I take the fifth.」というシーンがありました。直訳すると「5番目をとる」という意味ですから、語彙としては全然難しくありませんよね。場面としては裁判のただ中で、文脈から僕は何の事だったかよくわからなかったのでこれも Web を検索してみました。そうすると要するに刑事裁判などで、自分に不利な証言をすることを拒否するという意味らしいということがわかりました。

I take the Fifth - Idioms by The Free Dictionary https://idioms.thefreedictionary.com/I+take+the+Fifth

このようなことが起きるのは、このドラマが現実世界を舞台にしていて、主な視聴者もその現実世界に生きているのに対し、僕のような一部の視聴者のみが別の文化的背景を持っていて、こうしたことが共有されていないということが原因です。そうした意味で、現実世界を舞台にしたドラマは、異なる文化的な背景を持っている学習者にとっては意外と難しいところがあるように思います。

その一方で「ゲームオブスローンズ」のような異世界を舞台にした物語では、このようなことはありません。といっても、確かに現実世界には存在しないような変わった言葉もたくさん出てきます。

例えば、「Dragonglass」というのは黒曜石のような石材で、ゾンビを倒すことのできる特殊な力が備わっていますし、「Valyrian steel」というのはすでに滅びてしまった民族が持っていた技術でしか作れない特殊な金属で、これもゾンビを倒すことができる特殊な材質です。

しかしこうした言葉については、英語学習者だけではなく、一般的な視聴者ももちろん初めから知っているはずがないので、そのドラマの中で説明されるのです。視聴者を代表する若者に対して年配の登場人物が明示的に説明することもありますし、もっとさりげなく少しずつ分かってくるような場合もあります。

それが、現実世界を舞台にしたコンテンツにおける「Atticus Finch」などのような表現との大きな違いです。これらはすでに視聴者が知っていることを前提にされているので、 Web を検索したりしないと、どのようなニュアンスでそれが発言されているのか、英語を母語としない学習者は理解することができません。つまり、ドラマを見ているだけで想像するにはかなりの無理があります。

といっても、現実世界を舞台にしたコンテンツならこのようなことが頻繁に起きるのかと言うと、そのように言い切れるわけでもないようです。例えば先日僕が観終わった「ブレイキングバッド」という俺も非常に有名なアメリカのテレビドラマでは、このように他のコンテンツからの引用というのはほとんどありませんでした。

ですので、現実世界を舞台にしたコンテンツの方が必ずしも難しいと主張するつもりはないのですが、コンテンツの種類によっては、単にその言語のレベルだけではなく、その舞台となる世界に関する背景的な知識がないと単純に楽しめない場合もあるということは言えるのではないかと思います。そして異世界が舞台になっていればこのような心配がほとんどないということもまた言えるのではないでしょうか。

なお、このようにコンテンツをベースにした言語教育はCBLT(Content-Based Language Teaching)と呼ばれ、教師なしで自分で勉強する場合はCBLL(Content-Based Language Learning)と呼ばれます。自分の好きなコンテンツに出てくる語彙や文法や漢字などを学びます。これは特定の行動ができるようになるための行動中心アプローチとは違いますし、それぞれのレッスンで文型を積み重ねていく文型シラバスとも全く違った考え方です。

もし日本語のコンテンツに惹かれて日本語学習を始めたような学習者にはとても効果的なので、該当する場合は皆さんもぜひ挑戦してみてください。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: 独習者の3つのタイプ 「アニメ型」
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