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ゲームの環境音でよりよい体験作り

先日、ずっと聞いていられる環境音について呟いたところそこそこ反響があったのですが、前提知識がある方が理解が深まる気がしたのでちゃんと言語化してみます。

ここに書いてある事が割と全てと言えばそうなのですが、まずはゲームの音事情を知らないとピンと来ないと思うのでその辺りについて説明します。

ゲームの音ってどのようにコントロールされてる?

鳴らすべき音のデータがあり、音を鳴らすプログラムがあり、ゲームの進行中に適切なところでその音を鳴らすように作られています。

その際シンプルな仕組みであれば、既にある音のデータを素直に再生する事になります。

環境音はどうやって鳴らす?

先ほど挙げた仕組みの場合、例えば20秒の演出であれば、20秒間の環境音を用意して鳴らせばOKです。

…が。

映像作品であればそれで間違いないのですが、ゲームの場合は演出の長さが可変である事が多くあります。

目の前に滝壺があったとしても、20秒経ったら静寂が訪れてしまいます。これは困りました。滝の近くに居る限り、音は鳴り続けてもらわないといけません。

そこで昔の人は考えました。繰り返して再生させよう!

繰り返し再生による表現力について

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エアコンの音のように淡々と同じペースで鳴り続ける音ならばともかく、不規則に様々な音が混ざり合うような音を表現したい場合、数秒程度の短い音を繰り返したところで"同じ音が何度も鳴っていること"に気付かれてしまいます。

ゲームサウンドは"ユーザーが気持ちよく熱中できる手助けをする(≒没入感を高める)"という非常に強い力を持っています。

熱中させる強い力を持っているということは、適切に演出をしてあげないとガッカリさせてしまう力も持ち合わせているのです。

世界が作り物である事すら忘れて熱中している時に、音の繰り返しに気付いてしまうことで我に返ってしまう…ここまで遊んでくれたのに機嫌を損ねてゲームを止めてしまうかもしれない。いやー、これは勿体ない!

ループ音でガッカリさせない工夫

いくつか手段があり、手軽なやつを紹介します。

長めのループ音を用意する
繰り返すまでの時間が延びることで、再び同じ音が鳴り始めても気づきにくくなります。単純ですが効果は高いです。

個人的な感覚では2分もあれば、最初の方の音なんて忘れていることが多いです。たぶん個人差あります。

ループ音の再生開始時間を変える
例えば都会の建物から屋外に出るたびに、雑踏の音が聞こえ始めるとします。

ループの中に特徴的な目立つ音(クラクションやら人の声、街頭広告の楽曲など)が含まれていると、屋外に出て同じ時間で同じ音が聞こえてくることになり、これも違和感を覚えやすいポイントです。

同じループ音でも再生開始時間を場面遷移のたびに変更する事で、特徴的な音が違うタイミングで聞こえてくるため、やはり気づきにくくなります。

表現力とデータサイズ

ループ環境音を長めのデータで用意しておくことで、表現力を補えることがわかりました。

しかし音の長さに比例して、データサイズは大きくなっていきます。

データサイズが大きくなる弊害として、スマホアプリであればユーザーのギガが減る、待ち時間が伸びるとか、極端な例であればダウンロードしてもらえないとか、はたまたSwitchなどで大容量のROMが必要になればゲームの単価が上がってしまうとか、そういうことがあるのでデータサイズは抑えておくに越したことはないですね。

そこでデータの肥大化をある程度抑えつつ、バリエーション豊かな表現を行う手段をご紹介します。

ずっと聞いていられる環境音

複数の素材を用意し、場面に合わせた環境音を作り続けるという手法が非常に効果があります。

再生する音の選び方やタイミング、音量、音程、定位などにランダム要素を足すことで無限のバリエーションを生み出し、冒頭で掲げた"ずっと聞いていられる環境音"を作り出すことができるのです。

素材のバリエーションやバランスを組み替える事で、同じ場所でも時間帯によって違う環境音というものを演出できるようになってきます。

細かく演出された例として、サウンド担当者のこだわりが非常に強く見られる"ペルソナ5におけるガヤ"を含むインタビュー記事を紹介します。

上記記事の"さらに細かいガヤの話"から抜粋

フィールド、季節、天候、時間帯があって、『春・夏・秋・冬』『晴れ、雨、花粉、豪雨、ヒートアイランド』『朝、夕方、夜』で、条件に合う音声を鳴らし分けてあります。
さらに個別に『学生、青年、中年、お年寄り』と年代毎に収録していて、あるフィールドでは若い世代が多めとか(笑)フィールドで鳴る音声を調節しています。

作り方のポイント

様々なバリエーションを作っていくために、サウンド担当者が音を作りやすい環境が大事になります。

具体的には条件別での素材の選び方、音量、音程、定位、再生タイミングなどのランダマイズ指定機能、それらを設定した後で手早く試せるプレビュー機能、などが必要になってきます。

再生機能だけではなく、リバーブなど残響エフェクトを掛ける必要も出てくることが多いです。EQやコンプレッサーといった、音を整えるための機能もあると便利でしょう。

それらの機能を全て自前で用意するのはかなり大変です。

自分は今まで何社かで内製のオーディオエンジンを見てきましたが一番大変なのは、プログラマーだけではサウンドデザイナーの気持ち(使い勝手)を想像しても、実際に手を動かしてみないことにはそれが使いやすいかを理解するのが難しいところでしょう。

そこで、自分はオーディオミドルウェアの導入をお勧めしています。
前項で紹介した記事内でもミドルウェアの機能に触れられていますが、必要なものが揃っています。

導入コストは掛かったりしますが、ミドルウェアとして提供されているものは数多くのサウンド制作者の意見を取り入れた上で改良が続けられているわけで、幾多のトラブルを乗り越えてきた歴戦の猛者なわけです。面構えが違う。

無償版のADX2LEもありますし

デモデータやチュートリアルもあります

環境音について01

↑ADX2付属のツール、AtomCraftの起動メニューからデモデータを入手できます。データを開くと、以下の画像の箇所に水滴が滴り続ける環境音のデモがあります。

スクリーンショット-2021-11-01-0.18.20

次回はこのデータの作り方、ポイントについて書こうと思います。

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