2017年の最賃引き上げ運動の報告

8月7日に、「2017年10月1日以降の京都府の最低賃金を856円にすることが適当である」という答申が京都地方最低賃金審議会(会長 佐藤 卓利 立命館大学 経済学部 教授)から出されました。その答申への異議申出書を昨日8月21日に提出したところ、本日、京都労働局より「答申の通り次年度の最低賃金額が決まった」との連絡がありました。

2017年の最賃引き上げ運動が一区切りしたタイミングで
①「京都地方最低賃金審議会報告」
②審議会に提出した「意見書(7月23日提出)」
③「京都地方最低賃金審議会の答申に対する異議申出書(8月21日提出)」

を掲載します。
私たちの生活にとって大切な最低賃金がどのようにして決まっているのかを多くの人たちに知ってもらいたいです。

「報告」で特に注目すべき点は、「業務改善助成金」の申請が最近2年間で激減しており、経営者側の委員から「申請条件の厳しさから助成金制度そのものが使いにくくなっているという意見」が出されたことです。最賃引き上げを可能とする中小企業支援を政府が充実させていると報道されていますが、現場の実情と合わない使えない支援策のようです。審議会の答申が「(中小企業への)真に「直接的かつ総合的な抜本的支援策」を至急講じることを強く求めるものである」と述べている理由がわかります。

今後もエキタス京都は、最低賃金の大幅な引き上げと中小企業支援を求めていきます。

-----
①京都地方最低賃金審議会報告(文責:近間由幸)

 今年度、京都地方最低賃金審議会では平成29年度の京都府最低賃金の改正決定について4回に渡り審議が行われました。最低賃金額改正審議にあたって、AEQUITAS京都もこの審議会に意見書を提出し、第3回の審議会では意見陳述を行いました。以下、全4回の審議会で行われた議論と意見陳述についての報告です。

 第1回(7月14日)および第2回(7月24日)の審議会では、中央最低賃金審議会で出された最低賃金の改正に向けた方針と最低賃金を取り巻く経済動向について報告があり、その報告を基にして質疑や議論が交わされました。とりわけ、地域別最低賃金のランク区分についてと、中小企業支援事業の状況については重要な議論が行われていたかと思います。

 地域別最低賃金の賃金上昇幅を決定しているランクは、各都道府県の賃金動向を始めとする諸指標(1人当たり県民所得、所定内給与額など)を総合化した指数に基づいて振り分けられます。東京都を100として指数の高い都道府県から順にA~Dランクの4つに区分され、京都はBランクに位置付けられていますが、審議会ではこのランク区分についての妥当性が争点となりました。4つの区分は、先に述べた総合指数で一定程度のかい離が見られる部分で区分していると説明がなされましたが、実際の各都道府県の総合指数を見てみると指数の値に大きな差がない県同士でランクが別に振り分けられている部分も見られます(例えば、平成29年度以後のランク区分について、A-B間、C-D間では1ポイント以上のかい離が見られるものの、山梨県は76.5でBランクに区分されているのに対し、群馬県は76.1ポイントでCランクに区分され、両県では0.4ポイント差となっている)。残念ながら、時間の都合もあり、このランク区分の根拠についてはそれ以上言及がありませんでした。

 また、中小企業支援の実態についても、「業務改善助成金」の申請件数がここ2年程の間でも急激に減少していることが問題となりました。「業務改善助成金」は、生産性向上のための設備投資などにかかる費用の一部を助成する仕組みですが、平成26年度に44件あった申請が、平成27年度は9件、また平成28年度はわずか5件に留まっています。この原因について、使用者代表委員の方からは、申請条件の厳しさから助成金制度そのものが使いにくくなっているという意見がありました。

 そして、第3回(7月31日)の審議会では、これまで2回の審議会での議論も踏まえた形で意見陳述を行いました。意見陳述は、私たちAEQUITAS京都の他にも、京都地方労働組合総評議会、全労連全国一般労組京都地方本部の京都生協パート職員労働組合、ユニオンネットワーク・京都が行いました。いずれの団体も、中央が定める最低賃金改定額の目安に合わせて引上げていくだけでは不十分であり、京都府の最低賃金の大幅な引上げが必要であることを強調していました。

 AEQUITAS京都では、(1)最低賃金を時給1500円以上とすること、(2)最低賃金の大幅な引き上げを可能にする中小企業支援を行うこと、(3)全国一律最低賃金制度とすること、の3点の意見表明について改めて強調するとともに、その理由について意見陳述を行いました。特に中小企業支援については先の「業務改善助成金」の問題とも関連し、生産性を評価の基準とする現行の中小企業支援策の問題性を指摘しました。中小企業憲章の基本理念において、「中小企業は、社会の主役として地域社会と住民生活に貢献し、伝統技能や文化の継承に重要な機能を果たす」と書かれていることからも、生産性だけに留まらない評価軸からの助成金制度が求められています。

 意見陳述を受け、委員会からは「コンビニチェーンなどの最低賃金額に近い水準の時給で設定されている業種には今も学生のアルバイトが本当に多いのか」という質問が投げかけられました。これについては、近年では学生の側も時給の低いアルバイトを敬遠し、時給が950円あるいは1000円になるような割高な時給のアルバイトを求める動きもあるかと思いますが、例えば留学生など最低賃金の水準で働く学生も一定数存在するのではないかと考えます。学生が時給の高いアルバイトを選択する傾向も、現行の最低賃金の水準が低すぎるということの表れではないかとも考えられます。また、「若者や学生に最低賃金の問題に関心を向けてもらえるようにするにはどうすればよいと思うか」ということについても聞かれ、「仕事に見合う賃金かどうか」ではなく「生活に見合う賃金かどうか」という考えを強調していくことが必要であると答えました。このように学生や若者の実態に関心を寄せる質問が挙がったことからも、改めて最低賃金の水準で働く人々の実態を訴えかけていく必要性を実感しました。

 第4回の審議会では、今年度の京都の最低賃金額が856円に決定されたことと合わせ、中小企業支援の抜本的改善の必要性について答申が出されました。同答申では、中小企業、小規模事業者に対する支援策に関しては、全会一致であり、真に「直接的かつ総合的な抜本的支援策」を至急講じることを強く求めるものである、と結んでいます。

 中小企業支援の不十分さを強く批判していることは評価できますが、依然として中央の定める目安に従った年率3%の引上げに留まっています。これをもって大幅な引上げと言っていてよいのでしょうか。今後もAEQUITAS京都では、改めて異議申し立てをしていく予定です。

-----

②意見書(7月23日提出)

 最低賃金法25条5項にもとづき2017年の最低賃金決定に関する調査審議に関して意見を述べます。

■意見
(1)最低賃金を時給1500円以上とすること。
(2)最低賃金の大幅な引き上げを可能にする中小企業支援を行うこと。
(3)全国一律最低賃金制度とすること。

■理由
(1)最低賃金を時給1500円以上とすること。

 現在の京都の最低賃金831円では、一ヶ月あたり週5日フルタイム(計22日)で働くと考えても月額で146,256円にしかならず、健康保険や年金を差し引いた可処分所得はとても暮らしていける額ではないと考えます。現在、学生の多くは高い学費や奨学金の返済のためにアルバイトをせざるを得なくなっており、かれらは最低賃金水準で働いています。授業を欠席してアルバイトに出勤し、定期試験期でさえも働かざるを得ないというような「ブラックバイト」とも呼べる状況が近年横行していますが、自らの生活費を賄っていく必要性から、そのような過酷な働き方からも抜け出せなくなっています。パート労働者をはじめ、非正規雇用で生計を立てている人たちも増えている中で、生活していける賃金水準を求めていくことが必要だと考えます。もし時給が1500円であれば、月額264,000円、年収は約300万円になり、暮らしていけるめどが立ちます。

 また、日本の最低賃金は他の先進諸国と比較しても低い水準にあります。例えば、オーストラリアの最低賃金は約1500円、イギリス、フランス、ドイツは1200円ほどです。アメリカでも15ドル(約1600円)に引き上げることを決める州が出てきています。このように、他国の事例を比較してみれば最低賃金1500円とは決して非実現的な金額ではありません。よって私たちは、最低賃金を1500円以上に上げることを求めます。

(2)最低賃金の大幅な引き上げを可能にする中小企業支援を行うこと。

 最低賃金の大幅な引き上げを実現していくためには、中小企業支援もセットで行われていく必要があると考えます。最低賃金の大幅な引き上げが相次いでいるアメリカの雇用情勢は、現在のところ堅調です。しかし日本では、大幅な引き上げによって中小零細企業の経営が成り立たなくなる可能性があります。現状でも、社会保険料の滞納を差し押さえられたことで、従業員に給与を支払うことができなくなるという事態が発生しており、中小零細企業の社会保険料の負担は深刻化しています。「生産性」の低い企業を「ゾンビ企業」と呼び、最賃引き上げなどによって市場からの退出を促す議論もありますが、中小零細企業の地域における役割を「生産性」だけに矮小化することは間違っています。「生産性」の低い中小零細企業を駆逐することで仮に「生産性」が向上したとしても、地域社会の衰退などによって別の社会的コストがかかってくる可能性があります。よって私たちは、最低賃金の大幅な引き上げを可能にするために、社会保険料負担の減免や賃金助成などの中小企業支援を行うことを求めます。

(3)全国一律最低賃金制度とすること。

 2000年代半ば以降、最低賃金の引き上げ幅が拡大し、地方でも額が上昇してきました。しかし、地域間の格差も広がり続けています。安倍政権の下で、最低賃金を1000円に引き上げていくことが主張されていますが、それはあくまで全国平均での水準を指しており、地域間格差を是正しないままでは地方の最低賃金が1000円を超えることはありえません。その結果であると単純には言えないかもしれませんが、都市部への人口の集中が続いており、地方の衰退に歯止めがかからなくなっています。実態調査の結果では、都市も地方も生活費はそれほど変わらないというデータがあります。また、全国チェーンの拡大によって仕事内容が画一化されているにもかかわらず、賃金格差が常態化しているという現状も放置されています。この結果、労働力人口となる若者が都市部へ行くため地方に残らず、地方のサービス業では賃金水準を引き上げても求人がうまいくいかないという状況も生まれています。よって私たちは、地域間格差の是正のためにも、全国一律最低賃金制度の導入を求めます。

以上

-----

③京都地方最低賃金審議会の答申に対する異議申出書(8月21日提出)

 最低賃金法11条2項および同法施行規則8条の規定にもとづき、以下のとおり異議の申し出をおこないます。

■異議申し出の内容について

 第481回京都地方最低賃金審議会より京都府の最低賃金を時給856円とせよ、という答申がおこなわれましたが、異議があるので申し出ます。

 私たちAEQUITAS(エキタス)がインターネット上で行った、「もしも最低賃金が1500円になったら何をしたいか」を書いて下さいという呼びかけに対して、少なくない数の人々が「三食食べられるようになる」「病院に行ける」「離婚ができる」といった悲痛な回答をしました。非正規労働者の増加、正社員の賃金の低下が続くなか、最低賃金は賃金の下支えする役割を果たすようになっていますが、その額が低すぎるため、上記のような悲痛な声が集まったのだと考えられます。

 最低生計費を試算した調査によると、全国どの地域でも月に24万円程度かかり、現在の最低賃金の水準では、その額を稼ぐために約270時間(10時間×27日)も働く必要があります。私たちエキタスが主張する1500円だと1日8時間×20日で稼ぐことができます。最低賃金が低いことは、格差・貧困のみならず長時間労働や地域経済衰退の要因の一つにもなっていると言えます。

 このような現状が広がっているにもかかわらず、最低賃金の引き上げ幅は小さいままであり、労働者の生活の苦しさに対して全く間に合っていません。最賃の大幅な引き上げは、労働者の生活を改善し、将来不安を払しょくし、低迷する消費を活性化させるという点で、まさに今の日本において求められていることであり、最低賃金法第1条に掲げられた目的にもかなうものです。最低賃金審議会が求められている責任を果たそうとしていないことは、非常に残念です。

 答申において中小企業支援の必要性について強く訴えられたことは評価できますが、額については全く評価できません。それゆえ京都労働局長は、最低賃金法10条2項にもとづいて、最低賃金審議会に再審議を求めて下さい。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?