ある長期制作の思い出

僕はあるゲームの制作に三年をかけています。
「モチベーションを維持する方法」みたいな話題になると「考えたこともねェ」と勇次郎みたいな顔になりがちな僕ではありますが、このゲーム制作について振り返るなら少しは考えた方がよいでしょう。

三年かけた、といっても丸々三年ずっとその制作にかかりっきりだったわけではありません。
幾度もの寄り道がありました。

・経緯

制作開始はたぶん2013年末~2014年初頭。
一通り登場キャラの立ち絵などを用意します。
「キャラが多すぎる!」そう嘆いた僕は、「ヒロインが一人ならもっと簡単につくれるのでは?」と思い、息抜きに『黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない』を制作しました。制作期間は一か月です。

そして、こんなものをつくってしまったために歯車は狂いだし、2014年の大半を食い潰すことになります。
思わぬ大ヒットにより書籍化の話が来ました。乗るしかない!
そういうわけで、単なる息抜きであったはずの黒先輩小説版の執筆にだいぶ時間をとられました。

2014年末~2015年初頭。
さて、一段落もしたので制作を再開しましょう。
そのゲームはダンジョン探索RPGでもありました。
うーん、ダンジョン探索RPGがつくりたい(錯乱)。
そうして『カリスは影差す迷宮で』がつくられました。製作期間は二か月です。

2016年初頭。
こんなことをしている場合ではない。あれをつくらねば。
RPGツクールMVが発売されました。む、なにかつくってみたい。
短編で、さくっと、いやだめだ、お前にはつくるべきものが……待ってるファンもおるんやぞ……。
でも1マップ……1マップだけなら……。
そして『幽獄の14日間』がつくられました。制作期間は二週間です。

というより、先ほどから制作期間一か月とか二か月とか二週間とかいってますが、ゲームというのは完成して「はい終わり」ではありません。
バグ報告に向き合う時間があります。
実際にはさらに一か月くらいはその作品に時間を吸われています。
幽獄については、ましてや追加コンテンツとしてHARDモードもつくってますからね。

他にもJSで遊んだり……悪いことをいっぱい重ねながら……。
2016年末ごろには完成の兆しが見えてきました。

そして2017年。ついに発表となります。

・どうしてこうなった?

まず、単純に「コンテンツ量が膨大」であることが挙げられます。
この作品を完成させるために描かなければならないグラフィックは実に50枚以上。その上それぞれ差分があります。気が遠くなりそうですね。
テキスト量も膨大です。キャラクターが8人いて、各パターンごとに台詞があります。これがとても大変です。

どうしてこんな企画を立ててしまったのか?
僕がそんなゲームの存在を心から望んでいたからです。
そして、そんなゲームはこの世のどこにも存在しなかった。
自分でつくるしかないわけです。仕方ないね。

そして、つい寄り道や息抜きの誘惑に抗えないでいた理由としては、「フラグ管理の複雑さ」が挙げられます。
キャラが多く、キャラクターそれぞれにいわば「クエスト」が設定されており、それらを自由な順番で攻略できます。
と、いうだけでどうなってしまうかはだいたい想像がつくでしょう。
「AよりBを先に攻略したらどうなんの?」
「あれ、この場合なんか矛盾しね?」

さらには、このゲームにはいわゆる「メインクエスト」がありません
「そのクエストを攻略すればとりあえずエンディングは見られる」というものがなく、各キャラすべての「クエスト」を攻略することでトゥルーエンド、みたいな扱いです。

キャラAのクエストを制作、次はキャラBのクエスト。
あ、キャラCのイベントもつくりこもう。キャラDとキャラEの絡みも……。
あっち行きこっち行き、本当に制作が進んでいるのかまるでわかりません。地獄かな?

それだけではありません。制作を進める中、企画は当初のものより肥大化します
「隠しダンジョン、欲しくない?」
「ちょっと面白い裏設定思いついちゃったんだけど」
「こういうアイテムあった方がいいでしょ。各キャラに台詞パターン必要になるけど」
「RPGの報酬として最高のものはキャラが増えること。隠しキャラが必要では?」

つくらざるをえないんですよ。
だって、そうした方が絶対面白いし、それがなければ嘘だと、自分でそう思ったのなら、プレイヤーもまたあるはずだと、あって欲しいと思うはずなのですから。

・で、完成はした

「こんなんでよく完成したな」とは自分でも思います。
とはいえ、完成するのはわかりきっていたことなんですよ。どれだけ時間がかかるかわからないけど、完成だけはすると、それはわかってました。
「完成したら神ゲーになる」という確信だけは最初から最後までブレませんでしたから。

ただ、上記の理由から「もう少し小さな企画ならサクッと完成するのでは……?」という邪念はどうしても生じるものです。
たしかに、このゲームに比べたらサクッとは完成します。
でも一か月はかかるわけですよ? 完成したらしたでバグ報告対応にさらに一か月は追われるわけです。
それだけの時間制作をストップして、息抜きとしては長すぎやしないかと。

でもつくっちゃう。仕方ない。
「くそ、こんなことしてる場合じゃなかったのに……」
盛りついた思春期の賢者モードのように、再びそのゲームのプロジェクトファイルを開き、テストプレイをするわけです。

「は? なんやこの神ゲー? なんで完成してないの? この神ゲーを放置してたのは誰だ!」
そうして制作が再開されます。

息抜き制作で得たノウハウを活かせる場面もあります。
ですが、三年かけてつくってるゲームですよ。息抜きで新しくつくるゲームよりは設計が原始的です。

「こんなことなら一から作り直したい!」
これは、あらゆる邪念の中でもっとも邪悪なものです。
これだけは断固として退け続けました。
「クオリティアップを気にしていたらキリがない」というのは過去の反省でわかっていたからです(その作品の制作もクオリティを気にしすぎて二年かかってます)。

時間をかけてつくっていたら、初期のグラフィックなんて粗が目立って見えるものです。
でも、気にしない! 気にしたら負け! 無間地獄への第一歩です!
クオリティアップを目指すにしても最後の最後で! 大原則です。

というわけで、ちまちまちまちまと、TODOリストとかまとめながら、一つ終わるごとにチェックを入れて、ある案についてはボツにしたり、ちまちまちまちまと制作をつづけたわけです。

・そして念入りなデバッグ

あとはこのゲーム、フラグ管理が死ぬほど複雑なので、絶対に膨大なバグが眠っているだろうと、念入りにデバッグしました。
具体的にはクローズドβを二回に分けました

まず一つ目のグループにデバッグしてもらいます。多くのバグが発見されます。ゲームバランスやチュートリアルについても意見が出るでしょう。
そのフィードバックをもとに修正したものを、さらに二回目のグループにテストプレイしてもらいます。

二回に分けるのは、ある程度修正されたものをさらに初見で一からプレイしてもらいたかったからです。
そしてさらにオープンβ。なんて念入りなんだ!
こうして念入りにデバッグしたおかげで……それでも、リリース後にバグ報告はありましたけどね!

ただ、このへんのデバッグ体制を構築できたのは息抜き制作のおかげでもあるでしょう。
テストプレイヤーはツイッターで応募しましたが、過去に制作したゲームがあればこそ、参加者が集まっていただけたのだと思います。

よかった、息抜き制作は悪いことばかりじゃなかったんだね。


こうして完成した作品は、『ロリ巨乳の里にて』といいます。

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