『人類滅亡後のPinocchia』の場合②

前回はチュートリアルについて書きましたが、今回はレベルデザインなどです。

・序盤でゲームの楽しさを体験してもらう
というのはこの記事にも書いた通りです。
もちろん自作品でもこういった考えでつくっています。

本作の場合は、「まだいけるはず……」「そろそろ危ないか?」と緊張感を持ちながら「前進」「撤退」の判断を迫られる、という体験を意図しています。
やればわかりますが、初っ端から結構苦しいです。
第一階層だからなにも考えず「前進」していればクリアできる、などということはありません。

応急修理の仕様。隊列の仕様。手榴弾というアイテムの強さ。
そういったものを理解していないとなかなか前へは進めないよう意図して設計されています。

「あ、アンドロイドが中破になった!」
「まずいぞ、応急修理キットがなくなってきた」
「あと10歩……行けるのか……?」

本作の面白さはそこにあると思っています。
だからこそ、第一階層からその体験をさせます。

プレイヤーは最初、一体のアンドロイドしか仲間にいません。
敵がどのくらいの数出てきて、どの程度の攻撃を仕掛ければ痛いのか。
何歩くらい進めばつらくなってくるのか。

誰がプレイしても、何度プレイしてもそのあたりはそこまで大きな変化はありません。

・とはいえ、クリアできなければ意味がない
本作は「初っ端から苦しい思いをさせる」というレベルデザインではありますが、別にクリアしてほしくないわけではありません。

「苦しみながらも、なんとかクリアしてほしい」
それが意図するとことであり、「高難易度ゲーム」ではなく「高難易度っぽいゲーム」を目指しました。

というわけで、第一階層は「進行」が80までしかありません。
当初は他の階層と同じく100でしたが、減らしました。
作者自身は楽にクリアできましたが、初見プレイヤーにとってはかなり苦しいということが分かったからです。

プレイヤーにとって盛り上がる体験として、「新たな階層への到達」はかなり大きなものだと思っています。
よって、第一階層の難易度をやや下げることで、比較的その体験を得やすいようにと意図しました。

「やった! 第二階層までは来られたぞ!」
「攻撃型がつくれる! なに、砲撃型も……?」
「あ、でも素材足りないやんけ」
「できれば新しいアンドロイドもつくってみたいな……そこまではやってみようかな……」

ソシャゲのサンクコスト戦法ではありませんが、新たな階層に到達するたびに新要素を出してプレイヤーへの報酬とすると同時に、もうちょっとプレイを続けてみる動機にしているわけです。


・新階層到達ごとに新しい要素を
プレイすればわかることですが、これも明確に意識しています。

まずはアンドロイドの種類です。
RPGにおいて「仲間が増える」というのは報酬として最大級のものだと思っています。
ソシャゲでも主な収益源は仲間キャラが増えるガチャですしね。

第三階層からは「転換炉の強化」が増え、第四階層からは「修復カプセル」と「部屋」という仕様が増えます。
ただ、後半になるにつれ「仲間」は増やしづらくなります。
終盤で仲間になるキャラは活躍する機会がどうしても少なくなってしまうからです。

そういうわけで、第五階層ではストーリー面を強化しました。

・ストーリーという報酬
本作は主に「文書」を拾い集め、その内容を読み解くことでバックストーリーが明らかになっていくという形のストーリー進行をしています。

そして、本作ではこの「文書」をある意味で「報酬」になるよう意図しています。
なにか強いアイテムだったり、強い仲間だったり、ゲームプレイ上で直接役立つわけではありません。
ですが、気になる謎が一つ明らかになったり、またさらに気になる情報が出てきたり。
それがプレイヤーにとって「報酬」として機能してくれれば、制作側としては大変助かるわけです。

なにせ、どれだけ設置してもゲームバランスにはなんの影響もないわけですから!

・敵の種類は覚えられる程度に
「敵の種類は少なく」「敵の行動パターンは単純に」

これによって、プレイヤーは「この敵なら攻撃すればいいな」「こいつらはやばい。逃げよう」などと覚えて対処できるようになります。
「手持ちのアイテムをいつ使うか」その判断も本作の面白さとして意図したところです。
敵の種類・脅威度が把握できていればこそ、プレイヤーはその判断を下せます。

また、新たな敵が出てくればそれだけで新鮮さを覚え、飽き防止になります。

さらにいえば、制作コストも抑えられて一石二鳥です。
なにせ本作の敵グラフィックはすべて描き下しですから。


・属性もないし、MPもないし、装備もない
RPGにおける「属性」の存在意義についても以前論じました。

本作のプレイ時間はだいたい初見で3~5時間です。
フリーゲームとしてはそこそこ長い方ですが、まあその程度のボリュームです。

なので「属性」は不要であると判断しました。
幸いにしてSFであるため「あれ、火属性魔法とかないの?」などとプレイヤーを混乱させる恐れもありません。
かわりに「全体攻撃」や「超強力な単体攻撃」などでそれぞれの個性を差別化しました。

また、MPという概念も排除しました。
本作ではアンドロイドをたくさん作って合計8人のパーティを組むという、RPGとしてはそれなりの大所帯で戦闘に挑みます。
となると、一戦闘あたりが長引いてしまうリスクがあります。

そういうわけで、主人公以外のキャラは全員自動行動で、その行動もシンプルにしました。
MPという概念がある場合は「MPを使って大技を出すべきか」「それともまだ温存すべきか」という判断が生じます。
その判断もまた楽しい要素ではありますが、ゲーム進行のテンポを妨げるものでもあります。

それから装備もありませんね。
厳密にいうと主人公にそれらしい表現はありますが、それ以外のアンドロイドに装備を付け替えたりはありませんし、少なくとも「どの武器がいいんだろう」「耐性を考えて防具はこうかな?」などと頭を悩ませる場面はありません。

これは「アンドロイドを解体してつくり直す」という仕様があるためです。
解体前にアンドロイドの装備を剥がす作業、めんどくさそうですよね。
というより、装備を使い回せるなら新しくアンドロイドをつくり直しても戦力的にはさほど損失ではなかったり。
なにかと噛み合わないと感じです。

要するに、「本作はなにが楽しいのか」「本作の特徴はなにか」という観点から、それ以外の要素を削り落とした形です。
いわば「引き算のゲームデザイン」とでもいいましょうか。

仮に本作が何十時間、何百時間もプレイできる超大作ならそういった要素を導入することもあるかもしれません。
ですが、本作はせいぜい数時間規模のゲーム。
そしてだからこそ、密度の高いゲーム体験が提供できたのではないかと思っています。

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