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有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(1)

これまで3回にわたり、ビジネスリスクインテリジェンスにおける情報収集について書いてきましたが、ここからは分析と処理の原則的なことについて考えていきます。
なお、情報分析のスキル的なものについて知りたい方は、この道の先輩の以下の書籍がおすすめです。このnoteでは、インテリジェンススキルに関する言及は必要なものに限ることとし、主にビジネス上の状況判断や意思決定のためのインテリジェンスの考え方を取り上げることとします。

さて、物事には原則があるとすると、インテリジェンスの原則とは何でしょうか。それは、意思決定支援という目的を踏まえると、以下のように整理されます。
1. インテリジェンスの活動が、状況判断や意思決定に先立って実行されること(先行性)
2. 状況判断や意思決定のタイミングに合わせてインテリジェンスが提供されること(適時性)
3. インテリジェンスのエビデンスと処理結果が、状況判断や意思決定の目的との関係において正確であること(正確性)
やや周りくどい書き方になりましたが、これは車の運転に例えるとわかりやすいです。

休日にドライブに行くことを想像してください。ドライブに行く前に、どこに行くか、どのルートで行くか(これは「気の向くまま」)という考え方もありますが)、高速を使うか下道で行くかなど、さまざまな目的やオプションを考えます。時間軸で言うと、これらは全て「ドライブに行く」と言う意思決定の前に行われるものです。これが「先行性」のイメージです。

次に、ドライブ当日に出発すると、高速道路上で「〇〇から30km渋滞 渋滞は増加中」という表示がありました。その情報は、目的地より2つ手前の本線上で表示されていました。このまま高速を使うか、それとも手前のインターチェンジで降りるかという意思決定に合わせて情報が提供されています。これが「適時性」です。

目的地に一つであるお食事処に到着しました。このお店はレビューの評価も高く、いつも早く行かないと行列で長い時間待つことになるとのことです。、店に入ろうとすると、あいにく閉店でした。もう一度調べると、事前に手に入れた情報はコロナ前のものであり、コロナ後は開店日を減らしたようです。そのため、お目当ての料理にありつくことができませんでした。これが「正確性」です。

これらの原則は常に独立というわけではありません。たとえば、情報収集をもっと早く始めて時間をかけることができれば、より正確な情報を入手できたり、情報のエラーに気づいたりできるので、結果として正確性が向上する確率が高まります。現実には、有事の状況に陥るような事態は突然で予期しにくい形で発生するので、先行性を確保するには、、普段から十分な情報活動が必要になるでしょう。

当たり前のことしか書いてないじゃないかというお叱りを受けそうですが、現実にはこの原則から外れるインテリジェンスがこれまで数多く存在しました。その結果、戦史であれば戦闘で負けたり、ビジネスであればマーケットから撤退を迫られるという結末につながることもあります。平時のように、資源を十分に投入し、時間をかけて情報の収集・分析・処理できる環境であってもこうなのですから、事態が切迫している、あるいは人命や安全に危害が迫っているような有事のインテリジェンスでは、状況変化や内外のステークホルダーからの圧力などの要因により、なおのことこの原則を外れるインテリジェンスが実行され、組織が思わしくない結果を受け入れざるを得なくなるリスクが高まることは、容易に想像できるでしょう。

次回からは、ある中小企業で、自社の営業秘密が元社員から漏洩してライバル企業に渡ったケースを想定して、有事のインテリジェンスの各原則について考えてみます。

※この春、リスクマネジメントの基本を解説するオンラインセミナーを開催する予定です。詳細が確定しましたらnote内に掲載します

※本連載は、中小企業診断士たる筆者個人の意見の表明であり、筆者が所属する組織団体その他の公式な見解を示すものではありません

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